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339.油断した!! 

大変お待たせしました。


本当にすいません、年末と言うことも勿論あるんですが。

それ以上にパソコンにアクシデントがあり、全く執筆できない状態でした。


とりあえずどうぞ。




「ほほう……お兄さん、一人でトイレに行っていたら、偶然見つけてしまった、と?」


「……新海君、良くそんな偶然にも見つけたわよね~。この子、地面の色と殆ど見分けがつかないのに」



 二人からのジトーッとした視線が飛んでくる。

 空木はともかく、逸見さんからこんな目で見られるとは……。


 連れ帰ったグラウンドドラゴン――グーさんを優しく撫でながらも、俺には手厳しい態度だった。 

 追及の眼差しから逃れようと目を逸らすと、そこには――



「……ご主人、ボクらも置いて、一人で頑張ってたなんて」


「うぅぅ……ロトワも、お館様のお力になりたかったであります」 

 


 (うる)んだ瞳のルオやロトワが。

 ……いや、だからそうじゃなくって。


 

「……陽翔様の隣に立つには、やはりもっと精進しないと、と言うことですね」



 うん、だから違うって!

 皇さん、何でそんなに悔しそうなの!?

 

 普通に織部と話してただけだから!!

 


「……新海のバカっ。一人で頑張っちゃって……」


 

 お前の親友の影響力を削ごうとしたら、全部が裏目に出ただけだよ。

 クソッ、何でこうなるんだ……。



「はぁぁ……――とりあえず、行きましょう。結局ドラゴンちゃんは見つかったんですから、後はもう階段を見つけるだけ、なんですよね?」



 追及タイムは切り上げてくれたのか、空木が率先して話を進めてくれた。


  

「おう。ただ……えっ、何で“ちゃん”なんだ?」


 

 いや、まあ普通にメスかもしれないけれども。

 でも一見しただけではドラゴンの雌雄(しゆう)なんて区別がつかない。

 

 それで若干驚いて、逸見さんの真下に視線を移す。



「ギュルゥゥ~! ギュルルルゥゥ……」



 逸見さんの手が行き来する度に、幼いドラゴンから心地良さそうな鳴き声が上がる。

 加入したばかりなのに、グーさんは早くも場に馴染んでいた。

     

 そんな幼竜と俺へ視線を往復させ、空木の方が逆に驚きの表情になる。



「えっ、あれ“オス”なんですか!? ……お兄さんが連れて来たんだからもうてっきりメス一択だとばかり」



 えっ、俺が連れてきたら、もうそれは全部メス一択なの!?

 しかも空木は皮肉でも何でもなく、本気でそう思ってたという表情をしている。



 ……ぐすん。



 織部の影響力は今なお健在だし、俺への変な誤解もあるし。

 このダンジョン攻略、踏んだり蹴ったりだぞ……。



 癒えない悲しみを背負って、攻略に向けて再出発することになったのだった。



 ……ちなみに、グーさんは立派なメスでした。

 いや、別に良いんだけどね……。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆  



「何とか見つかりましたね……」


「ああ。何かこれだけでドッと疲れたな……」



 あれから4回の戦闘を経て、1階層にある階段を見つけることが出来た。


 細長い道が続いたとあって、戦闘を回避するのが難しく。

 泥蟻(マッドアント)の群れ、そしてあの土人形の集団と2回ずつ遭遇してしまった。



「えぇ本当。……新海君がドラゴンを見つけてなかったらと思うと、ちょっと大変だったかもしれないわね」


「……それに、梓がいてくれて本当に助かったわ。ハー君もそうだけど、人形のモンスターとの戦い、殆ど梓が頑張ってくれてたし」



 逸見さんの呟きに同意するようにして、白瀬が梓に礼を言う。

 

 本当にそうだ。

 土人形(ソイルパペット)との戦闘に関してはどう戦えば効率的かが分かったとはいえ、梓がいるのといないのとでは大違いだった。



 他のメンバーも、梓がいることで精神的にグッと楽に戦えたはずだ。

 だってどれだけ現れようと、梓には全く歯が立たなかったのだから。

 


