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215.よかったね……。

お待たせしました。


このお話で終わらせるつもりだったんですが、ちょっとダラけてしまい、終わりませんでした……。


ではどうぞ。


『五剣姫それぞれに、秘密裡(ひみつり)闇市(アンダーマーケット)の話は行っていると思います。それで、シルレさん、カズサさんもいらっしゃったのでしょう?』


 

 オリヴェアは確信に満ちた表情でシルレ・カズサさんを見る。

 しかし、それに二人は答えることが出来ない。


 それは勿論、その“闇市(アンダーマーケット)”のことを多くは口に出来ないから……ではなく。



「……ご主人様、もしかして……」


 

 同じく成り行きを見守っていたラティアが、声を抑えて耳打ちして来る。

 相手が実際には目の前にいないのに、コソコソ話すのも不思議な感じだが……。


 

「…………」


 

 俺は頷きを持って、ラティアの考えているであろうことに同意する。


 

 ――オリヴェアは誤解している。



 シルレやカズサさんは別に何か特別な任務を帯びていて、それを調べるためにオリヴェアの下を尋ねたのではない。


 俺やレイネ、そして織部との協力関係があって、そこに多少の義理や恩義があるからこそオリヴェアの治める“リリアスの町”へと赴いたのだ。



 何か、シルレとカズサさんが凄い裏の情報に通じていて。

 それでレイネの妹さんの行動を察知してここに辿り着いた、みたいな感じになっているが……。


 


『…………』

 

『えっと……』

  



 ……うん、やっぱり違うな。 


 カズサさんは沈黙しているが……。

 シルレは見るからにどう反応していいか戸惑っている。

 

 それがまたかえって、オリヴェアの指摘がズバリ的中、的を射たみたいな反応にも見えてしまうから質が悪い。


 

 あちらの室内は何とも言えない微妙な空気に。

 そのためか、会話が途切れ、しばらく沈黙が流れた。

 

 


『あの……一つ、良いですか?』




 邪魔しないようにと静かにしていた織部が、恐る恐る手を挙げた。

 全員の視線が織部に集まる。


 

『はい、どうぞ。何でもおっしゃって下さいな』


 

 オリヴェアの許可を受け、改めて織部が発言する。



『で、では。あの……これ、言っていいのかどうか分からないんですが……』


 

 真面目な話が続いたためか、織部は臆しながらも、核心部分を口にした。

 


『――私達、そのルーネさんの“お姉さん”が今何処で何をしているか、心当たり、有るんですが……』 



 俺達や織部にとっては、むしろ当たり前のこと過ぎて申し出るのが気後れするほどの内容。



「…………」



 隣にいるレイネも“これ、言っても大丈夫な奴?”みたいな顔して来るし。

 うん、大丈夫だよ。



『え? あの……えっと?』



 いきなり何を言い出すんだと言わんばかりに、オリヴェアが聞き返す。

 その時、初めて彼女が素の表情を見せたような気がした。



 箱入り娘のご令嬢が初めて外の世界に出て、“これは何? あれが本に載っていた蝶々なの?”と無邪気に聞くような、そんな気負いも何もない素顔を。



『…………』


 

 一瞬だけ、織部がこちらを――置かれたDDを見た。

 俺はそれを、レイネのことに具体的に触れてもいいか、という確認の意味だと受け取った。


 そして俺はそこで反応を返さない。

 それこそが回答だった。


 

 織部はそれで、肯定の意を汲み取ったというように一度目を瞑る。


 そして見開き、レイネのことを伝えた。



『――ですから、私にはとても頼りになる“協力者”がいるんです。先のダンジョンの件でも助けてもらいました』


『え、ええ……そうおっしゃっていましたわね』


『その人が、今、ルーネさんのお姉さん――“レイネ”さんを保護して一緒に生活しているんです』



 織部の話を、そしてその名を聞いて、二拍ほど遅れただろうか……。

 

