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356.はいはい、恋ね、恋……。

お待たせしました。


ではどうぞ。



「親戚かご近所の子供さんですか? 可愛い女の子ですね!」


「ああ、まあ……ははっ」



 ロトワを連れて再び学校にやって来た。

 今回は家族等の関係者同伴ということで、流石に止められる。


 だが後輩らしい女子生徒は、勝手にロトワとの関係を勘違いしてくれた。



「はぅぅ! ……っ!」



 人見知りなのか、それともいきなり“可愛い”と言われたからか。

 ロトワはキュッと目を瞑り、俺の背中に隠れる。


 

「うわぁぁ! 照れちゃってるのかな!? 本当に可愛いなあぁ……あっ、どうぞ! 生徒手帳、ありがとうございます。確認できましたので」


「うっす、ありがとう」



 通って良いとのお許しを貰って歩き出す。

 だがロトワはキュッと腰にしがみ付いて離れてくれない。


 ……歩き辛い。



「……ほれっ、ロトワ。中に入ったぞ。学園祭、楽しみにしてたんだろ?」



 優しく語り掛けると、ようやくロトワは恐る恐ると顔を上げた。

 ……モンスター相手には果敢に立ち向かう姿を知っている分、少女らしい反応が可愛らしく映る。



「うぅぅ、申し訳ございませんお館様。お寝坊もしてしまい、ロトワ、ご迷惑ばかりおかけして……」  


 

 さっきのやり取りで俺に隠れてしまったこともそうだが、ずっと寝ていたことも引きずっているらしい。

 ロトワは分かり易いくらいにシュン……と落ち込む。



「…………」

 


 ……あっ、何か通行人の少年がこっちを見てる。

 年頃はロトワと同じくらいで、姉か誰かに連れられて学園祭に遊びに来たっぽい。


 赤星の所の制服を着た姉っぽい少女がウチの学校の生徒と話し込んでいる隙に、ブスっとしながらこちらを――ロトワをジーっと見ていた。 



 いや、少年、違うぞ!

 ロトワをイジめてるんじゃないからな!! 



「大丈夫だって。折角の楽しい日なんだから、沈んでたら、それだけ時間過ぎてくぞ?」



 被っている帽子の上から頭を撫でる。


 少年へのアピールも兼ねて、少し大袈裟にワシャワシャと動かす。

 すると、ロトワは髪との摩擦を嫌うかの様に、帽子をヒョイと持ち上げた。



「ははっ、何かおかしな格好になってんぞ?」


「はぅぅ……変なポーズになったでありますぅぅ……」



 だがそれが自分でもおかしかったらしい。

 クスッと笑ったかと思うと、肩の力が抜けたようにその顔に笑顔が広がった。


 こっちを見ているサッカー少年っぽい男の子は――



「…………」


 

 ロトワが笑ったのを見てボーっとしていた。

 顔を赤くし、その笑顔に釘付けになっているように見える。


 

 そしてハッとして我に返り、俺と目が合った。

 


 ――あっ、睨まれた!



 いや、だから、イジめてないって!

 ほらっ、ロトワ、俺にメッチャ良い笑顔してるっしょ!?


 誤解っすわ!

  

 

「あ、ははっ。――さっ、昼飯にしよう。屋台、出店(でみせ)……後、校舎の中なら喫茶店とかあるけど、どうする? 何か食べたい物はあるか?」



 サッと視線をロトワに戻し、気を取り直して尋ねる。


 さっきまで寝ていたと言うことで、朝ご飯もまだだと言う。

 ロトワは直ぐには答えず、屋台のあるエリアをジーっと見ていた。


 ……フフッ。

 分かり易くて、こっちは助かるけどな。



「っし。じゃあ屋台、片っ端から制覇していくか!!」



 さっき織部で同じことをしていたので、勝手も分かっている。

 むしろDD――ダンジョンディスプレイを用いた転送の一手間が無い分、もっとスムーズにいくだろう。



「わぁぁっ~! ――は、はい、であります!!」 



 ロトワも分かり易く嬉しそうに飛び跳ねる。

 織部がDDの画面前に戻ってくるまでに、昼食を済ませよう。



 俺はロトワを連れて再び屋台・出店ゾーンをはしごするのだった。 

  


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『新海君、それは恋ですよ』


「あー、はいはい、恋ね恋」



 ロトワがフランクフルトや焼きそばを美味しそうに口へと運んでいる間、戻って来た織部と話をしていた。


 傍からは画面が見えないようDDを伏せ、音声のみのやり取りとなっている。


 流石にDPを節約してメッセージにしようかと織部は気遣ってくれたが、今日くらいは目一杯使ってもばちは当たらないだろう。



『あ~! また新海君、私の話、信じてないですね! その少年、絶対ロトワさんに一目惚れしたんですって!』


「いや、信じてないって訳じゃないが……」



 応じながらもロトワの反応を気にする。

 特にこちらの会話を聞いている様子はなく、食事に夢中になっていた。

 

