228.あ、ああ。何でもいいぞ!?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「――ハヤちゃん、そっち、行ったよ!」
「分かった! ――はぁっ! せぁっ、らっ!」
逆井の声を受け、赤星がすかさず接近していた手デカザルを迎撃する。
今回は武器はなく、その鍛えられた体そのもので二人は戦闘を行っていた。
「キィッ、キキッ!」
運動センスがとりわけ高い赤星に対応され、群れの一番強いだろう個体があえなく戦闘不能に。
「キィッ、キキキ!!」
「ちょっ、っ! マジで、このおサル軍団、何体いんだし!」
だがその間にも他のサル達がパーティーの片方――逆井へと殺到する。
逆井の方が疲労が濃いと判断したのだろう。
無理もない。
2人で挑んでみたという意味では、既に大健闘の4階層まで来ていた。
ただその4階層に至るまでの戦闘を全て、2人だけでこなしていたのである。
最終階層――アルラウネが待つ12階層までは後2/3も残っているが……。
今回はここまで、かな……。
「梨愛っ!! くっ――」
「キキッ!」
赤星が応援に行こうとすると、そこに別の群れが合流。
計12体の手デカザル。
既に3体を倒していたが、圧倒的に数の上で不利だった。
そして更にそこにダメ押しをしたのは……。
「ギチッ、ギチッ……ギチャ――」
脚が刃物のように鋭い蜘蛛。
彼らの準備が整ったのだ。
手デカザル達に気を取られている間に、ブレードスパイダー達は足音を忍ばせ、死角に。
そしてそこから一斉に糸を吐き出した。
「くっ!? これっ、マズい――」
「うわっ!? ちょ、身動き、出来ない! ネトっとしててキモっ!?」
赤星と逆井の上半身を縛り付け、動きを封じる。
二人は必死に糸を引きちぎろとするが、ビクともしない。
「うわっ、ちょ!? おサル軍団、にじり寄って来るなし! さっきと違って鼻息荒くない!? マジで、新海の前でエロ展開とかヤバいって!?」
「……仕方、ないか」
今の赤星の言葉は勿論。
諦めて、おサルさん達とのえっちぃシーンを受け入れる――なんて意味ではない。
だがある意味では、赤星にとって肉を切らせて骨を断つ的な判断をしたらしい。
……やる、のか。
今まで一切手出しをせずに、ずっと二人の攻略・戦闘過程を観察し続けてきた。
が、この瞬間だけは、そっと視線を外す。
「――新海君っ、お願い! “あれ”を!!」
切迫した声が飛んで来る。
赤星自身も恥ずかしさや照れがあるのか、声が若干上擦って聞こえた。
俺は出来るだけ見ない様に意識しながらも、頷き返す。
そして――
「分かった!! ――“赤星っ、変身”でいいんだな!?」
しかし、そんな確認の言葉にも関わらず。
「えっ、ちょ新海君!?――っっ!!」
特定のキーワードに機械的に反応するというように、赤星の変身が始まってしまう。
赤星を縛り付けていた蜘蛛達の強力な糸は引きちぎられ。
だがその代償に、赤星の衣類もろとも粉々に弾け飛んでしまって……。
「うわっ、ハヤちゃんエロっ……着痩せしてるよね……意外に胸もあるし……」
横で未だ縛り付けられている逆井は、隣で変身シーンを進める赤星を見つめてそうぼそりと呟いたのだった。
いや、うん……“裸”に至る過程も、そこから身に纏う“ブレイブハヤテ”の衣装も確かにそうだけどさ……。
それを口にすると、後で赤星だけじゃなく、俺も肩身狭い思いすることになるから逆井は黙っててほしい。
「…………」
変身が終わった赤星は、恥ずかしそうにタンクトップを下へ下へと引っ張る。
へそ出しで、しかも体にフィットした奴だから、どう頑張ってもスリムなお腹が隠れることはないのだが……。
「……はっ!? ヤバッ、ハヤちゃんのストリップショーに見惚れてた! ハヤちゃん、アタシのこれ何とかするか、このおサル軍団、やっちゃって!」
「――もう! 梨愛と新海君のバカァァァァァァ!!」
やっぱり俺まで……。
その後パワーアップして、圧倒的な力を見せつけた赤星により、逆井含めて危機を脱した。
が、禁じ手を使ったために今回の挑戦記録は4階層途中となったのだった。
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「私……別にエロくないし……」
「もうゴメンってハヤちゃん、機嫌直して? ほらっ、飴ちゃんあげるからさ!」
お前は大阪のおばちゃんか……。
二人は今、さっきまで酷使していた体を、ゆっくりと休めている。
12階層まで移動し、そしてそのまま今日の反省会をする予定だった。
「つーん……」
……が、この通り、珍しく赤星がいじけているというか、拗ねてしまっているのだ。
