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220.意外な結末……。

お待たせしました。


ふぅぅぅ……。



ではどうぞ。


「ふぅぅ……酷い目にあった」


 

 全くダメージこそ無かったものの、驚かされた腹いせにキツネ共を軽く睨みつける。


 が、赤星とリヴィルに抱かれたキツネたちは意に介さず。

 遊んでもらったことが嬉しいと言うように、モゾモゾと動き続けていた。



「もう……ダメだよ? 新海君は大事な人なんだから、ね?」



 赤星は可愛いペットへ教え諭す様に、キツネへと優しい言葉をかける。 

 そのやり取りを……そしてその言葉を受け。



「…………」



 リヴィルが意味深な視線をこちらへと向けてくる。

 しかし、俺は知らんぷり。


 織部が得意の“え、何ですか?”である。   

   


「……マスター、ハヤテがマスターを“大事な人”だって」


「……言及しなくてよろしい」



 あえて気づかないフリしてたんだから!

 どうせ何かの言葉の綾とかなんだろ!?

 

 それでツッコんだら否定されて、俺がガクッと落ち込む奴だから! 

 盛大に恥かく奴だから!!



 ……ったく、リヴィルめ変な風に空気を読みやがって。



「――で、結局コイツ等は何なんだ? 単なる野生のキツネ、という訳じゃないんだろう?」


 

 何となくだが、キツネ達の雰囲気がそういう風に思えたのだ。

 果たして、リヴィルと赤星は同時に頷きで返してきた。



「このキツネ……さっき攻略を済ませた、ダンジョンのモンスターなんだ」



 それを言われて、改めてキツネを、そしてリヴィル達を見る。

 そうか……モンスターか。


 ってかダンジョン攻略してたのか!

 そりゃ電話が繋がらないはずだ……。


 いつもは逆の立場だからな、その可能性は気づかなかったな。



「あの、えっと……新海君?」


「ん?」



 赤星はやはりどこかぎこちないながらも、俺の態度を見て何かを勘違いしたらしい。


 慌てて腕の中にいるキツネ達を強く抱きしめた。



「あ、あのさ! この子たち、確かにモンスターだけど、戦闘能力ないし、私達相手にも、全然敵意とか、そういうの無かったんだ! だから、その……」



 何か言いたいこと、伝えたいことがあって、でも上手く言葉に出来ない。

 赤星の今の姿が、そんな風に見えた。



 それは多分、俺とのギクシャクも少しは影響していて……。

 少しの歯がゆさと同時に申し訳なさも感じていると、リヴィルが助け舟を出してくれた。



「……要するにさ、害意はないと思うんだ。ただダンジョンを見つけにくくする幻覚を使うんだけど、それ以外は、うん。だからマスター……」



 なるほど、そこまで言われると流石に理解する。

 俺以外の人がいなくなったように感じたのも、コイツ等の能力のためということ。


 そして、既に攻略を済ませて。

 二人が面倒を見るというように、しっかり抱きしめていることからすれば、倒してしまうのは勘弁してほしいと。




「……ああ、大丈夫。あのアルラウネのダンジョンの、子ワイバーン、いただろ?」


 

 俺は二人が納得しやすいように例を挙げることにする。

 リヴィルは直ぐに頷き、一方赤星は若干それで頬を赤らめるも……ゆっくりと首を縦に動かした。



 ……いやゴメン、別に“ブレイブハヤテ”を掘り返そうとしたわけじゃないんだよ、うん。



「アイツみたいに、倒さないでおく方がメリットがあるモンスターもいる。実例がある以上、無闇矢鱈(むやみやたら)に倒したりはしないさ」



 そう告げると、あからさまに赤星はホッとした表情を浮かべた。

 

 ……まあ、見た目は本当、可愛らしいタダのキツネだしな。



「――ま、とにかく。合流出来てよかった。で、どうする? その攻略したダンジョンの方に行くか?」



 ここで立ち話も何だし、とそう提案する。

 


「そうだね。攻略して直ぐキツネ達が走り出したからビックリしちゃった……マスターの【敵意喚起(ヘイトパフューム)】に釣られたのかな?」


「いや、俺はここに来て意識的に使った覚えはないが……」



 そう答えると、リヴィルは歩き出しながらも、考え込む様に視線を下げる。



「うーん……じゃあやっぱり無意識的にメスを惹きつけてる、とか? マスターだとあり得るよね」



 いやあり得ねえよ。

 俺はスッと左手を掲げる。

 そして、このキツネ達が寄って来たおそらくの理由を自ら提示した。



「血じゃないのか? キツネも犬と同じイヌ科だって言うし、俺の血をかぎ分けて来たんだろう」


「ふーん……」

 