 お腹が空いていたんだろう、本当に美味しそうに料理を平らげていく。

 見ているこっちが気持ちいいくらいの食べっぷりだった。


 ……うん、何も気にせず沢山食べてくれた方が、俺としても嬉しい。

 


『……新海君? 聞いてますか? もう……。――まあ、無視は無視で、別に良いですけどね。こう、湧いて来るものがありますし……』


「聞いてます聞いてます!! 全力で、うっす!」

 

 

 俺は自分の胃の平穏を人質に取られているらしい。


 ……無視されるのが逆にエネルギー化するって何なの?

 お前は人類の進化系か何かなのかよ……。



『新海君、ラティアさんを始め、素敵な女性が周りに沢山いるじゃないですか。だからあんまり実感ないかもですが……ロトワさんも相当に可愛いんですよ?』


「いや、ロトワが可愛いのは分かってるって……」


「はぅぅ……」

   


 あっ、今の俺の言葉はロトワに拾われたらしい。

 さっきまでは豪快と言えるほどにパクパクと箸を進めていたのに。

 

 今はお好み焼きのキャベツをチョンと摘まんで、それだけを口へ恥ずかしそうに運ぶ。


 ……ヤバい、何かこっちも恥ずい。



『本当ですかね~? ――まあとにかく。その少年はロトワさんの可愛さに一目で恋に落ちたってことですよ』



 話が元に戻り、織部が改めて推測を述べる。

 ロトワの朝昼兼用の食事を待つ間、俺が雑談として先程あったことを軽く話したのだ。



『よくあるじゃないですか。幼い頃、親兄弟に連れられて地元のお祭りだったり、学校のイベントに行ったり。そこで、飛び切りの美少女と運命の出会いを――みたいな?』



 ああ、まあ、ラノベとかで良くある展開だな。

 その運命の少女が高校生になって、自分に会うために転校してきて、的な奴。



「なるほど……つまりあの少年はラノベ主人公だったか」


 

 チラッと見ただけだが姉っぽい人物もいたし、と言うことはハーレムラブコメ主人公かな?



「ロトワは……そのヒロインの一人ってことか?」

 

『…………新海君がいる時点で、その芽は無いと思いますけどね』



 おお、織部、良く分かってるじゃないか。

 フッ、少年、どこの馬の骨とも分からない奴に、ロトワはやらんからな!


 ロトワの保護者として、大きな壁となり立ちはだかってくれるわい!!



『……違う意味で捉えてそうですけど……まあいっか』


 

 織部が何か言っているが、スルーした。

 違う意味って何だよ、とツッコんでも織部のことだ、また謎のことを言われて引っ掻き回されても困るからな。


 


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆     




 ロトワが食事を満喫した後、体育館へとやって来た。

 時間は結構ギリギリで、中に並べられたイスの列は殆どが埋まってしまっている。


 仕方なく最後尾近くに座った。



「ロトワ、大丈夫か? 見えるか?」


「はい! ロトワ、目は良い方であります。一番前までバッチリ見えますよ?」 



 そう言ってロトワは中腰になり、最前列に座る人々の頭の特徴をあげ始めた。



「男性、男性、カツラさんを飛ばして男性、女性……」



 いや、そんな“べっぴんさん、べっぴんさん、一つ飛ばしてべっぴんさん”みたいな言い方しなくても……。

 

 でも凄いな、ここからかなり離れてるのに、男女の違いだけでなく、ヅラか地毛かまで分かるのか。



『…………』



 っと。

  


「……演劇が始まったら、静かにな?」



 勿論ロトワにも言っているつもりだが、織部に対しても確認としてそう口にした。


 

 今回はミニライブではないので、風紀委員や実行委員、教師の姿はそれほど見られない。


 なのでDDの画面を介して演劇を見せても大丈夫かと判断した。

 勿論バレないよう注意は払うが。



『――只今より、3年F組による演劇を開始いたします』



 進行役の声が、マイクから響いて来た。

 おしゃべりを止め、檀上に注目する。



 演劇の題材はやはり人気のダンジョンもの。

 木田のクラスの演劇が、始まる。




次話で多分最終日に突入できる……はず!

最終日は志木さん・皇さんの学校に、ラティア・ルオと一緒に行くことに。


織部さんも母校だからか比較的大人しくしてくれていますので、何とかこのまま2日目は行けると思います!!


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― 新着の感想 ―
[一言] >「親戚かご近所の子供さんですか? 可愛い女の子ですね!」  ご近所(ゼロ距離)の子供さんです。 > ロトワが笑ったのを見てボーっとしていた。 > 顔を赤くし、その笑顔に釘付けになっている…
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