341.後でチクってやろうかな……。
あけましておめでとうございます。
今年も当作品をよろしくお願いします!
早速更新で、本編を進めて行きます。
ではどうぞ。
「……へぇぇ。真っ先にカオリが歌うんだ」
少なからず驚いたようにリヴィルが言う。
番組が始まって本当に直ぐ、一番最初の歌手が映し出される。
それが志木だった。
「まあ花織ちゃんは普通のアーティストを含めても人気ですからね……。花織ちゃんを使ってスタートダッシュって意味じゃないですか?」
……いや、そうなのかもしれないけども。
空木よ、裏側事情も良いが、もうちょっと純粋に楽しむ思考を持とうぜ。
『~♪――』
志木が歌い始め、皆が画面に見入る。
人気や実力あるアーティストが参加し、それぞれが今年のヒット曲や往年の名曲をカバーするという番組だ。
「あっ、これですか……カオリ様の歌い方、これも凄く素敵です」
ラティアが反応したように、志木の歌っているのは今年大ヒットしたアニメの主題歌だった。
カラオケで“上半期最も歌われた曲ランキング”にも入っていて、アニメを見ない一般層にも広く知られている。
サビへと入り、一気に盛り上がる。
志木も身振り手振りで歌詞を表現しようと努めていた。
「……うん。良いね。私、かなり好きかも」
「…………おう」
あまり多くを語らず、リヴィルの呟きにそれだけで応じる。
俺も、志木の歌声に聴き入っていた。
そしてその盛り上がりのまま、歌が終わる。
「……おぉぉ! 凄いであります! 感動でありました!!」
ロトワが空木の膝上で嬉しそうにはしゃぐ。
まあ、確かに。
オリジナルとはまた違った味があって良かったと思う。
『――ありがとうございました! “歌の大運動会”、スタートです!』
ペコリと綺麗にお辞儀をして、志木がタイトルコールをする。
それと同時に大型のクラッカーのようなものが鳴らされ、スポンサーのテロップが入った。
……あっ、CMか。
「ふぅぅ……まあ流石は花織ちゃん、と言ったところですね。ただ、花織ちゃんトップは予想外でしたよ」
空木は額に浮いた小さな汗を甲で拭う。
「……だな。俺達も事前にスタンバっといて、本当に良かった」
志木の奴め、“見て感想が欲しい”とか言いつつ、自分がトップバッターだとは言わなかった。
つまり、ダラダラとテレビを点けるのが遅れただけでも見逃していた可能性があったのだ。
そしてそれは“志木を見て感想を伝える”というミッションが即座に達成不可能となることを意味していて……。
「フフッ。ちょっとしたお茶目だと思いますよ? ご主人様とのコミュニケーションのつもり、だったのではないでしょうか?」
ラティアは微笑んでそうフォローするが、それを聞いても中々納得はできない。
「あぁぁ……要はあれですか。好きな相手に上手く接することが出来ないから、意地悪して気を惹こうという。花織ちゃんもとうとう恋する乙女ですか……しみじみ」
……空木ぃぃぃ。
小学生の拗らせ男子じゃあるまいし。
お前、そんな適当なこと言って。
後でどうなっても俺は知らないからな?