 

 リヴィルは俺の切れた人差し指を見て、肯定も否定もしない。 

 ただ、また意味ありげな視線を、今度は赤星へと向けた。


 その赤星はというと……。




「っっ!!」



 表情が一瞬にして、驚愕に染まる時をはっきりと見て取れた。

 

 かと思うと、キツネを抱いていた腕をパッと放す。

 そしてやや強引に俺の手を取ったのだった。



「新海君っ、血、血が出てたの!? 切れてるじゃないか!」



 普段見ない、深刻そうな顔に思わず後退りしかける。

 しかし、赤星が俺の手を掴んで離さない。


 や、ちょ、はな、放して!?



「あの、えと、だ、大丈夫だ、キツネ達にやられたわけじゃないから!」


「え? じゃあ、だったら何でこんなに綺麗に切って……」



 俺は納得させるために、自分のカバンから筆記具入れを取り出す。

 そしてそこから物を手に取って見せた。



「こ、これ! カッター、うん、カッターで切っただけだから! 自分で! こうザクっと!」  


「……マスター、それ墓穴」


 

 珍しくリヴィルが俺をからかわず、あちゃーという感じで呟く。

 

 だが、俺は一瞬何のことか分からなかった。



「……“自分で”? もしかして新海君……自分で自分の体を、切って、るの?」



 赤星の震えるような声を耳にし、そして愕然としたような表情を目にし。


 ようやく俺も察する。


 あ……これアカン奴や。



「――ゴメン……ゴメンね新海君、私、新海君が沢山悩んでること、全然気づけなくて」


「あ、いや、違っ――」

 

「でも、切ってるんでしょ? 自分で」

 


 それで反論を封じられてしまう。


 ――いやでも違うんすよ!!



 確かに自分で切ってますよ、でもそういう自傷癖があるとか、そういうんじゃないんです!


 ただ血液だいしゅきな織部っぽい女の子がおるんです!

 

 ソイツのためにただ切ってるだけで!

 そりゃ俺だって、痛いのなんて織部(真)と違って勿論嫌ですたい!



「あっ、手首とか! 切ってないよね!? 男の子だからって、肌を大事にしなくていいとか、そう言うの全然違うからね、新海君っ!」



 赤星は俺やリヴィルの目など気にしないというように、俺の手をこれでもかと検分していく。

 

 ちょっと汗をかいた時の冷え対策である長袖も、今の赤星にとっては俺が自身の虐待を隠すためのカモフラージュに見えるらしい。



 異性の手をずっと握っているという自覚なく、むしろ積極的に袖を捲ったりして肌に触れてくる。


 や、あの、ちょ、こっちが照れるんですけど……。



「…………」



 そしてリヴィルは我関せず。

 確かに、この状況だと今まであったギクシャクなんて殆ど関係ないみたいになってるけどさ……。



 一先ず、自傷癖があるわけではなく、ちょっとダンジョン関連で必要だったと濁した言い方をすることに。


 流石に全部を全部信じたわけではないだろうが、赤星も一応引いてくた。




「――新海君、私、決めた」


「ん?」

 


 その後顔を上げると、赤星と目が合った。

 本当に何かの覚悟を決めたかのような、真っ直ぐな目をした赤星の表情が、そこにはあったのだ。



「私……色々と遠慮したり、スパッと諦めちゃうこと、実は結構あったんだ」



 意外な言葉だった。

 遠慮……は偶にしているように見える。

 

 しかし、赤星が何かを諦めるという姿を想像したことがなかったのだ。


「い、いや……まあでも、赤星らしく頑張ればいいと思うけどな」


「うん、ありがとう……そう言ってくれる新海君を、そして私を。裏切らないためにも、ちょっと今回は頑張ってみる」



 あ、いや、その、俺のことはガンガン裏切ってくださって構わんのですが……。



「“マスターを裏切らないため”……へぇぇ」



 おいリヴィル、変な相槌入れない!



 な、何か知らんが赤星が覚醒しそう!


 何の覚醒かも分からんけど!!



「自分を変える……というよりは、うん。新海君が言ってくれたみたいに、私らしく……」


「“マスターが言ってくれたみたいに”……ふむ」



 リヴィルちょっと黙ってようか!

 お前いつも“ふむ”とか言わないだろ!


 くっそぉ~、帰ったら絶対に柑橘系のジュース飲ませてやる!!



