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287.何故それで行けると思った!?

お待たせしました。


すいません、どうも疲れが溜まってるようだったので、思い切ってお休みしました。


ではどうぞ。




「――ゴッさん、今ッ!」


「ギシッ!!」


 

 梓の声に応え、ゴッさんが果敢(かかん)に攻め込む。

 初めて自分達が主体となるボス戦。


 それだけでなく、師である梓から課された試験でもある。 

 気合いの入ったゴッさんは、ブヨンとした大きな芋虫を切り裂いていく。 

  


「ブニュゥゥ――」



 大きく仰け反り、口を天に向けて突き出す。

 捕獲ネットを発射するように、糸を天に向けて放つ技の前兆だった。



 ゴッさんやゴーさんのための、ダンジョン間戦争の攻略戦。

 その中でのボス戦ということで、どこにいても自然と警戒感が高まる。


 ……が。



「――させない」


 

 梓が素早くその横っ面を脚で蹴り抜く。

 重く鋭いキックはそれだけで、一つの大技のようだ。


 ビッグワームはゴロゴロと転がって行く。

 それを見て、またゴッさんが分厚い外皮を次々と切って行った。


 よし、こっちは問題ないな――



「逆井っ! そっちは大丈夫か!?」  


「――うんっ!! “ゴムゴム”のおかげで! 何とか“さなぎ”の段階で止まってる!!」


 

 答える余裕くらいはあるようだ。

 逆井は“ゴムゴム”――ゴーさんと上手く連携を取りながら、もう1体のビッグワームと戦っていた。



「――!!」



 不気味な青紫色をしたさなぎのモンスターは、器用に突進していく。



「Gigi,gi!!」



 ゴーさんはゴーレムとしての硬い体で、それを受け止める。

 衝撃は大したことなく、そのままパンチを入れていた。



「よっし!! ゴムゴム! そのまま、そのままね!!」



 胸倉を掴んで殴り続けるような恰好のゴーさん。

 それを見て、逆井はゴーさんの盾から抜け出す。


 そしてその槍で一気にケリを付けにかかった。




「――繰り返しますがっ、“(ちょう)”にしてはダメです!! 蝶になると、一気に戦闘難易度が跳ね上がりますっ!!」



 俺の隣で、ラティアが4人へと大声で告げる。

 このボス戦が始まった当初から警告し続けていることだった。



 始まりは、同じようなビッグワーム5体との戦闘だった。

 それを、俺とラティアが協力して3体討伐し、残り2体。



 そしてそのうち1匹が、戦闘途中で“さなぎ”へと姿を変えていたのだ。

 



「大丈夫、これで終わる――」



 

 梓が、確定事項を告げるようにして言う。

 

 その脚――黒いブーツに、暗い光が集まって行く。

 そして、強いエネルギーがその足先へと貯まって行くのが一目で分かった。


 

「梨愛、ゴーさん、こっちに――」

 

「えっ!? あっ、うん! ――ゴムゴムっ! これ、あっちに!!」



 梓の指示を瞬時に理解し、逆井はゴーさんへと更に指示する。



「Ggggg!」



 ゴーさんは掴んでいたさなぎを両手で持ちあげた。

 そしてフリースローでもするように、さなぎを梓の方へと放り投げる。



「ギシッ!!」



 そこに待ち構えていたのはゴッさんだった。


 縦横無尽(じゅうおうむじん)に切り裂かれ、ボロボロになっている巨大芋虫。


 それを、飛んできたさなぎと丁度ぶつかるように、下から強引に切り上げた。



「【黒爪(グラビティ・スラッシュ)】――」



 淡々と動作に入る。


 梓が足を振り切ると、エネルギーの塊が黒い刃となって飛び出した。

 芋虫とさなぎへと一直線に向かっていく。

 


 黒い刃、そして2体がぶつかるのはほぼ同時だった。

 