そうして適当な会話を続けていると、CMが明けて番組が進んで行った。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「……ここら辺の曲は、カバーされても元ネタを知らないんだよな……」
「ですねー。まあ上手いのは分かるんで、何となく楽しむ分には良いんですけど」
ただ何だろう……。
ラノベやマンガで有名だろうネタがパロディで使われて、その元ネタが分からない時の感覚に似ている。
何となく面白いんだろうな、と言うことは分かるが、置き去り感も同時にあるって言うか……そんな感じだ。
「そうでありますか……ミオちゃんやお館様が分からないのであれば、ロトワ達はなおさらダメでありますね……」
昔のヒット曲メドレーが始まり、俺達は一時意識をテレビから離す。
丁度お腹も空き始めた頃だった。
「晩御飯の仕度も大体は出来ていますので。ご主人様達は座ってお待ち下されば……」
「ラティア、私も手伝うよ」
ラティアとリヴィルが立ち上がる。
夕食の準備でキッチンへと向かった。
「あっ、ロトワも――」
「まあ、今日は二人に任せよう」
同じく立ち上がりかけたロトワを制する。
今日は空木が、客として泊まりに来ているのだ。
特に仲の良いロトワとは、出来るだけ一緒にいてもらう方が良いだろう。
「……分かりました」
立ち上がりかけたが、直ぐ空木の膝上へと腰を下ろした。
空木がそれで、ロトワを再びギュッと抱きしめる。
「……グヘヘ、お兄さん、良いんですかぃ? ロトワちゃん、好きにしてしまいますぜ?」
「……第1話で即主人公にやられそうな三下っぽさ、流石だぜ空木。良いぜ、“虐め”ちまいな!」
俺も負けじと、四天王の中で最弱とか言われそうなキャラで応じる。
「えっ、ええっ!? ミオちゃん、お館様!?」
「グヘヘ、ロトワよ、せいぜい可愛い声で鳴くがいい!! だがどれだけ声を上げようが助けは来ないがな!!」
「おぉぉ……お兄さんも見事ですねぇ。自分で敗北フラグを立てまくる雑魚感がにじみ出てます!」
ふふっ、それほどでもないがな。
「はぅっ、はぅぅ……ミオちゃんとお館様が悪い人になってしまったでありますぅぅ!」
俺達の演技に困惑してか、ロトワは目をきゅっと結び、プルプル震えていた。
だが空木がギュッと抱きかかえているので、ロトワは逃げられない。
ふふふっ、さぁ、本番はここからだぜ!!
そうして適当にごっこ遊びをして、ロトワの可愛い反応を二人で楽しんでいた。
「――さぁ、ご飯の準備、出来ましたよ?」
そこにラティアの声がかかる。
丁度テレビの方でも動きがあり――
『――○○の皆さん、どうもありがとうございましたぁ!! さて、CMの後は、逆井梨愛さんが、あのドラマ主題歌をカバーしてくれまーす!!』
『本番、すっごい緊張してます! でも、一生懸命に練習してきたんで、頑張ります! よろしく~!!』
MCに振られ、カッコいい衣装を着た逆井が映し出された。
コマーシャルに入るからか、かなり早口で抱負を述べている。
「……フフッ、お楽しみの所申し訳ありません。お食事にしましょうか」
そしてCMに入ったタイミングで、ラティアに笑顔でそう言われてしまう。
「……あっ、おう」
「……お姉さんがサキュバスの格好して“お食事”なんて言うと、何だか本当に意味深に聞こえますね」
こら空木、いらない想像を膨らませない。
仕方なくロトワを解放し、即席の雑魚キャラごっこを終えたのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「うわっ、美味いし上手い!!」
「いや、食事と歌、どっちの感想も一度に言わなくて良いから」
空木を注意し、それから俺も箸を動かす。
今日は空木が泊りと言うこともあって、コロッケやポテトサラダと芋が主役の豪勢な夕飯だった。
俺から見てテレビは背側、リビングの方にあるので音だけで逆井の歌を楽しむ。
「……ふーん。リアが歌う系統じゃないから、ギャップがあって良いね」
「ですね。結構テンポも速い曲の様ですし。……歌うとしたらリヴィルやご主人様が合う様な気がします」
逆井の歌を耳にしながら夕食を食べ進める。
カバーしているのは、番組と同じ系列でやっていたテレビドラマの主題歌だ。
男性バンドグループの曲で、疾走感がある歌だ。
なおかつメッセージ性もある歌詞がドラマ内容とマッチして、かなり売れたと聞いている。
ただ二人が言う様に、結構カッコいい曲調なので、逆井のイメージとは違っていたが……。
「まあ上手いのは確かだな」