「あの変身もちょっとまだ恥ずかしいけどさ、色々頑張るよ。――だから改めて、よろしくね、新海君?」   


「お、おう? よろしく……?」

 



 何だか良くは分からないが……。

 赤星と仲直りが出来たらしい。



「…………フフッ」



 その様子を見守っていたリヴィルも、この場面だけは何も言わず、目を細めて喜んでくれていた。

 


 ……仕方ない、果汁1%で許してやろう。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「へぇぇ……凄いな、本当に2人は幻覚を受けてないんだな……」



 先導する二人に連れられてきたのは、先程攻略したばかりだというダンジョンだった。


 俺の視覚からは何本もの鳥居が連なり、果てが見えない道のりのように映っていた。


 しかし攻略した当事者たるリヴィルと赤星は別の光景が見えていたようで。

 一つも迷うことなくダンジョンへと入ることが出来たのだ。



 キツネ達はダンジョンの入り口までは付いてきたが、そこからは各々自由にダンジョン内を走りだし。

 今は各自隅っこで楽しく遊んでいた。




「まあ攻略したと言っても、モンスターは火の玉みたいな奴しか倒してないけどね……っと、ここが終点かな」



 先程の仲直りで、赤星のぎこちなさもほぼ消えていた。

 ……まあその分、ちょっと過保護っぽくなってる気がしなくはないが。

 

 その赤星が指差した先に、確かにいつも見るような台座が。



「1階層だったんだな……まあ2人だったら別に何階層だろうと苦戦はしなかっただろうが」


「流石に二桁行くとしんどいかもだけど……じゃあ、このダンジョン、マスターに渡すよ?」



 台座の前に立ったリヴィルが何でもないようにそう告げる。

 が、本当にそんなことできるのか。


 そもそもそれが出来たとしても、二人で攻略したダンジョンだ。 

 そんなに簡単に、俺へと渡してしまっていいのか?



「私は……まあマスターが喜んでくれればそれでいいし」



 そう言ったリヴィルから視線を受けた赤星は、一瞬考えるように視線を上へと向ける。

 


「うーん……と言っても、実際に殆ど戦ってくれたのリヴィルちゃんだし。私、そこまでこのダンジョン自体に思い入れ、まだないからな……」

 

 

 ああそう……。



「じゃあまあそれは良いとして……」

 

 

 具体的にどうすればいいのか、と言おうとした時。

 いつものアナウンスが流れた。




〈――“当該ダンジョン”の譲渡(じょうと)申込がありました。承諾しますか?〉



「おお……」



 内容からして、確かにダンジョンの譲渡も出来るらしい。

 それも特にDPの移動を伴うでもなさそうだし。


 そして目の前には空中に浮いた半透明の用紙が。


 このダンジョンがどこにあって、どういう構造をしているのかが記してあった。


 自分で先程確認した通り、1階層だけのこじんまりとしたダンジョンだ。



 俺はそのアナウンスに従う形で、頷く。

 心の中で呟いた“Yes”の返答を受けてか、機械的な音声がまた響く。




〈……これにて、ダンジョンの所有権の移譲が完了しました〉

  


「おぉぉ……凄いね、やっぱり出来たんだ」



 これには流石のリヴィルも少し興奮気味だ。

 


「だね。私はまだラティアちゃんみたいに≪ダンジョン運営士≫じゃないから……新海君の力を借りないとそもそもこのダンジョンも宝の持ち腐れだっただろうし、出来てよかった」


「……そか」

 

 

 確かに労働の比率としては、リヴィルの方が頑張ったのかもしれない。

 それでも、何の躊躇(ためら)いもなくダンジョンを譲るという選択をしてくれた赤星に、何か報いたいという想いが強まった。




「……そうだ。このダンジョンは何が出来んだろうな……」



 そう言いながら、台座に近づく。

 ダンジョンの特性とDPとの交換。


 それで良いのがあったら、赤星に一つプレゼントするのもいいかもしれない。


 そんな想いから来る行動だった。



 リヴィルと赤星の二人はおもちゃ箱を前にした子供のように、何かを期待するみたいな眼差しで見守っている。



 さて、っと……。



 例の如く先ず二つ項目が立ち上がる。



“Ⅰダンジョン機能展開”

“Ⅱダンジョン特性とDP交換”




 迷わずⅡを選択した。



 すると、一つだけ項目が出てくる。

 このダンジョンで出来ることは一つらしい。





“キツネのお礼鏡:500DP ※残り3回”






