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284.おお、魔法だ……。

お待たせしました。


ではどうぞ。



「へぇぇ……そうなんだ。てっきりもっと長いのかと思ってた。お兄さんとお姉さん、凄い信頼し合ってる感あるから」


「も、もうミオ様ったら……そんなに褒めて頂いても何も出ませんよ?」


「とか言いつつ、ポテトチップスを用意し始めてくれるお姉さんマジ神」



 着替えを待つ間、ラティアと空木は楽しそうに談笑していた。

 キッチンの椅子に腰かけるこちらまで笑い声が届いて来る。 



 これから向かうのは、攻略済みのあの人魚のダンジョンだ。

 あまり気を張らずにリラックスできているのだろう。



「ラティアの方が1つ年上なんだよな……」

 


 短い呟きながらも、前に座っていたリヴィルは俺の言葉の意味を理解してくれたらしい。



「呼び方のこと? まあ確かに。ラティアは“ミオ様”で、ミオは“お姉さん”って呼んでて、ちょっと不思議な感じはするね」



 おお!

 そうそう!

 

 余すことなくそれを言葉にしてくれて、なんだかスッキリする。


 リヴィルって相手の気持ちとか考えを読み取る力、結構あるよな。

 ラティアとは何と言うか、別ベクトルで。



「……リヴィルお姉さんも、お兄さんと以心伝心(いしんでんしん)みたいな感じするよね。これで会ってから1年経ってないんでしょ?」



 聞こえていたのか、空木がこちらの話へと割って入ってくる。

 ……実年齢は下なリヴィルも“お姉さん”呼び。


 見た目や振る舞いの成熟さで判断してるんだろうな……。




「そうだな。――もうちょっとで1年か……時間が経つのは早いな……」



 空木に答えた後、独り言としてそう呟き。

 この1年であったことを振り返る。



 ここにいる全員が、1年前は全くの赤の他人だったのだ。

 それを思うと、ジェットコースターのように物凄い速さで色んなことがあった1年だと実感する。



「どうぞ、お召し上がりください――そうですね……ご主人様と出会って、皆やミオ様達と出会って。沢山のことがありました」



 お皿へ移したポテトチップスを空木に渡し、ラティアも同じように過去を懐かしむ。


 ただ俺とは違い、振り返る思い出全てが愛おしいというような表情になる。

 くすぐったそうで、でも純粋に嬉しそうでもあって……。

 


「――お待たせしました。準備が整いました」



 脱衣室にいた二人から声がかかる。

 そこで話は打ち切りに。



「ぬぉ!? い、今チップスちゃん達が来たばかりなのに……!」


「フフッ、ミオ、“チップスちゃん”って、もう何でもそうなんだね、呼び方が不思議なのは」



 リヴィルのツッコミに一緒に笑いながらも、ラティアやリヴィルの様子を盗み見た。


 2人が地球(こっち)に来て、沢山の祝い事の日を一緒に過ごした。

 ラティアも“出会って1年”という日を多分意識している。



 誕生日を祝う習慣が無く、パーティーめいたことを何もできなかっただけに。

“出会って〇周年記念”くらいは祝ってあげたい。




「――申し訳ありません、皆様。……やはり少し、着替えに手間取ってしまいまして」


「ゴメンね、何回着替えてもやっぱり恥ずかしいのは恥ずかしくて……あはは」


 

 椎名さんの後に続いて入って来た二人の言葉で思考を中断する。


   

「いや、今からでもどんどん時間使って良いんだよ! ウチ、これからチップスちゃん達を食べつくすっていう使命が――」  


「空木様。後にしてください。貴方も時間に余裕があるわけじゃないでしょうに……」



 椎名さんの呆れるような声。

 この声音は……セーフか?

 

 俺に怒ってたりしない?



 恐る恐る振り返り、待ち人――着替えた皇さんと赤星を視界に入れた。

  


「う、うぅぅ……恥ずかしい、ですね。この胸のベルト、キツ目にしないとポロっとズレ落ちちゃいそうで」


「あ、あははっ……律氷ちゃんの格好もまた凄いよね……さ、さぁそろそろ行こっか」



 二人はそれぞれウンディーネ、シルフの贈り物である装備に着替えていた。


 そして気恥ずかしさからか視線を彷徨(さまよ)わせ、早く目的の場に行こうと急かしてくる。



 皇さんに至ってはまだ着慣れていないためか、胸を覆い隠すベルトが上がり過ぎたり、逆に下がり過ぎたりしないようとても気にしていた。

 



「……ゴクっ」



 ――お、おう……やはり凄いインパクト。



 しかもこの場に着替えた二人が揃っているというのもまた、ねぇ……。



“遂にブレイブの隊員が二人も集結しましたか! くぅぅ~感無量です! 今後ますます新たな原石集めが加速しそうですね!!”



 モワモワンと脳内織部の声が湧いて出てきた。

“原石”言うなし!


 クッ、そうはさせるか!

 皇さんまでで、俺が食い止めて見せる!!




 織部の幻想をかき消しながら、決意を新たに向き直ると――




「…………」 




 ――あれ? 椎名さん、いつの間に鬼の能面を被ったんですか?



 ……いや嘘ですごめんなさい。





 ――ってか違くて!

 

 

 皇さんのその恰好、別に俺の趣味とか全然関係ないですからね!?


 俺が見繕ってプレゼントしたとかでもないから、うん!


 だからお願いします、その無言の怒りを鎮めてください!!