これに関しては合う合わないもあるだろうし、好みの問題だろう。
「梨愛ちゃんと花織ちゃんはシーク・ラヴの中でも特に上手い二人ですからね……」
ポテトサラダを美味しそうに口に運びながら、空木がグループ内部の話をしてくれる。
「……んぐっ。――美洋さんも、飛鳥ちゃん、六花さんと比べたらやっぱり上手いですし」
「……その、空木がいる、いわゆる“中立派閥”はどうなんだ?」
尋ねると少し箸を止め、考える間を挟んで空木は答えた。
「そうですね……一番上手いのは和奏ちゃんですかね。双子のお姉さんの方。で、次が多分ウチと凛音ちゃん。2位タイです」
……となると、残る一人が4位と言うことに。
空木はそこに関しては何とも言い辛い顔をして、オブラートに包みながら告げる。
「……まあ“司ちゃん”は良いんです。ランキングなんて枠にははまらない、自由さが武器で、良いんですよ」
「“自由さが武器”って……でも、ネットとかファンの間では“融通の利かない、シーク・ラヴのド真面目な委員長”って言われてるよ?」
「……“歌の話題になると、必ずあのツギミーが慌てて話題を変える程”……これも、掲示板で見ましたね」
リヴィルとラティアのツッコミに、空木は――
「――あっ、このさつま芋ご飯、美味しい!! 隠し味にズバり、出汁を入れてますね、お姉さん!!」
直近の記憶を消去した。
……いや、まあ良いけどね。
「はぁぁ……。この後は飯野さんと、後はRays――まあ梓たちか。やっぱり番宣かな?」
大きな皿に盛られたコロッケを一つ掴んで、口へと運ぶ。
丁度反対に、口の中の咀嚼が終わった空木が口を開く。
「うーん……Raysは知りませんが、花織ちゃん達は“番宣”、ではないと思います。あれです、“ライブの告知”ですね」
そう言いながら空木はコロッケへと箸を伸ばす。
……おい、だから感想に限らず、掴むのも一度に2つじゃなくていいから。
お前マジか、どんだけコロッケ好きなんだよ……。
……きょ、今日は俺の分はやらないからな?
いつかの昼食での一件を思い出し、密かに警戒したのだった。
「ライブ……ああ、そうか、確か来月だったよね?」
リヴィルが思い出したように呟く。
それを受け、ラティアも視線を宙に向けた。
「……“1周年記念ライブ”、ですよね? ――大変じゃないですか? 特にカオリ様達は合同の学園祭も控えてるのに」
そうか、時期的にかなり被るのか。
『――ありがとうございました! 凄く楽しかったです! この後もまだまだ続くから、視聴者の皆も楽しんでね!!』
逆井の歌が終わり、次のアーティストが歌い始める。
飯野さん達の番はまだ先のようだ。
「うーん……どうなんですかね? ウチは殆ど何もしてないんで、大体いつも通りですけど」
おい、良いのかそれで。
ライブって……歌とかダンスの練習とか、色々大変だってイメージしかないんだが。
でもそうか、空木は大体何でも出来ちゃう子だしな……。
「他のメンバーは……まあ学園祭が被ってる人が一番忙しいんでしょう。だから、今日もこうしてテレビにまで出てる花織ちゃんとか梨愛ちゃんには特に頭が下がる思いですよ」
……お前、本当にそう思ってるか?
志木の番の時、ディスってただろうに。
……後で感想を伝えるついでに、志木にチクってやろうかな?
俺の感想なんかよりも、よっぽど志木の関心を引くに違いない。
「ですが以前、カオリ様やロッカ様から、ダンジョンの方は結構落ち着いてきたと聞きましたよ?」
ラティアの言葉に、空木は小さく頷く。
……ってかおい、まだコロッケ食うのか?
「補助者制度がちゃんと機能してるってことでしょうね。走り始めてまだそこまで経ってないですけど。でもこれもまた、花織ちゃん達が日々、広報を頑張ってくれている結果ですかね」
補助者が探索士と同数以上、探索に同行してくれることが常態化すれば、その分だけ探索士の負担も軽減される。
そうした補助者制度の趣旨がちゃんと効果を発揮してくれているということか。
「うぅぅ……ミオちゃん凄い他人事な言い方です」
だな……。
自分もその広報・宣伝を務めるアイドルグループの一員だろうに。
だが空木はそんなことはお構いなしとばかりに、コロッケを平らげて行く。
……デザートにスイートポテトもあるんだが、食えるのだろうか。
空木の底なしの芋愛に、若干恐怖を感じたのだった。
去年もそうでしたが、今年は更に色々と挑戦の年にしたいですね。
ただ先ずは目の前のことを頑張って行こうと思います。
とりあえずは更新、そして感想の返し、ですね!