「はぁぁ……まっ、一先ず今日は前より1階層下に行けたことだし、それで良しとしとこうぜ?」
二人はダンジョン攻略の総合的な技能を向上させたいと、以前からこのダンジョンへと挑戦していた。
他のダンジョンと違って、モンスター1体1体の質も高く、また、ここを除いて階層も11ある。
修行を積むには丁度いい場所だったのだ。
……前回までは、丁度次の階層に行く前でチャレンジを終了してたからな。
今回、二人がピンチになって初めて、“ブレイブハヤテ”が内包する問題点が浮き彫りとなったと言えた。
「そ、そうだよハヤちゃん、アタシら、今日も成長出来てたじゃん! この調子だと、後10回もせず二人で12階層まで行けるって!」
「……でも、そのためには私が10回くらい、新海君の前で裸になる可能性もあるけどね」
うぐっ……。
いや、別に俺が戦闘に介入して、挑戦の失敗ってことにしてもいいはずなんだ。
だが……。
「うぅぅ……でもさ、新海は勿論だけど。おサル軍団とかにも協力してもらって、だからできるだけ成功失敗の判断も真剣な方がいいって決めたじゃん? ……ハヤちゃん、やめる?」
いや、“ヨーソロー!”なスクールアイドルじゃねえんだから……。
何となく分かるような、分からないような。
そんな理由を、これを始める前、二人に言われたのだった。
要は俺が割って入るのではなく、最後まで戦闘は続けたい。
その上で挑戦失敗を受け入れるべく、赤星の変身をその成否の決め手にしたい、と。
それだけ純粋な向上心を持って臨んでくれているということなんだろう。
「そうだね、二人で決めたんだもんね、うん。私がただちょっと恥ずかしいってだけ。だから……少しだけ、時間が欲しいかな。直ぐにまた、元に戻るから……」
赤星がそういうなら、多分少し時間を置けばまた元通りに戻るのだろう。
…………。
「そか……なあ赤星、ならその時間が経つまで、何か話しないか?」
「え?」
「?」
赤星と逆井が一瞬、何を言い出すのかという表情でこちらを見た。
だが俺はそれを気にせず、話し続ける。
「あぁぁ、最近忙しくて疲れてるな……今何か聞かれたら、ついポロっと口から出てしまうかもな……なあ逆井?」
「へ? いや、アタシはむしろ忙しいからこそ体調に気を使ってるし、全然そんなことない……」
…………。
察せよ。
「――なあ、さ・か・い?」
語気を強めて、再度、逆井に同意を促した。
逆井は数秒考えて、ようやく分かったのか、その表情に理解が広がる。
「……あ、あぁぁ! そういうこと! うんうん! アタシ、今実はもうクタクタでさ、何か聞かれたらついしゃべっちゃうかも! 好きなシチュとか、グッとくる仕草とか! あはは……」
ふぅぅ。
まあ要するに、赤星だけが何か弱みを持たれるんじゃ不公平だろう。
だから何かしら俺達も同様に、弱みというか、自らの恥部を答えることで少しでも対等にできないかということだ。
「新海君……梨愛……」
先ほどまではあらぬ方を向いて、その表情が見えなかった。
が、今は俺達の意図を察したように、赤星は静かにこちらを見ている。
「その……本当に? 何でも聞いていいの?」
「お、おう! どんとこい!」
「うん! 何ならアタシのフェチとか、その、好きなタイプ……とか! ポロっと言っちゃうかも!」
「あ、いやうん、梨愛、有難いけどそれは遠慮しておこうかな」
逆井……ドンマイ。
「じゃあ……その、聞いて良いのかどうか、今まで分からなかったんだけどね――」
さて……何が飛び出すかな。
もしかしたらラティア達のことを深く聞かれるかもしれない。
あるいは……本当に普通に俺の恥ずかしい過去とかかも。
だがそれでも一応聞かれたら、ちゃんと誠実に答えるつもりでいた。
赤星も相当恥ずかしい思いをしているんだ。
赤星は信頼できる奴だ、今までの付き合いで、それはもうしっかりと理解できている。
俺も、自らの恥部や隠し事の一つくらい、この場では答えて然るべきだろう。
そう身構えていた俺や、同じように体を固くして待っていた逆井にかけられた質問は、その想像を超えるものだった。
「――あの、さ……“織部柑奈”さんって、二人にとってどんな人だったのかな?」
へ?
織部の、こと?
…………。
――ある意味俺の恥部だった!!
次、何で赤星さんがそんなことを(“そんなこと”って言うのもなんか織部さんに可哀そうかな……?)聞いてきたのか、みたいなことをお話して。
それで、その次にまた異世界側とコンタクトを取ることになると思います。
感想の返しについては申し訳ありません、また午後に時間を取りますので、その時にさせて下さい。