 目的地へと向かう前に、俺の精神HPは大幅に削られてしまったのだった……。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆  



「≪水よ、大塊(たいかい)となりて、叩きつけよ――≫」



 皇さんの澄んだ声が響き渡る。

 ウンディーネから贈られたロッドを持ち、詠唱をしていた。



 足元には魔法陣が光り輝き、単なる真似事では終わらないのだと分かる。

 実際に魔法を使おうとしているのだ。




「――【アクア・スマッシュ】!!」



 水色の光が一際強まった。

 

 滝つぼの上空に、巨大な水の塊が出現する。

 大量の水がボール状に集まり、ギリギリでその状態を保っていた。


 それが突如、支えを失ったかのように、スッと自由落下を始める。



「……凄い威力だね」



 その破壊力を予言するかのような、リヴィルの呟き。

 その言葉に違わず。


 水の巨大ボールは水面へとぶつかると、物凄い轟音(ごうおん)と共に弾けた。



 爆発音にも似た音を響かせ、大きく水面を(へこ)ませる。

 そしてしばらくの間、その余波で水面は揺れ続けたのだった。



「……あ、えと、で、出来ました」

 


 余りの威力の大きさに驚き、力が抜けたのか。

 それとも初めての魔法の成功で疲れたのか。


 皇さんはペタンと地面に腰を落とした。




「おっ、御嬢様!!――」


「リツヒ様、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です……結構、魔法って疲れますね」

 


 椎名さんとラティアが駆けつける。

 手で制した皇さんは、今回指導してくれているラティアへと微笑みかけた。



「……はい。これから練習すれば、体が慣れて行きますよ」


「そうですか……椎名、ごめんなさい、お茶、貰っても良いですか?」


「分かりました。直ぐに……」



 一先ず疲労感があるだけで、他の問題はなさそうだな。



「……お兄さん。今後は椎名さんよりも、律氷ちゃんの方が怒らせたら大変かもですね」


 

 空木よ……それは言うな。



「でも凄いよね。飛沫(しぶき)がここまで飛んできたよ。……あっ、これで美桜(みお)と合わせて、後衛が2人になるんじゃない?」



 赤星に楽しそうに話を振られ、しかし、空木は複雑な顔をした。



「ウチは単なる飛び道具だから……今の“魔法(アレ)”と同列扱いは、むしろこっちが肩身狭いっていうか、うん」



 空木の言うことは分からなくはないけどな……。


 それでも、シーク・ラヴは本当に順調に戦力を伸ばしている。

 前衛の赤星はシルフの装備で、圧倒的なスピードがあり、攻撃もヘイト管理もできる。 


 そこにウンディーネの装備で魔法が使える皇さんが後衛を担えば、本当にちゃんとしたパーティーを作れるだろう。



 今でも十分戦力となっている逆井や志木、桜田もいる。

 


 ……決して“ブレイブ戦隊”なる視点で見る必要などないくらい、まともなチームになれるのだ。



“フッフッフ、新海君? 今は引いてあげますが、第2、第3の私がいますよ。今の私はまだ最弱――”



 ……勇者のくせに、しかも脳内で悪の四天王っぽいこと言ってくんな。

  




「――良しっ、じゃあ私も、ちょっと頑張ろうかな。……リヴィルちゃん、お願い出来る?」


「ん。10分後にしよっか。体動かしといて」



 リヴィルに言われ、赤星がストレッチを始める。

 今日はリヴィルに、自分の成長を見てもらうらしい。


 ……それは良いけど、やっぱりその恰好でやるの?



「うわっ……颯ちゃん、エロっ。その恰好で股関節伸ばすのはもうお兄さんへの無自覚アピールにしか見えないんだけど」



 こら空木、お前はボソッといらないことを言わない!

 こっちも意識しないようにしてるんだから。



「? 新海君、美桜、どうしたの? えっ、何か私おかしかった?」



 両手を組んで上へと伸びる姿勢のまま。

 赤星は不安そうに尋ねてくる。



「いや、何でもないよ! 続けて続けて!」


「そう? 分かった……」


 

 空木の言葉を信じ、赤星はそのまま「ん、ん~っ!!」と声を出して伸びをする。


 薄いレオタードのようなトップスだ。

 胸が張られると、そのボディーラインや二つの膨らみがクッキリと浮かび上がり……。



「……グヘヘ、お兄さん。颯ちゃんのこの映像を撮るだけで、颯ちゃんを言いなりに出来ますぜ」


「お前は何キャラだよ……それ」


「……すいません、颯ちゃんが余りにえっちぃ恰好してるのに、何か普通にしてるから、ウチがおかしいのかと。ゲスキャラっぽくしてみました」 


 あぁぁ……言わんとすることは何となく分かる。



「……ちょっと人魚(マーリーン)の所行くか。お互い頭冷やそうぜ」


「ですね……」



 これ以上あの装備をした赤星や皇さんを見続けていると色々とおかしくなりそうだ。 

 そう判断した俺達は、この場を提供してくれる人魚――マーリーンの下へと向かうのだった。


 

皇さん、何気にシーク・ラヴ勢で初めての魔法成功者。

赤星さんはせっせと無自覚伏兵。


うーん……時が経つのは早い(遠い目)

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― 新着の感想 ―
[良い点] リアル織部と新海脳内織部のどっちの発言か分からなくなってきたな~ そして、どっちの方が危険発言多いのか… そりゃ、本人の方か。ブレイブだし
[一言] 権力とマジもんの力を手に入れた お嬢様 そして対ニイミさんと言う意味では 最強の護衛付き そして、ロリ ある意味最強?w
[一言] > 「とか言いつつ、ポテトチップスを用意し始めてくれるお姉さんマジ神」  前に出てたカルビーポテトチップス芋けんぴ味は衝撃的だったな……じゃがいもなのにさつまいもの味がしたからなぁ……。  …
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