255.1つ目、行こうか!
お待たせしました。
ではどうぞ。
「あっ、コンコン!! 元気にしてましたか? ロトワがいなくて寂しくなかったですか?」
DD――ダンジョンディスプレイを使い、今日の目的地である京都のダンジョンに転移した。
早速ロトワは狐モンスターたちを見つけ、傍に駆け寄っていく。
「うぉっ!? えっ、お兄さん、あれ、大丈夫なんですか!? 可愛いけど、ああいう外見可愛いって実は裏には棘があったり……」
驚いて狐のモンスターを恐る恐る見た後、空木は視線を動かす。
そのどこか意味ありげな目線が捉えたのは、志木だった。
……わかーるわかるよ君の気持ちー。
「……何かしら美桜さん、私に何か言いたいことでもあるの?」
「いえっ!! 何でもないです! キツネ、カワイイ!!」
ビックリするくらいの掌返しの速さ!!
……って、ヒィッ!?
何で俺まで睨まれるの!?
「ツギミーと新海、分かり易すぎるし……」
クッ、逆井、お前だって同じ様に思ってるだろうに、一人だけいい子ちゃんブリやがって。
「キャッ、ああもう、ペロペロ舐めたらダメですよ、くすぐったい、あっ、やっ、ダメッ――」
「ははっ、ロトワちゃん、キツネ達と戯れてる。マジ癒し可愛いんだけど……ねっ、かおりん?」
「えっ? ……そ、そうね。ええ、確かに。可愛い……かな、うん」
逆井に話を振られて、志木はロトワをじーっと見つめる。
普段はあまり見られない、目を細めて純粋にリラックスしたような表情。
……ロトワの癒しオーラには、流石の志木も敵わなかったらしい。
「フフフッ、お兄さん、どうやら梨愛ちゃんだけでなく、花織ちゃんもお仲間になりそうですね。あんなに怖い顔してたのに、今ではもう落ちたメスの顔してますよ。フヘヘ」
“メス”って……。
いやお前は悪徳領主か何かか。
いかにも悪そうな笑みを作って、空木は志木と逆井を指差した。
狐達に舐め倒されているロトワに夢中で、二人とも空木のそれには気付いていない。
「……フッ、ようやく奴らもロトワ虐めの良さに気付いたようだ」
ニヒルに笑いながらも、空木に倣い。
その光景をスマホで撮っておいたのだった。
「……まあロトワを愛でるのは良いけどさ、ミオもマスターも。後でカオリに何か怒られても知らないよ?」
大丈夫だって、リヴィルは心配性だな……。
「フフッ……いいんじゃないですか?」
あっ、ラティアがいい笑顔で止めないってことは、これやめた方がいいのか。
「フフ、ヘヘヘ。花織ちゃんと梨愛ちゃんへの脅迫材料ゲットだぜぃ……」
一人、悪の道を突き進む空木を反面教師にし、俺は撮ったばかりの写真をソッと消去したのだった。
「……チッ」
……ラティアさん?
今静かに舌打ちしませんでしたか?
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「――よし、じゃあそろそろ始めるけど、準備は良いか?」
「ボク達は大丈夫だよ!」
確認すると、元気な声が返ってくる。
ルオは特に、最近は大きなダンジョン攻略がご無沙汰だっただけに、人一倍やる気だった。
「うん! アタシも大丈夫。直ぐにでも行けるよ?」
逆井は以前もダンジョン間戦争に同席していたこともあり、気負った様子もない。
あの織部監修の赤を基調としたビキニアーマー姿で、開脚などのストレッチをしていた。
……そもそもが際どい恰好な上、そんな脚を大きく開くような動きは青少年への影響が強いと思うんだけど。
自重しません?
