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327.今後かぁ……。

お待たせしました。


ではどうぞ。



『“大精霊”ってあれだよね……ハヤちゃんとか、律氷ちゃんとかの装備をくれた、何か親玉みたいな?』



 PC画面の向こうで呟かれた逆井の言葉に、俺達は皆微妙な反応になる。



「いや、まあ言わんとするところはそうだろうけど……“親玉”って言い方はどうよ」


「あ、あはは……」


『だね。……ただ、私や律氷ちゃんもそうだったけど、要は強い精霊さんに会いに行って、力を借りようって事でしょ?』



 苦笑する赤星はしかしそれで終わらず、上手いこと纏めて要約してくれる。

 


「だろうな。――地球(こっち)のダンジョン事情とも関わるから、それは是非頑張ってもらいたい」


『うん! でも、ハヤちゃんも律氷ちゃんもいいな~。何か秘密の力でパワーアップって感じじゃん?』



 これまた逆井の言葉に、俺は完全に同意することはできなかった。

 いや、確かに力を得て特別感が備わったのはその通りなのだ。


 だが赤星も皇さんも、それ相応の代償を払っている。

 ……俺なら夏でも絶対嫌だな、力を得る代わりにあんな痴女い恰好になるなんて。

 


『それに加えて、柑奈もその大精霊? っていうのに力借りに行くんでしょ? なんかアタシだけ置いてけぼりだな……』


 

 置いてけぼりにされとけって、逆井。

 むしろ正道に引き返すチャンスだぞ。


 俺はいつでもお前を受け入れるからな、待ってるぞ。 



『フフッ、でも、そう言っていただけて良かったです。――頑張りますよ、私!』



 あまり頑張らないで欲しい。

 織部が頑張ると、ろくなことにならない気がする。



『大精霊さんと仲良くなって、目指すはストーカー撃退です!』



 ……ま、まあ精霊をもっと変な事に利用されるよりはマシか。


 大精霊となったら、俺やレイネが斥候(せっこう)の真似事をしてもらっているが、それ以上のことを出来るだろう。

 そんな存在と織部の性癖が化学反応を起こしたらと思うと……ヤベェ、絶望感が半端ねぇぜ。 

 

  

「……フフッ、カンナ殿、目的が凄くちっちゃいであります」

  


 ロトワがバカにする感じではなく、純粋におかしいと言う様にクスクス笑っていた。

 ……ロトワ的にも思うところがあって、だがそこで織部の発言があまりに自分の思っていたことと離れていたからだろう。



 ロトワは“未来の自分を呼ぶことが出来る”というとても強力な力を保有している。

 ただその分よからぬ輩にその能力、そしてロトワ自身を狙われることも多かったと聞く。


 

 だから、織部が大きな力を求める理由が凄く俗物的というか身近なもので、思わず笑ってしまったんだと思う。



『むむっ!! ロトワさん、これは結構私としては切実なんですよ!! ……ですが、そうですか。これが小さいとなると、もっとでっかく目標を掲げた方が良いんでしょうか……』


「大精霊と契約なんて、ボクも殆ど聞かないしね……うん、カンナお姉さんなら出来そう! だから、もっと大きくでっかく考えても良いんじゃないかな?」


「ですです! カンナ殿なら悪いことには利用しないと思うであります! だから大丈夫でありますよ!」



 やめろ下さいお願いします! 

 クソッ、ルオとロトワが取り込まれた!



 こうなったら――




 精霊の痴女利用、はんたーい!

 はんたーい!!


 精霊は崇高な存在です、エロいことに使おうとするなー!

 するなー!!



 脳内で座りこみしながら反対運動を密かに立ち上げ、織部に一人で抵抗する決意をしたのだった。 

   


 大精霊達の未来は、俺が守らねば……!!



