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266.流石です、赤星さん!! 

お待たせしました。


ではどうぞ。




「んふふ~! お出かけお出かけー! 初めてお館様に麦わら帽子を貰ったあの日、思い出すな~!」



 目的地に向かう途中。

 未来のロトワが鼻歌混じりに先頭を歩いている。



「俺達にとってはつい先日の話なんだがな……」


「隊長さんやあたし達にとっては、な。けどこのロトワにとっては、10年前の出来事ってことなんだろうぜ……」



 機嫌が直って足取り軽やかなロトワを、不思議に思いながらも見ていた。


 未来は現在を起点に、幾つも枝分かれしていくという認識でいる。

 だからこのロトワも、以前に会ったあの未来のロトワとはまた別、ということになるのだろうか。

 

 

「ロトワ、その、お出かけを喜んでくれるのは良いんですが……なぜ“水着”を持っていくんですか?」


「ん? まあいいじゃん、細かいことはさ! もう夏でしょ? お姉さん、現在(いま)にいられる時間少ないから、皆の水着姿を目に焼き付けておきたくて! 特にお館様の!!」



 振り返ったロトワにヒラヒラと手を振って答える。



「へいへい、ちゃんと言われた通り俺も持ってきたから」



 最初家を出る前、ロトワに“水着を持って行こう!”と言われた時は謎だったが。


 今口にした理由が本音かどうかは置いておいて。

 まあ何かしら意図はあるんだろう。



「んふふ~! ラティアちゃん、レイネちゃん、良かったね! お館様の水着姿も観られる! そして二人もとっておきの水着姿でアピールできる! これぞwin‐winってやつだよね!」



 おーい、その内容、俺winになってる?

 だが勿論、そんな俺の心の声などお構いなしで……。

   


「ちゃんとキンキン・ギンギンも揃えてくれたみたいだし! うん、ロトワの言うこと、ちゃんと信じて貰えたみたいで嬉しいな!」



 ロトワは自分の周囲、普通に見た限りでは何もいない足元へと目を向ける。


 そこには俺達が見えないだけで、その能力により隠れているあの狐2体がいるのだ。



「フフッ、信じない理由がありませんからね。――ですよね、ご主人様?」


 

 ラティアが優しい瞳をしてこちらに同意を求めてきた。

 


「ああ、まあそうだな……」

  


 頷きつつ、別のことにも思考を割く。

 以前のことを覚えている、ということは……つまり。


 

 根本的な部分はやはり同じで、細部だけ違うロトワ、ということなのかな?


 10歳の、俺達と今朝も一緒に過ごしたロトワを知識・情報の集約地点として。

 どの未来から来ても、共通項だけはその10歳のロトワへと残して整合性を保っている、みたいな。



 まあ難しいことだし、分かんなくても支障はないんだけど……。



「っっ! ――もうっ! ラティアちゃんもお館様も! お姉さんに幸せ攻撃を仕掛けてるな~! こうなったら、こっちも反撃だぁぁ!!」



 照れ隠しするようなロトワの上擦った声が聞こえ、考えを一度打ち切る。



「えっ!? あっ、ちょ、ロトワ!?」


 

 それと共に、珍しくラティアの焦ったような声がした。



「フッフッフ! ラティアちゃん、覚悟ぉぉぉ!!」



 ロトワは手をワキワキさせ、背後に回ってラティアへと抱き着く。

 そしてその手を前に回し、二つの大きな双丘を下からグワッと鷲掴(わしづか)んだのだ。  

 


「んぁっ、やっ、ダメっ、です、んんっ!」


「お館様以外の男は、って意味でしょ? ふふん、ならお姉さんは同性だからセーフだね! ほれほれ、ラティアちゃん、お館様にお色気アピールだよ!!」


 

 ロトワの指が動くたびに、ラティアの胸がその跡を刻むようにグニュッと沈む。


 指が飲み込まれるようなその柔らかさ、そして力が抜けると跳ね返すみたいなその弾力。

  


 ……ゴクリ。



 ――っていやいや、違うから!!