しませんか、そうですか……。
……あの前掛けのようなヒラヒラした布の絶妙な動きもあり、気になってしょうがない。
逆井の奴、あれで運動系の番組出たら、絶対世のお父さん方から感謝されるな。
「えーっと……志木と空木は? 特に空木は実際のダンジョン攻略も初めてだろ、大丈夫か?」
志木は空木に何かしつこく言い添えた後、こちらに頷き返してきた。
……たださっきのことがあるからか、あまり言葉を交わしてくれない。
必要なコミュニケーションは、頷きとかのボディーランゲージで出来てるからいいけど……。
一方その空木はというと……。
「うぅぅ……ちゃんと後で消しとくって。本当だってば! ――もう、えーっと……弦の張り良し……最初の分の矢はちゃんと筒に入れてる……補充分は、お兄さんが持ってくれるから、ウチは持たなくていい、と」
空木は志木に平謝りした後、入念に自分の道具のチェックを行っていた。
……ってかやっぱりさっきの、バレて怒られてんじゃねえか。
あっぶねぇ……良かった、自分で気付いて消しといて。
「……フフッ」
ラティアの表情はある意味、他の奴の地雷発見の判断に使えて役立つらしい。
へっへっへ、ラティアめ、何も気づかずに笑っておるわい。
今までは沢山煮え湯を飲まされてきたからな、これからは思った通りにいかないことも多いと教えてやろう。
社会の厳しさを、俺自らがその身に叩き込んでくれるわ!
「……はぁぁ、お兄さん、ウチもオッケーだよ」
そんなどうでもいいアホなことを考えていると、空木が顔を上げて俺にOKのサインを出した。
そこまで緊張している風でもないし、今の所は大丈夫そうだ。
「良し――じゃあ始めるぞ!」
全員が頷くのを確認して、俺は頭を切り替え、台座へと近づいて行った。
「えっと……こうして、こうか……あっ、あった」
前回と同様、ダンジョンの操作を進めていく。
Ⅰダンジョン機能展開
Ⅱダンジョン特性とDP交換
Ⅲダンジョン間戦争
「“Ⅲ”で……んーっと……そうそう“〇ダンジョン攻略戦――宣戦布告”っと」
選択を終えると、今日までに志木に相談して教えてもらっておいたダンジョンが4つ程出現する。
本当は後3つ、他にもその場所を教えてもらっていたが、この3つはまだ実際に行ったことはなかった。
つまり地図上で単にダンジョンがある“だろう”という程度の認識では宣戦布告はできない、ということか。
「4つだけ出た。やっぱちゃんと行って、存在を確認しないとダメっぽい」
「そう……私や他の人がその目で見ていても、それはダメなのね……」
志木は残念がるわけでもなく、淡々と事実を確認し、自身の中で整理しているようだった。
さっきの到着したての時とは違い、冷静でなおかつテキパキとしている。
こういうところはやっぱり普通に凄いと思う。
「後は……ふーん、4つまとめて宣戦布告も出来るのか」
まあしないけど。
今回の目的はあくまでも未来のロトワの言葉に沿って、3つ攻略すること。
ただ、4つのダンジョンがそれぞれ何の繋がりもないはずなのに、一度に全部を相手にすることも可能だと。
それが知れただけで今は十分だった。
その中から一つだけを選び、最終確認の一歩手前で手続を止める。
もうやることは確認の音声に対してただ頷くだけ、そこまで進めて後ろを振り向いた。
「おーい、後はもう最後のひと手間だけだ。……で、プランAのままで」
俺の準備が滞りなく進んだことを理解し、志木とレイネが頷いて返してきた。
「分かりました――じゃあレイネさん、話した通り、3つの班分けをお願い出来る?」
「おう、分かった」
プランA――つまり、何の支障もなく進めることが出来た場合、1つずつ潰していくという単純明快な案。
それに従って、レイネがテキパキと3人×3つの班に分けて行った。
レイネは個人としても勿論強いし動ける。
それと同時に、前回のように多くを指揮して戦うことにも長けている。
こういう集団へと分けていくのも安心して任せられた。
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「新海、ツギミー、ヨロシク!」
「その、よろしく……です」
逆井と空木との班か……。
空木は今回、実質的にはサポート要員の面が強い。
まあ兼育成対象、という感じでもあるが。