 それで土人形戦では体力も温存できて、同じくらい面倒臭いアリ達との戦いに力を注ぐことが出来た。



「……ブィッ」



 ピースサインで応じる梓を見て、皆頬を緩める。

 1階層だけでもかなり疲労感が溜まっているのに、主戦力として活躍してくれた梓はこれだ。


 まだまだ先に進んでも余裕で大丈夫だと思わせてくれる。


 ……フッ、頼もしい限りだ。



「次は守護者のいる所へ直通だし、大丈夫とは思うが。……まあ今後も頼むな」



 俺も白瀬に(なら)って、梓に礼を言っておく。

 戦闘では自分も結構体を張ったつもりでいたが、敵を倒した数では圧倒的に梓の方が上だ。


 貢献度はやはり梓がダントツだろう。



「ん。――ハルト、礼を言いたいのなら押し倒すか、感謝の気持ちを述べるかで応えて欲しい」


「助かった! うん! 梓凄い!! 梓がいてくれると本当に心強いなー!」

 

 

 半ば自棄(やけ)気味だった。


 コイツ、お礼ハラスメント、略してオレハラか!

 何か青春ラブコメマンガにありそうなタイトル!! 

 


「むぅぅ……ハルト、つれない」



 そうさせてるのが自分の言動だってことに早く気付こうか!!


 

 梓との他愛ないやり取りを始め、リラックスした雰囲気を作って休憩時間を過ごす。

 この後の他の階層をすっ飛ばせるので、その分しっかりと時間を取った。



 そしてしばらくして……。



 皆が再び準備が整った頃合いを見て、俺達は階段に出来た光に入って行ったのだった。




 浮遊感から解放され、役目を全うしたグラウンドドラゴンを抱きあげる。

 真っ先に視界へと飛び込んできたのは、今までで一番広い空洞だった。



「あら~? あらあら~? フフッ、ウフフッ――ようこそ、いらっしゃい」

 


 全員が転移し終わる頃、そんな間延びした声が届く。

 粘着質で、ネバっこい声。


 歓迎する言葉に反し、妙に警戒感を抱かせる。


 

「うわっ、蛇!? いや、蛇女!?」


「ちょっ、梨愛ちゃん、驚きすぎ。――あれは……“ラミア”って奴じゃない? よくゲームで出てくる……」 

 

 

 空木の推測を肯定するように、この広い洞窟の最奥、守護者は前へと進み出てきた。


 足の部分が完全に蛇のそれで、這うようにスルスルと移動していた。

 上半身と下半身の境界線は、鱗と素肌とが混じり合っている。


 一方で瞳の部分が蛇っぽいのを除けば、頭部は殆ど人間の美女そのものだった。

 

 アルラウネや人魚もそうだったが……守護者は例外なくモン娘なのかね。

 


「……凄いお胸ね」


「えぇそうですねー。六花さんや美洋さんみたいなナイスバディー。ハハッ、私も負けてられませんよー」


 

 いや、白瀬よ。

 逸見さんは多分、あの鱗っぽい感じの胸当てのことを言ってんだと思うぞ。



「えっ、飛鳥ちゃん!? どうしたの!? 瞳が凄い濁ってるけど!?」


「濁ってる? ハハッ、嫌だなー六花さん。三乳士(さんにゅうし)の一員たる私の瞳を濁らせたら大したもんですよー」 



 あぁ、逸見さん……。

 白瀬は今深淵を覗いてるんです。


 しばらくそっとしておいてやって下さい。



「ウフッ、ウフフ……。その子と一緒にここまで来たってことだから、攻略よ。おめでとう」



 俺達の驚きや警戒感を他所に、ラミアはゾッとするような笑みを浮かべる。

 そして平然と攻略を告げるので、更に背筋がゾクゾクっとした。 

 


〈Congratulations!!――ダンジョンLv.35を攻略しました!!〉

   


 いつも通りのこの声を聞いても、中々気を落ち着けることが出来ない。

  


「ウフフッ。そんなに構えなくても良いのよ? もう攻略は済んだんだから~」



〈Congratulations!!――特殊ミッション“ノームの挑戦状 ①”を達成しました!! 特典として“ノームの贈り物”を贈呈します〉

   


 空間に(ゆが)みが生じ、宝箱が出現する。

 漠然としたラミアへの警戒感はそのままに、ゆっくりと宝箱を開けた。



「……おうふ。……お兄さん、これ、もう裸族の衣装ですよ」


「いや、裸族って。美桜、それは言い過ぎ……じゃなかった、ごめんなさい」



 切り替えた白瀬が入っていた装備を確認して、再び凄い顔をする。

 ……普段から過激なコスプレ衣装も着ている白瀬ですら、この反応だ。


 宝箱の中にあったのは、先ず武器である。

 真っ黒な持ち手に、二つの円部分が黄土色をした立派な小槌だ。



 ……そして“防具”と言ったら誇張だと言われそうな程、薄っぺらい生地が数点。

 