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「まあ大体の話は分かった。結局はシルレ達ともちゃんと連携取って動くんだな」


『はい。王国の領内で“土の大精霊 ノームの(ほこら)”があるそうなので、先ずはそこを、サラと目指そうかと思います』



 ネジュリとの話し合いが終わった後、改めて織部が簡単に説明してくれた。

 織部とサラ二人きりということではなく、要は空いている五剣姫の誰かが代わる代わるで織部をサポートしてくれるらしい。


 ネジュリ本人はそう自由が利かないので旅の同行は難しいが、後方支援は任せろと請け負っていた。



『まあ五剣姫の皆様は本来それぞれが領地を持って経営もされていますからね……全員が全員、今後もずっと自由ということは難しいんでしょう』



 サラの言葉を受けて、逆井や赤星も静かに頷く。

 思う所があったのか、二人とも話を聞きながらも視線はどこか別の所を捉えているように見えた。




 今後のこと、つまり変わらず俺達地球組が織部をサポートすることを確認して、異世界関連の話を終える。

 その後、織部が思わずと言った感じで切り出してきた。



『――えっと……皆さん、進路はどうするんですか?』


『あっ――』

 

『進路、かぁ…………』

 


 逆井も、そして赤星も。

 その話が来たかと同じ様なリアクションをした。


 もしかしたら“織部の異世界での今後”の話を聞いていた時に、このことを考えていたのかもしれない。



『その、私は多分今年中に異世界を救うっていうのは難しいでしょうから、来年に期待ですね! ただ、帰ったら先ずは……うーん、とりあえず新海君のお家に避難です!!』



 少し微妙な雰囲気になったのを察したのか、織部は自身のことを茶化すようにして告げる。

  

 ……まあ、そう言う事なら。



「……おいおい、来年はもしかしたら俺、家にいないかもしれないぞ? 受かる大学によっては、下宿ってこともあるからな」


『あっ、そう言えばそうですか……むむっ、では新海君無しのお家で、ラティアさん達と私とで暮らすということで……』



 それは最早俺の家と呼べるのかどうか……。

 親父や母さんはどうせ海外だろうし……って、え!?



「……ご主人、いなくなるの?」 

 

「……お館様?」


 

 ルオとロトワの不安そうな瞳がこちらを向いていた。


 いやっ、これ、あれだから!

 織部の冗談に付き合っての軽い話だって!!



「だ、大丈夫だって! 俺、家から通える所、ちゃんと受かるから!」



 志木からもそこへと照準を合わせるよう口を酸っぱく言われていた。


 ……国公立だが、今の所はお墨付きを貰ってるので大丈夫と思う。

 受かったら“送り迎えもウチの車で考えますから”とまで言われているので、冗談でもないはずだ。

 


『そ、そうですよ! 新海君はほとぼりが冷めるまで私を匿ってくれるっていう使命がありますから! そのためにも絶対受かって、皆さんの傍にいてくれますって!』



 自分の言葉から始まったことだからか、織部も必死に俺をフォローしてくれた。

 そうしてやっと、二人の表情から不安が消え去る。


 

「そっか……良かった」


「……であります」



 ふぅぅ。

 でもそうか……大学に受かったら受かったで、考えないといけないことも多そうだな。


 その時ダンジョンの件は、果たしてどれだけ片付いているんだろうか。

 むしろ今よりも悪化して、楽しい嬉しいキャッキャウフフのキャンパスライフなんて考えられないようなくらい、忙しいかもしれない。



 勉強もそうだけど、色々と。

 今以上に頑張らないとな……。 



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『あはは、良かったね。……でもそっか、進路か~。……ハヤちゃんはどうするか決めてんの?』



 ルオやロトワに温かく笑いかけた逆井は、赤星へと今後を尋ねる。

 二人ともシーク・ラヴ、そして探索士と、同じ時間を共有することも多いだろうが、そこはまだ深入りしたことはなかったらしい。



『私? うーん……無難に大学かな~。勉強は大変だけど、コツコツ時間作ってやってたしね』


「へぇぇ~流石だな。……アイドルとか探索士の方はどうするんだ?」



 素直に感心しながらも、気になったことを問うてみる。

 赤星は苦笑しながらも答えてくれた。



『あはは、それも続けると思うよ? というより、推薦枠とかで入るんなら、学校側が私に感じてる魅力って、勉強面よりもそういう集客面だろうしね』


「うわー。ハヤテお姉さんの自己分析が何かかえって世知辛い感じだね」


「世知辛いであります……」



 ルオもロトワも何となくは赤星の言うことが分かるのか、渋い顔だ。

 まあ確かに、赤星が切れ者で頭も回るってことを熟知しているのは俺達のように良く接する機会があるからで。

 