それを本人も自覚しているのか、若干後ろめたそうに挨拶してきた。
「えと、ぶっちゃけ足手まといになると思うんで、すいません!」
俺や逆井に限らず、空木は全員に向かって頭を下げていた。
「まあ最初は誰だってそうだ、気にすんな」
思い出すな……。
あの夏の日、クソ熱い中ドングリっぽいモンスターをただひたすらに叩いて倒したっけか……あれは地獄だった。
逆井だって、最初は俺達に見守られながらの闘いだったしな。
志木達としては、空木には将来的に戦力の一人になってもらう予定らしい。
なら、余裕のある今の内に育成はしておいた方がいいだろう。
「あ、あの……よろしくお願いいたします!! ロトワ、精一杯、頑張ります故に!!」
「フフッ、あまり硬くならなくても大丈夫よ。――リヴィルさんも、よろしくね?」
「ん……よろしく」
それにこっちもこっちで、ダンジョン初のロトワを志木に任せることになる。
そもそもロトワも戦闘要員ではない分、二人の負担が大きくなるはずだ。
風の精霊の装備を持っている赤星を除いてだが。
逆井も含めての志木達の中では、一番その志木本人が全体的にバランスがいい。
ウチで一番のリヴィルがいる分、戦力としての均衡は取れていると思う。
「ではレイネが前衛、ルオが中衛、私が後衛で構いませんね?」
「おう。出来るだけラティアは魔法温存な。ルオとあたしで基本間に合うから」
「うん! 任せて!」
バランスって面でいうと……3班が一番安定はしているだろうな。
3つ潰さないといけないダンジョンがあるとはいえ、今回は3人で1つのダンジョン、という計算ではなく。
9人全員で1つのダンジョンを確実に潰していくべく、3人を基本単位としていくことにした。
要するに1班が戦闘中は2班が準備、3班は休憩――それを順に回していく、ローテーションってやつだ。
で、一つのダンジョンを潰し終えたら次のダンジョンへと宣戦布告して、それを3つまで続ける。
余程のことが無い限り、これで大丈夫なはず。
「――うしっ、じゃあ早速行くぞ!」
宣戦布告を最後まで進め、本日1つ目のダンジョン間戦争へと突入したのだった。
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「……何か、ちょっと拍子抜け。ウチ、“戦争”って言うぐらいだから、もっとこう、相手のダンジョンのモンスターもぐわーって襲ってくるものかと思ってた」
「あはは、だよね~! アタシも前はそんな感じに思った!」
隣を歩く逆井が、バックの空木の感想に付き合う。
単なる雑談のようにも見えるが、逆井なりに空木の緊張感をほぐしてやろうという配慮だ。
「でもツギミーさ、戦闘になってもアタシを撃たないでよ? 新海も頑丈だけどさ、やっぱ矢刺さると痛いっしょ?」
「も、もう! 分かってるって! 流石に味方撃つ程ヘタッピじゃないし! 研修の時に嫌って程練習はさせられたからさ」
「ほんとかな~? ねね、新海はどう思う、ツギミーの弓の腕!」
……配慮、だと思う。
「何でそんなの聞くんだよ……俺よりも絶対お前の方が詳しいだろう」
「……あ、そか! そだね!」
「……はぁぁ。梨愛ちゃん、基本は処女ビッチぶった純情真面目ちゃんなんだけど、偶に抜けるときあるから……」
この空木の逆井評には完全に同意だな。
「ちょ、はぁ!? い、意味わかんないし! ア、アタシ別にビッチじゃないからね!? エロには寛容だけど、ちゃ、ちゃんと節度は弁えてっし!!」
“処女”は否定しないのか……。
――っと。
今回レイネが別班なため、代役として斥候を任せていた存在が前から飛んできた。
『…………魔物。3体。大型のネズミ種。時間にしておよそ1分程の後、接敵』
俺の傍で止まった闇の精霊は素っ気なく、端的にそれだけを告げる。
「……新海?」
「お兄さん? どうかしましたか?」
足を止めたところで、逆井と空木がそれを察する。
勿論精霊は見えなくても、俺が何かをしているということは分かったらしい。
後ろからついてきている2班、3班も少し距離を置きつつ警戒を強める。
「二人とも、来るぞ――敵だ」
3人での初の戦闘が始まる。
後2話か、多くても3話以内には終わらせる予定です。
早くロトワに自由に外を出歩いてもらって、地球人からの洗礼を受け――もとい満喫してほしいですからね。