 ――その瞬間、目に見える重力場のようなものが出現する。


 

「ブニュゥゥゥーーーーー!?」 


「――!?」



 モンスター達の断末魔のような声が上がる。


 刃の接触面だけ何倍もの重力がかかっているかのように、ボコッ、ボコッと音を立てて(へこ)んでいく。

 

 それだけにとどまらず、黒い刃は刃で、モンスターの体を切り裂くまで止まらないというように突き進んでいた。


 

 重力で凹んで弱体化した部分を刃が切り開き、更に奥へと進んだところにまた重力場が発生し、物理的に凹ませていくのだ。 

  


「わぁぁ……エグっ……」



 逆井が思わずといったように呟くのも無理はない。


 折り重なった2体はやがて、真っ二つにされた。

 そしてお腹の周辺だけが不自然にボコボコにされ、体液を垂れ流している。



  

〈Congratulations!!――ダンジョンLv.21を攻略しました!!〉

 


〈Congratulations!!――“ダンジョン攻略戦”に勝利しました!!〉




 いつもの音が聞こえ、変則的なパーティーでのダンジョン攻略は、完全勝利に終わったのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「いやぁ~新海、さっきの凄かったね!」


「ああ。あんな大技を何でもないように使えるなんて羨ましいな」



 攻略を終え、リラックスして逆井と言葉を交わす。

 俺の“灰グラス”と違い、梓のは明らかに戦闘特化。


 ゴリゴリのインファイトもできれば、さっきのみたいな遠距離からの攻撃もできる。


 

 パーティーに一人いれば、これだけ頼もしい奴もいないだろう。



「梓ちんって柑奈のいる世界でも強かったんでしょ? いや~もう地球(こっち)じゃ無双状態っしょ!」 


「……ダンジョンがまだそこまで難易度高くないだけ。私一人だといずれは行き詰まる」


 

 逆井の言葉に、梓は率直に返す。

 少し素っ気ない気もするが、梓としては言葉通りでそれ以上の意味はないんだろう。



 ……俺達の中じゃ一番ダンジョン経験がある梓がそう言うんだ。

 やはりダンジョンってのは奥が深くて、もっと厳しい物でもあるんだろう。



 ……それと逆井、梓に“ちん”を付けるな。

 梓が普段は男装してることもあって、ちょっとややこしくなるから。




「ふーん……そっか!――じゃアタシ、ラティアちゃんとこ行ってくるね!」


「おう」



 逆井は特に言及せず、そう言うものかと受け止める。

 そして切り替え、撤収の準備を進めるラティアの下へと向かった。

 

 後で織部との通信も控えているから、かな?

 流石に今のやり取りで傷つくようなたまじゃないし……。



「……まあ分かってると思うけど、逆井(アイツ)も悪い奴じゃないから。今後も適当に相手してやってくれ」



 梓は人の好き嫌いはあまりないとは思うが、念のためフォローを入れておく。   

 アイドル関係でも付き合いはあるだろうし、一応、な。



「大丈夫。梨愛も“シーク・ラヴ”の皆も良い子ばかり。ラティアが――っと。ハルトがハーレムに加えたがるのも分かる」 

 

「……今聞き捨てならない言い間違えしなかった?」



 そこ間違うと、俺も動かざるを得ないよ?

 ってか主語がどっちでも、ちょっと待てと言いたくなる。



「…………ところでハルト、日本の夏は暑い」


「おい、露骨に話変えんなし」 



 話題の転換の仕方下手くそかよ。

 梓は俺と視線を合わせようとはせず、せっせと帰る準備を進める。



「ダンジョン内の方が涼しい。それでも、やっぱり汗はかく。……ふぅぅ。ブーツは蒸れる」



 もう強引にその話で行くらしい。

 

 梓はブーツを脱ぎ、そしてその下に履いていた靴下も脱ぐとスッキリした表情に。


 ……いや、俺の追及を逃がれられたと思ってるからかもしれないが。

 

 そうはさせん。

 無言の圧力を加えると、梓は目を合わせぬまま、声を落として告げる。

 

 


「……ハルト。さっきのことはどうか忘れて、ここだけの話にして欲しい。勿論、タダでとは言わない――」  


 

 あっ、やっぱりあれは失言だったっぽい。

 梓め……ラティアと知らぬ間に通じてたな?