 オリヴェアが思わずと言った風に立ち上がった。

 その勢いで、座っていた立派な椅子が後ろに倒れた程の驚きようだ。



『ほ、本当に? 本当に……ルーネのお姉さんは、生きているのかしら!?』


『はい。何なら……姿をお見せすることも、もしかしたら出来るかもしれませんが……』



 ……なるほど。

 ここで俺達の存在を紹介するということらしい。


 

「あの、隊長さん……」



 不安そうにこちらを見てくるレイネ。

 それに対して俺も、そしてラティアも。


 安心させるように笑顔で頷いた。



「……うん」 



 レイネが画面前にしっかりと姿を映す。

 もうコソコソと隠れるようにして聞く必要もない。




『――さっ、これを……』



 あちらで織部が準備を進める。

 画面の視点が変わった。


 

 オリヴェアの姿が大きく映し出される。

 


 改めて見て、とても整った容姿をしているお嬢さんだと思った。


 だが無駄に着飾るでもなく。

 必要な装飾を必要な分だけ施した姿をしていた。


 無駄も過小もダメだと心掛けている、そんな性格が服装に出ている。


 

 しかし、その自信の表れがまるで嘘のように、今すぐにでも神に祈り出すのではないかというくらい恐る恐る画面を覗き込んでいた。 

 


「あ、あの……――ど、どうも」



 とうとう二人がお互いの姿を認識した。

 姉妹との再会、でないのは残念だがそれでも。


 お互いに探していた相手の存在を確信できた、その喜びが体中のあちこちから湧き上がっている。


 その様子が傍から見ている俺達にもありありと伝わって来た。



『あ、あ……あぁぁ! ルーネの言っていた通り、ですわ……とても、とても聡明そうで、お美しいお方ですのね』



 目の端にうっすらと涙を浮かべながらも。

 レイネの姿をその目に焼き付けようと、オリヴェアが懸命に瞳を開け続けている姿がとても印象的だった。


 それだけ、レイネの妹さんのことを。

 そして今会ったレイネのことさえも、とても想ってくれているのが分かったから。




 良かったな、レイネ……。     




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 俺やラティアの具体的な自己紹介までは、まだ至っていない。

 が、それでもレイネとオリヴェアの初の対面は成功だと言えた。

 


『行き違いの様になってしまったのがとても口惜しいですわ……ですがルーネが戻ってきたら、必ず(わたくし)がレイネさんとお会いする機会を設けましょう』


「あ、あの……ありがとうございます!」


『いえ……ふぅぅ……あっ――』

  


 その時、オリヴェアの体がフラッと揺れた。

 と思った時には、彼女はその場に崩れ落ちていた。


 同時に、今まで感じていた不気味な雰囲気がスッと消えたのを察知する。



『オリヴェア!? だ、大丈夫か!?』


『オリヴェア様!?』



 真っ先にシルレとサラが駆けつける。

 体を抱き起し、介抱しようとした。


 が、掌を向け、それを拒む。



『だ、大丈夫ですわ……懸念が一つ片付いたと思ったら、安心して、気が抜けてしまっただけで……』


「…………」


 

 レイネはその言葉では満足せず、本当に大丈夫なのだろうかとハラハラしていた。


 こういう時、こっちにいる俺達って出来ること、少ないよな……。


 前のボス蜘蛛の時みたいに、何か送って欲しい物があったら送るくらいで……。



 はぁぁ……仕方ないとはいえ、何も手出しができない自分がちょっと情けなくなるな。


 自分の無力さを改めて思い知っていると、カズサさんがオリヴェアを見下ろしていた。


 

 角度的に少し見辛いが、その表情はとても深刻そうで……。


 ……と、思っていたらいきなり自分の武器を取り出した。


 どこからともなく現れた大きな鎌。


 死神を連想させるその鋭い刃先を自分の手へと持っていき――




 ――あっ、自分で指先を切った!?