 

「確かに……隠れる部分の方が少ないけれど。でも、こういう踊り子の衣装、私、見たことあるわよ?」



 逸見さんが生地とくっ付いているリングを持ち、衣装を色んな視点から眺める。

 生地がとても薄く小さい分、着た際にズレ落ちるのを防ぐ滑り止めみたいな役割りがあるらしい。 


 金色に輝く輪は太ももや二の腕あたりにフィットして、衣装のズレを抑えるということだ。



「おぉぉ~! 流石はセクシー担当の六花さん! じゃあこれでチーちゃんが着ても大丈夫だね!」



 何が大丈夫なのか、理解に苦しむ逆井のアホの子理論である。



「未開の部族のえっちぃ踊りで使われそうなエロ巫女(みこ)装束(しょうぞく)感はありますが……まあウチが着るんじゃないなら、全然良いんじゃないですかね?」


 

 おい空木、後半本音がダダ洩れだぞ。

 他人事だと思って適当かよ。



 ……でもそうか、これ、着るだろう本人(さくらだ)がこの場にいないのか。



 今までは赤星や皇さんがその場にいて、そして自分でその衣装を手に取ってくれたので、俺が勧めたり手渡す必要が無かった。


 だが今回は桜田を置いてきたことで、この踊り子っぽい衣装を、誰かが桜田に持って行かないといけない。


 そして更に言うと、今日、桜田は姉妹と共にいる 

 つまり、純粋な心を持つ姉妹がいる前で、こんな痴女力にステータスを極振りしたような装備を渡す可能性があると言うことで……。


 ……何の罰ゲームだよ。

 


「ウフ、ウフフッ……羨ましいわぁ~! ノーム様に気に入られた証よ、それぇ」



 ラミアがいつの間にかかなり接近していた。

 頭上から振ってくるようなその声にビクッとする。


 だがここまで近づかれて何もされないということは、本人の言う様に警戒する必要はないのかもしれない。


 ただ……うん、目と声が凄い粘着質なんだよなぁ……。

 

 見た目とその仕草が、余計な疑念を生ませているように感じた。



「……あぁ、指輪のことか」



 その蛇みたいな尖った瞳が示す物に気付き、箱の中からゆっくりと取り上げる。



〈Congratulations!!――“ノームの挑戦状 ①”を特殊条件を達成してクリアしました!! ノームの好感度が10上がりました!!〉

    


 指輪についていた黒い宝石が輝き出す。

 その声に合わせるように、黄色い光がまるで液体のように中の1/10程を満たした。



「ウフッ、ウフフ……ノーム様に気に入られた貴方も、とーっても素敵っ。食べちゃいたいくらい。ウフフッ!」



 ラミアは指輪と俺に視線を往復させ、獲物を見る目で微笑んだ。

 無自覚だろうが細長い舌がチロチロと出ていて、全く冗談に聞こえなかった。



 ……うん。

 ちょっと今日は予定が詰まってるというか、“蛇柄は避けるが吉”って運勢占いで見たって言うか……。



 

 ――そ、そう言えば桜田は今頃どうしてるだろうな~!



 逃走も兼ねて、逆井へと話題転換に尋ねてみた。

 志木達のグループ内では赤星に次いで、逆井がよくDDの管理を任されているからだ。  



「……えっ? ――ああ……だから、チーちゃんと連絡とりたいんなら、アタシらのDDと通信、繋げば?」


「あっ、そうなのか? ふーん……」



 つまり、今は俺達に何かあった場合に備え、桜田が共有のDDを持っていると言うことだ。


 ラティア達と一緒に家にいるはずだし、攻略の報告も兼ねて連絡しておくか。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『――あっ、先輩っ!! どうでしたか!? 大丈夫でしたか、皆さん!!』


 

 通信を繋げて画面に映った桜田は、開口一番に俺達の身を案じてくれた。

 桜田が気にするだろうと苦労したことは告げず、攻略が完了したことを伝える。



『そうですか……ホッとしました。何だか私を呼ぶ声もスーッと消えて行ったので、もしかしたらと思ってたんです』



 そうか、攻略したから、精霊の声は引いたんだろうな。

 桜田が本当にホッとしたような姿を見て、こちらも安堵する。



「……ってか知刃矢ちゃん、ちゃっかりお兄さんの部屋にいますね」


 

 そして空木に指摘されてよく見ると、桜田はレイネと二人で俺の部屋にいた。

  

 空木は何か含みがある言い方をするが、要は妹さん達に聞かれないよう気を利かせて移動したんだろう。


 ……俺の枕が何か凄い抱きしめられてるけど、それも、さっきまで心配してくれてたからだよね? 