 ジーっと睨みつけると、梓にしては珍しく後ろめたそうに顔を逸らす。

 そして言い訳するように、そそくさと貢ぎ物を手にしたのだった。



「こっ、コレ。お気に入りのソックス。脱ぎたて、ムレムレ! 一足だけじゃない、左右セット! これをハルトに進呈する!!」 



 両の掌に乗った、折り畳まれた靴下を突き出してきた。

 強引に押し付けられる。



 ついさっきまで履いていた物だからか、ブーツが覆っていた太ももの部分までしっとり湿っているように感じた。



 いや、何でこれが口止めの賄賂(わいろ)になると思った!?



「後は嗅ぐも使うも自由にしていい! でもハルトは受け取った、だからこれは二人だけの秘密! 絶対、ラティアには言わない、いい!?」



 強引に押し付けただけだろう、そう言わせないような凄みを感じた。

 ……ラティアとの密約の内容、どんだけ凄いんだよ。



 ってか男の俺が異性のソックスを“使う”って何だ!?

“嗅ぐ”は分かるが……いや“嗅ぐ”も違うな!!



「――うわっ、ちょっ!? ゴブゴブ、何でそんなケンカ腰なんだし!? ってかラティアちゃんとゴブゴブ、そんな相性悪かったの!?」



 逆井の慌てたような声が聞こえてきた。

 敏感に聞きつけ、これ幸いと梓はこの場からの逃走を開始する。



「むっ! ケンカ、ダメ! 私、少し様子を見てくる――」


「あっ、おい……逃げやがった」 

 


 残ったのは、掌に乗せられた紺色のソックス。 

 まだ生温く、湿り気を手に直接伝えてくる。


 

「どうすんだよ、これ……」



 このまま隠すとすると、洗ってないから何か不潔な感じがする。

 かといって洗濯機に入れようものなら、他の誰かに見つかった場合にヤバい。


 洗濯当番が誰の物かと持ち主探しをするだろう。

 そして誰の物でもなく、女性用のニーハイを俺が隠れて洗濯機に入れたとバレた場合――




“おっしゃって下されば着用直後の物くらい、幾らでも差し上げますのに。それをバレない様コッソリと入手して洗濯しようとなさるなんて……クスッ、お可愛いこと”




 ――ぎゃぁぁぁ!!



 そんなことを言われる未来がありありと想像できる!!

 クッ、ど、どうすれば――




 

 ――bibibi,bibibi.




 そんな時だった。

 DD――ダンジョンディスプレイが鳴ったのは。



 んっ? 織部か?    



 予定の時間よりは早い気がする。

 何だろう……。




 そうして頭を抱えつつ、前倒しでの連絡を不思議に思いながら。

 俺は、織部からの通信を繋いだのだった。




皆さん、織部さんからの連絡だからって悪い予感を抱いてはいけません!

織部さんだって連絡くらいするんです!


繰り返します。

織部さんからの連絡に第六感を発動させたり、身構えたりする必要はありません!



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― 新着の感想 ―
[一言] >  ゴーさんはゴーレムとしての硬い体で、それを受け止める。 > 衝撃は大したことなく、そのままパンチを入れていた。 > 「よっし!! ゴムゴム! そのまま、そのままね!!」  効かないねえ…
[一言] あぁ 次話はブレイブ回なのですね 準備は出来てます。 ばっちこーいです!w
[気になる点] 作者さんのお言葉を頂いても。 ……ブレイブさん、前科しかないんだよなァ
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