    



『オリヴェアさん……貴方、まだ“同性の血”だけしか飲んでいなかったのね?』



 そう言いながらも、血が滴って来た人差し指をオリヴェアの口元へと持っていく。


 タラッ、タラッと血はオリヴェアの口内へ。



『あ、あの! えっと血がいるんですか!? う、うぅぅ……えい!』


 

 状況を見てわたわたしていた織部も、意を決したように自分の指をガリっと思い切り良く噛み切った。


 うわっ、痛そう……。



『……あ、お気持ちは有難いのですがカンナさんの血だと“光”の魔力が強過ぎるので、吸血鬼のオリヴェアさんには……』


『あ、そうですか…………』



 カズサさんに言われ、しょぼんと引き下がる織部。

 指を噛み切り損だ……。



『…………どうも、ありがとう、ございました。おかげで楽になりました。お礼を、申し上げ、ますわ』


 

 フラフラと立ち上がるオリヴェア。

 だがどう見ても楽になったとは思えない。


 ……それに、さっきまで感じていた覇気というか、正体の掴めない不気味な雰囲気も、まるで今は感じなかった。


 

 何か、緊張の糸とともに、見えない透明なバリアーまでもが切れてしまったみたいに……。

 


「えっと……どういうことでしょうか?」



 ラティアが、頭に疑問符を浮かべて俺やレイネを見てくる。

 が、俺もレイネも勿論さっぱり分からず。 



『……その、聞いても大丈夫ですか?』



 そんな俺達の気持ちを代弁してくれるように、織部が一歩踏み込んだのだった。


 ……うわっ、ってかもうさっき噛んでた指の傷治ってる!?


 すげぇぇ……流石は勇者。

 本当、こういう姿だけ見てると、ちゃんとまともなんだけどな……。  

 

『…………』



 オリヴェアは顔を背ける。

 今まで、何でも堂々と答えていたがそれだけは言いたくない、といったように口を固く閉ざしていた。


 が、それを見ない振りして、カズサさんが代わりに教えてくれた。


 

『オリヴェアさんは……少しだけ特殊な“吸血鬼”なんです。彼女は自己の体を構成する血を、食べ物ではなく、他者の血に依存しなければならない体なんです』



 それだけなら、そこまで驚かないが……。

 地球(こちら)での、吸血鬼の“血”に対するイメージなんて、大体そんな曖昧な感じじゃないのかな?


 

 ……が、それは単なる前提だったようで。

 カズサさんはその話の核心部分に触れた。



『そして――“同性”の血を吸っても、それを殆ど“魔力”へと変換してしまう体質なんですよ』


『え? じゃあ……今さっきカズサさんがなさっていたのは?』


『……気休めです。ですから、“吸血鬼は長命”なんてイメージがあるでしょうが――彼女は本当に長生きしようと思ったら、“異性の血”が必要不可欠なんです』


何かやっぱり偶にハイファンタジーを書いている気になってしまいますね……。

ただ、もう次の1話で何とか終わらせ、ちゃんと主人公たち主導に戻りますのでご安心を!


で……どうでしょう?

ちゃんとオリヴェアさんはまともだったでしょう?


そうなんです、まともな美少女だっているんですよ!


オリヴェアさん、頑張れ! 

頑張るんだ!


次話まで頑張れば、後は何とかなるから……!

だから、織部さんと同音だなんて不名誉、一緒に吹き飛ばしてやろうぜ!(白目)


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― 新着の感想 ―
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[良い点] 綺麗なオリヴェさんへのニーミポーション(意味深)が 不運にも配達事故(迫真)に合ってしまう 真犯人(あるじ)を庇い責任を負わされた苦労人サラに 確信犯のサキュバスから言い渡された示談の条…
[一言] > 『オリヴェアさん……貴方、まだ“同性の血”だけしか飲んでいなかったのね?』  あっ……新海さんの|ポーションブラッド《薬草ジャンキーの血液》を投与する展開ですねくぉれは。 >ちゃんとオ…
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