 心労が積もって積もって仕方なく、的な感じだよね?



 とりあえず話の流れで都合が良いので、あの手を付け辛い、痴女衣装の件について触れることにする。


  

『? あぁ……あの颯先輩とか律氷ちゃんみたいなえっちぃ奴、ですか? ってかそれは私が貰って良い物なんでしょうか?』



 いや、俺が貰っても使い道ないし。

 着る着ないはともかく、やはり桜田本人に持っていてもらうのが一番だと思う。


 今までの赤星や皇さんの例からしてもそうだ。   

 精霊に気に入られた桜田本人じゃないと意味がない装備の類だろうしな。

       


『分かりました……じゃあ戻ったらお願いします』


「おう」



 とりあえず報告もしたし、相談も済んだ。

 今回は不慮(ふりょ)の事故で、ラッキースケベ的なイベントが発生することも抑えられている。

 

 ダンジョン攻略の過程自体は疲れたが、意外に良い感じで終われるかもしれない。



 ――そんな油断が、心の隙を生んでしまう。



『お疲れ。ラティア達にはあたしが伝えておくから。皆、無事帰って来てくれよ?』



 レイネが気遣ってそう声を掛けてくれた。

 俺も更に安心し、確認事項だけを伝えて通信を切る準備に入る。



「おう。……ああ、そうだ。分かってると思うけど、なんかあってもスマホじゃなく、DDにメッセージを送ってくれよ?」


『あぁぁ……分かりました。そりゃダンジョン内ではスマホはダメですもんね』 



 桜田が納得したように頷いて返してくる。

 もう完全に日常に戻った気で、俺も冗談を言ってしまう。



「頼むぜ? 何かやらかしそうだな……逆に俺の方からメッセージ送っても、スマホで返すなよ? “桜田、返信(へんしん)”は――」



“意味ないからな”と言い切る前に、異変が起きた。

 



『へっ――』




 桜田の服が、弾けた。

 

 まるで“桜田、返信(へんしん)”を“桜田、変身(へんしん)”だとでも受け取ったように。

 桜田の体が光り、それと対応するように、こちら側にある指輪も輝きだした。


 

 ――えっ、こんなに離れてても、しかも今の言葉で反応すんの!?

  

 


 俺達の驚きなど、全て置き去りにして、現象が続いた。

 ややあって、桜田の体から光が収束する。



 そしてそこには――



『えっ、何が起こって……――あっ、なっ、何ですか、これは!? 私、何でこんなエッチな服を!?』



“裸族”や“えっちぃ踊りで着る”などと評された衣装を身にまとった、桜田の姿があった。



「……うわっ、これ実際に着てる所を見ると改めて凄いですね。もうエロゲーでヒロインとして出てきても何ら違和感ありませんよ」



 ……空木、もう良いからお前は口を塞いでてくれ。

  

  


 そしてその後、桜田の悲鳴を聞きつけた妹さん達が部屋に駆け付け、更に一悶着あった。




 ……うぅぅ、折角桜田を置いてきてまで攻略したのに。

 最後の最後で油断した。



 クソッ……。


 

 とうとう3人目に織部の魔の手が伸びたのを感じ、俺は半ば挫けそうになったのだった。

 

これで桜田さんも仲間入りを果たしましたね、ちゃんとまとまったし良かった良かった(白目)


……これで被害者が3人に。


勇者の皮を被った魔王(?)「力を得るには、それ相応の対価が必要なんですよ!!」


……こんな声が聞こえてくるようです。


年内の更新は多分まだ後1回は頑張れると思います。

ただ、また感想返しが滞り気味で申し訳ないです。


何とか年を越さないように、とは思っているんですが、もしかしたら超えちゃうかもしれません……。

すいません!



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― 新着の感想 ―
[一言] >グランドドラゴン もしかして:グラウンドドラゴン グランド:大きな、壮大な。 グラウンド:地面、分野。  地面竜? >この子、地面の色と殆ど見分けがつかないのに  地面竜だ。 > え…
[一言] さらばちはやちゃん。 そしてようこそブレイブ道へ! 次は空木ちゃんてすね!(え
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