 来て欲しいと思う大学としては別に頭が良かろうと悪かろうと、今の赤星の人気・知名度の方にしか興味はないんだろう。

 


「……で、逆井はどうなんだ? 同じく大学か?」


『ん~どうだろうね。アタシも結構声はかけてもらってるよ? でもさ、今でも学校に勉強面では融通利かせてもらっても大変だし。それに別に大学行ってやりたいことがある訳じゃないしな~』


『……それでも良いと思うけど?』



 大学に行くかもと言った赤星がそう告げてみる。



『でもさ、時間って限りあるじゃん? 大学行ってやりたいこと探すのも良いけど、今既にやってるアイドルとか探索士の方に力入れた方が何か良い気がするんだよね』



 ……そういう所、意外にちゃんと考えてるんだな。

 まあ逆井はそう言う奴か。


 ちゃらんぽらんな頭空っぽギャルに見えて、中身はキチンとしている純情ギャルである。



『……何か今、新海にバカにされた気がした』


「……気のせいだ」


 

 なーんか最近俺の脳内盗聴され気味じゃない?

 近頃の女子は皆、俺の脳内独り言にだけ、直感がリヴィル並な件について。



『変なこと考えてる時の新海が分かり易すぎるだけだと思うけど……まあいいや。――それに今のアイドル活動も楽しいし、ダンジョン探索士もやり甲斐感じてるからさ。今ん所は、そんな感じかな』



 と言うことは、進学には消極的らしい。

 ……まあそれも一つの選択だろう。


 逆井はダンジョン探索士としても、そしてトップアイドル“シーク・ラヴ”の一員としても大成功を収めている。


 高卒が最終学歴になろうとも、幾らでも他に活躍の機会はあるだろう。  


『そうですか……梨愛らしくて良いと思います。――あっ、ただもしこの先アイドル引退になっても、脇のガードを緩めてはダメですよ!? “ちょっとビデオに映って男性の前で自己紹介するだけだから”とか言ってくる大人についていったらダメですからね!?』



 お前は何の心配をしてるんだ!?

 


「? ……ご主人、何のことなの?」


「そう言うことを言ってくる大人の人が、いるでありますか?」



 ほらぁぁ、ルオとロトワが興味持って聞いてきちゃったじゃん!! 

 織部、テメェこのっ!!


 

『……織部さんはつまり、探索士としての肩書を悪用しようと考える大人もいるから、それに気を付けろってことを言いたいんじゃない?』



 俺が織部を睨みつけていると、赤星からそんな助け船が出される。 

 しかも、赤星は別にこの場を乗り切る言い訳として口にした感がない。


 




 ――つまり、本気(マジ)である!




 いや、違うって、織部はもっと下世話な意味で使ってんだって!

 でもあぁ、クソッ、今回ばかりは赤星の勘違いが良い方向に働いている!!


 まだ完全に汚染されてないからこそ出来る発想か……チクショウ。




『そ、そうですそうです!! 流石は颯さん!! 私の言いたいことは正にそうで、探索士って、聞く限り凄く国からの手厚い保護があって、梨愛がアイドルを辞めるとそれに群がって来て――』



 赤星の勘違いに上手いこと乗っかって無事、織部はルオとロトワの追及を逃れた。


 

 チッ。

 尻尾を出して早くその本性がバレればいいのにと思う反面、バレてルオとロトワの情操教育に悪影響が出るのも避けたいと思ってしまう。


 

 織部の扱いも今後、今以上に色々と頑張らないとな……。

次にリヴィルの小さなお祝い回ですね。

やはりそれで予定通り、夏休みは終わりになりそうです。


多分明日も更新頑張れると思うんで、土曜とか日曜とかの早めに終われそう、かな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 赤星というナチュラル織部キラー 暴走をある程度抑える事が出来る
[一言] > だが赤星も皇さんも、それ相応の代償を払っている。 > ……俺なら夏でも絶対嫌だな、力を得る代わりにあんな痴女い恰好になるなんて。  新海さんなら定期的に古着を提供するという代償に変更して…
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