「レイネ、GO!!」



 俺が口にするまでもなく……。

 


「っ!! ばっ、バカっ、止めろ!!」



 ムッツリさんとは言え、流石にレイネの許すところではなかったらしい。

 ロトワを強引に引き離し、そのオヤジ臭いセクハラ行為をやめさせた。


「はぁ、はぁ……んんっ……」



 ラティアは色っぽい吐息を漏らしながらも、助かったと胸を撫でおろしていた。


 ……あの上下した胸が、今さっきロトワに揉みしだかれ――っていやだから違うから!!

 


「あっ、ちょ、レイネちゃん! 力づくは酷いよ!! 鬼! 悪魔! 天使!!」


「あん!? “天使”は“天使”だが、そんな悪口みたいに“悪魔”と同列に使うな!!」



“鬼”は良いんだ……。



「後、その、そういうえっちぃのは、い、家でやれ、バカッ……」



 いや家でも控えて欲しいんだけども。

 どこでムッツリ発揮してんだよ……。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「――あれ? ロトワ? って言うか……マスター、ここに来るまでに、何かあった?」


「まああったと言えばあったし、無かったと言えばなかった、と思う」


 

 急遽(きゅうきょ)予定を変更してもらって、待ち合わせ場所にいたリヴィルと合流し、そんなやり取りを交わす。


 最初こそ俺達の間に漂う微妙な雰囲気に、リヴィルは不思議そうにしていたものの。

 未来のロトワ絡みだと素早く察し、深入りはしてこなかった。


 流石だな……。



 ただ――



「はい! リヴィルちゃんの分! 後で皆で着ようね!」


 

 ロトワは悪戯っぽい笑みを浮かべながらも、それを手渡した。

 


「えっと……水着? って言うかこれ、生地が無くない? ほぼ紐なんだけど……元は私の、じゃないよね?」

   

「まま、良いから良いから! お姉さんを助けるか、記念だと思って、ね?」


「……良くは分からないけど……」



 強引に押し切られ、リヴィルはその水着を受け取ってしまった。

 ……ちなみにあれは、レイネの私物らしい。


 勝手にリヴィルの衣装ケースを開けるのがダメだからって、なぜそれを選んだし。

 



「――で、リヴィル、ルオを送ってもらった後で悪いが、どうだ様子は?」



 微妙な空気を変える意味でも、本題に入る。

 リヴィルは頷き、無言で歩きだした。


 そのリヴィルの先導に付き従い、歩くこと数分。



「……あそこ。分かる? あそこのテープが張られてるところが、今回の場所らしいね」



 リヴィルが何気ない様子を装いながらも指差した方を盗み見る。


 街の路地に入った場所。

 そこは何の変哲もない居酒屋の裏だった。 


 ただそこに張られた規制線の奥、排気口の下だけ、日常と隔絶した雰囲気を放っている。



「……何であんなところを選んだんだろうね?」


 

 他愛無い会話を楽しむ集団を装いながらも、ロトワは不思議そうに首を傾げる。

 未来の知識・情報で知っているがとぼけている、というよりはこれは本当に知らなくて疑問に思ったらしい。



「確か……野次馬対策、じゃなかったかな。今日やること自体はメディアで大々的に言ってたけど、どこでやるかも教えちゃったら人が来て(わずら)わしいだろう?」



 確かそんなことを椎名さんが言っていたような気がする。



「ですね……だから今日のために、事前に国・自治体が把握しているダンジョンで、良さそうな所を幾つか見繕っておいて、で、先日になって決めたそうです」


 

 ラティアの補足も受けて、ロトワも納得という風に頷いた。



「そっか……で、どうしよっかこれから」


「一先ず待機だな。ええっと……」



 椎名さんとメールでやり取りをする。

 現場付近に到着したこと、そしてこれから待機することを伝えると、返信が来た。



『男女が数人でいても不自然ではない場所を予約しておきました。飲食含め料金の心配もいりません。自由にお使いください』



 そしてその場所を示す位置情報も添付されていた。

 ここは……えっ。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「……フフフッ、確かに、男女でいても不思議ではない場所ですね」


「いや、ラティアさん、楽しそうにしてますけども……“カラオケボックス”って流石に……」



 ……どうなの? 

 しかもかなり高価な個室じゃないの、ここ……。



「これは……これは! シイナちゃんからのお達しだよ! ここで複数の男女でしても不自然ではないあんなことやこんなことをしろという!」



 ロトワさん何言っちゃってんの!?