「……何かスキル、ではなさそうだな」


「……私も初めて見るかな」


「“キツネ”……やっぱりここはキツネ尽くしなんだね」



 リヴィルや赤星のそれぞれの感想を聞きながらも。

 俺はとりあえずやってみるか、と提案する。



「まあ……そうだね、でも新海君、何が起こるかは分からないけど」


「“お礼”っていうくらいだから、悪いことは起こらないんじゃない?」



 この場合は……リヴィルの言う通りな気がする。


 

「それに回数制限があるっぽい。ヤバいことが起こるんだとしたら、1回やったらもうやりたがる奴はいないだろう? なのにある……つまり、良いこと、な気がする」


 

 背理法的な思考ってやつだ。

 要するに、悪いことが起こると仮定すると、その状況に合わない要素が存在してしまう。


 だから少なくとも、悪い事じゃない、と思う。



「よし、やるぞ――」



 二人の頷きを受け、俺は500DPを交換する。


 残り回数が明確に1回減ったことを、上手く言えないながらも自己の感覚として理解した。


 その後、俺達の目の前に眩い光が降りる。


 


「うっ――」


「眩しい……」


「っ……」



 強烈な光に耐える時間は、それほど長くはなかった。

 光が徐々に収まると、目の前には縦に長い姿見(すがたみ)がいつの間にか存在していたのだ。




「……鏡、だな」


「うん……」


「マスターの姿も、ハヤテの姿も……ちゃんと映ってるね」



 それが縦長の鏡であることは分かった。

 が、それ以外にはこれと言って見るべき部分は……お!?



「鏡面が……変化してるぞ!」



 ガラス質が一瞬にして、液体状になった。

 かと思うと、直ぐに元に戻る。


 しかし、そこに映っていたのは俺達の姿ではなく、別の知らない誰かだった。



「えっと……」


「……誰?」



 赤星も。

 そしてリヴィルも知らない人物。


 勿論俺も、全く心当たりなど無い。


 だが、地球には決しているはずのない存在だということだけは直ぐに分かった。




「……ケモ耳だ、うわぁぁ可愛い!」



 赤星が珍しく高揚したように、鏡面を見つめてそう告げる。

 


「……獣人族、それも“狐人(フォクスト)”だね……狐を映す鏡なのかな?」



 リヴィルは人物としては知らないが、やはりその“種族”は知っているらしい。



「うーん……子供、ッポイな。下手したらルオより年下かもだ」



 その鏡に映る狐耳の少女は、場面か映像を移し替えるように、コロコロと表情が変わった。

 先程までは嬉しそうにはしゃいでいたのに、今度はとても悲しそうな表情をしている。



 頭に付いた耳はその感情を表すかのように垂れ下がり、目尻には大粒の涙さえ浮かべていた。



「うーん……どういうことだろうね、これ。別にこの子がここにいる、ってわけじゃないだろうし」




 赤星が言い終わるよりも早く、瞬きした間にまた表情が移り変わっている。

 というより、少女の別々の日、時間、場面をブツ切りにしてランダムに映したと言った方がしっくりくる。



 少女は誰か彼女よりも背の高い人と手を繋ぎ、歩いていた。

 その表情はとても幸せそうで、見ているこちらが癒されるような光景だ。 



「……ねえ、このもう一人の方の人……マスターじゃない? 手の指、凄い傷だらけだけど」


「は? 何言って――あっ!?」

   


 リヴィルの突然の発言に面食らい、確認しようと画面に視線を戻す。

 が、そこにはもう少女の姿は映っていなかった。



 映っていたのは、俺の驚いた表情で……。



「500DP分の時間が経過した、ってことか……」




 何だか良く分からないまま映像を終えてしまった。


 そうしてモヤモヤを抱えたまま、俺達は今回、その場を一度離れることにしたのだった。


赤星さん無双だけじゃなく、ちゃんとメインストーリーも進んでいるのですよ!(瀕死状態)


すいません、明日はお休みするかも……。

流石にちょっと疲れました。


感想の返しは時間を取れるとおもいますので、そちらはご心配なく。


ふぅぅ……。


狐耳の少女は誰かって?

……そこまで遠くない未来、分かるかも、とだけ申しておきましょう。

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[一言] 先生!オリヴェアさんはちょっと 血が好きなだけの普通の人と仰ってましたのに 織部っぽい女の子と称してしまった。。。 これは変態と認めたと同義ですぜw とうとう真ヒロインが動き出す ヤバイ、…
[一言] > 「うーん……じゃあやっぱり無意識的にメスを惹きつけてる、とか? マスターだとあり得るよね」  やはりメス……! つまりは女狐──!  うん、ORBさんあたりが言えばギャグテイストになりそ…
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