 だがロトワは止まらず、ソファーに両膝を付き、一歩一歩と這うようにして近づいてくる。



「お館様……ここにはロトワ達以外、いないよ? ――ねえ、しない?」


 

 う、歌を歌う、ってことだよね!?

 ルオが一人頑張ってるときに歌を歌って楽しむのも悪いけども、でもそういうことだよね!? 


 

 入った時から上手く計算されていたのか、俺が逃げられないよう席の布陣がされており。


 後退(あとずさ)るとそこは後門のラティアが。

 そして真正面には前門のロトワがいる。


 

 逃げ場が……ない!



 どうする、さあどうする――






 ――bibibi






「っっと!! れ、連絡だ!」



 しかもDD――ダンジョンディスプレイだ!



「チッ! 邪魔が入った……仕方ないな……今日は自棄(やけ)食いだぁぁぁ!」


 

 おいこらロトワ、露骨に舌打ちしない。

 ただ、さっきの空気を打ち消すためか、お道化るようにフードや飲み物の注文をしまくるロトワを見て。


 安堵すると同時に、なんだか引っかかるものを覚えなくもない。

 だが、その正体が何なのか確かめる前に、急かすように鳴るDDの通信を繋ぐことに。


 すると――



『――あっ、良かった、新海君、繋がった!』


 

 画面には心底ホッとしたような赤星の顔が映っていた。

 今は、赤星はルオ達とダンジョン攻略中じゃなかったっけか……?



「どうした、何かあったか?」


『いや、“合言葉”の件とか“椎名さん”のこととかも、勿論あったんだけどね。なんだか急に虫の知らせって言うか、直ぐに新海君に繋がないとって思って……』



 おおっ、第六感ってやつか。

 凄いな……流石、直感に優れたリヴィルが一目置くだけのことはある。


 このセンスの塊め、だが今回はそれに助けられた形になるのかな。



「――ぐぬぬ、ハヤテちゃんめ……! 現在(ここ)でも完璧なまでの牽制(けんせい)をしおって! この伏兵くノ一!! お館様に捕まってえっちぃ尋問にかけられちゃえ!!」



 いや、ロトワさん?

 何言っちゃってんの?


 そんなエロゲー的展開を俺と赤星でやるわけないだろうに……。



『えっ――新海君、えっと、そちらの女性は……』



 未来のロトワを見て、赤星が固まる。

 そう言えば赤星は初対面だったか。



「えっと、この子は“ロトワ”――つまり、何ていえばいいか……まあ“椎名さん”か空木に聞いてもらえれば知ってるから」



 ロトワという存在自体は伝えていたため、簡単な説明はルオか空木に任せることにする。

 

 DD越しだと細かい説明はちょっと不向きだろう。



『その、えと……うん、分かった。ただ……私は何でその、ロトワちゃんの凄い悔し気な視線を一身に受けているのかな?』

 

「ぐぬぬ!! ハヤテちゃんめぇぇ!!」

 


 ……あんまり気にしないで、うん。


未来のロトワの天敵:レイネ、赤星(←new!!)

ラティアに強くて、更に未来知識を持っていても万能ではいられないんですね……。


このダンジョン攻略もそこまで長くはならないと思います。

一応今までの経緯も含め、念のために長めに見積もって4話くらいを見ておいてください。



感想の返し、また遅くなってしまい申し訳ありません。

午後に多分時間を取りますのでその際に一気にさせてください。



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― 新着の感想 ―
[一言] 伏兵さんは 未来のニイミさんのガーディアン 足べき人になるわけですな そしてポイントを稼ぐ!流石は伏兵 さすふく!!w
[一言] 天敵の2人に未来ロトワが対抗するには、未来で現代に通用する弱味を握るしかないですね! いやそもそも未来でも天敵のままでしょうし、それはひょっとして無理だったり…?
[一言] > 「俺達にとってはつい先日の話なんだがな……」  君たちにとっては多分明日の出来事だ? > ……ちなみにあれは、レイネの私物らしい。  なんで紐を持ってるのかは……まあムッツリだし? 買…
感想一覧
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