205.直行便だったらしい……。
ふぅぅ。
お待たせしました。
ではどうぞ。
「はぁぁ……何でここまで来るのに一苦労すんのかね……」
「あ、あはは……ゴメン、ご主人、ちょっとはしゃいじゃった」
「う、うぅぅ……悪い隊長さん、ちょっと意識が変な方に飛んでて」
ルオとレイネは反省しているようなので許すとするか……。
……で、主犯と共犯は?
「…………」
「…………」
おーい、二人とも。
ササっと視線逸らしたね、うん。
……コイツ等は反省の色なし、と。
でも罰とかは……あんまり気乗りしない。
「……あ~メイド服を着て受ける罰でしたら、とても反省するかもしれません」
「……私も、メイド服なんて着せられて罰を与えられようものなら、もうマスターには逆らわないって誓えるのになー」
……棒読みで何をぬかすかコイツ等は。
「――クニュゥ! クゥニュ、ニュ~!」
ああ、こら、暴れんな!
小柄な割にお前重いんだから!
子竜は前へ前へと行こうと大きく動く。
かなりの力で、抱き留めている腕が色々とぶつかって痛い。
俺たちの目の前には、下層へと続く階段があった。
レイネが最初、飛んで見つけてくれた所だ。
「さて……ほらっ、今放してやるから」
俺は子竜を地面へと降ろす。
そっと地に降り立ったドラゴンは、嬉しそうに走り出した。
「うぉっ!?」
子竜が階段に差し掛かると、その場が瞬時に光り出した。
階段は透明な障壁に遮られ、ドラゴンはガラス板の上を歩くようにそこに乗ったのだ。
「……へぇぇ」
「あらっ……」
リヴィル達も大なり小なり驚きを持って事態を見守る。
子竜を中心に、輝きが増す
そして光の円柱が立った。
恰もワープ空間が出来上がったみたいだ。
子竜ははしゃいでこちらに駆け寄ってくる。
光の柱はそれでも消えない。
……マジの近道らしい。
「……お前、意外と凄ぇんだな」
俺の元まで駆けて来たドラゴンを、感心しながら撫でてやる。
「クニュ~クニュ~」
目を細め、気持ちよさそうに声を鳴らす。
「凄いですね……未だ右も左も分からない幼竜なのに、媚び方が既に一人前の雌ですよ」
「いやラティア、お前何言ってんだ……」
うん、今のはレイネのツッコミが正しい。
しばらく様子を見ていても、そのゲートが消えることは無かった。
制限時間とかがあるわけでもなく、本当に見つけたら使える隠しゲート的な物らしい。
「……大丈夫そうだな」
「だね。……リアお姉さんに連絡する?」
ルオに確認され、そうだなと改めてDD――ダンジョンディスプレイを取り出す。
さっきは簡単に事情を説明して誤解を解くだけに終わった。
が、未だ逆井がかけてきた理由はちゃんとは聞いていないのだ。
「少し休憩にしよう。その間にちょっと逆井と連絡とるから」
俺はラティアに後を任せ、逆井に連絡を入れた。
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「……ふ~ん、赤星が?」
『そ。ハヤちゃん、何か離れてても気になるんだって、そのダンジョン。だから新海に連絡取ってくれないかって』
……第六感というか、直感というか、そういうのかね。
通信を繋いで、逆井から聞かされた赤星の話に、しばし考えこむ。
「“気になる”……危なそうとか、“新海君、そこ死亡フラグ立ってない?”とか、そういう意味じゃなく?」
赤星の真似を若干入れて聞いてみる。
逆井はおかしそうに笑い、手を横に振って見せた。
『ハハッ、それハヤちゃん? 違う違う! いや、似てもいないし、そういう意味でもなかったと思う』
逆井もそういう風に受け止めているのなら、必要以上に心配することもないか。
似てないのは……仕方ない。
『ハヤちゃんがその攻略されたダンジョンにもう一回潜って、今回の新海達の遠征に繋がったでしょ?』
「ああ、そうだな、皇さんに話が行って、俺に回って来た」
逆井は前提を確認すると、頷きを一つして話を続けた。
『何かね? ハヤちゃん、“誰かに誘われてる気がする”とか“良く分かんないけど、呼ばれてる気がした”みたいなこと言ってた』
「…………」
それ……大丈夫なのか?
赤星、何かに憑りつかれてたりしない?
何となくそんな懸念を伝えると、逆井も同様の感想を抱いたらしい。
『うん……新海達はラティアちゃん達含め最強じゃん? だからあんまし心配はしてない。そっちよかハヤちゃんの方が何だか大丈夫かってなっちゃう』
「……そうか、ちょっと俺も心配だし、織部にでも聴いてみるわ」
アイツ自身が役立つかどうかは甚だ疑問だが。
逆井はそれを聞いて安心したように微笑んだ。
『ん。柑奈によろしくね!』
「おう」
逆井は用件を伝え終え、通信を切った。
「……さて」
俺は再び、別の人達へとDDを繋ぐ。
『……なるほど。例の“伏兵力のハヤちゃん”さんですか……』
逆井の奴、織部に赤星のことをどう伝えてんだ……。
手短にした話を聴いて、織部は直ぐにカズサさんとサラに助言を仰ぐ。
……うん、自分ではお手上げだと瞬時に判断できたのは偉いぞ。
『おそらく……その方は“風の大精霊シルフ”の目に止まったんじゃないかと』
『私も同意見です。エルフの間での言い伝えで聞いたことがあります。その一節に“精霊に見初められし者、ダンジョンに誘われ……”とあるので』
「それは、じゃあ……赤星がいないとダンジョン攻略は出来ない?」
俺の考えは少し勇み足だったようで、カズサさんがクスッと微笑み首を横に振る。
『そんなことは無いでしょう。“シルフ自身”のダンジョンならまだしも。僕が治めているダンジョンでしょう? なら大丈夫です』
『むしろ逆にニイミ様がダンジョンを攻略するまでは、出来るだけ近づけない方がいいかもしれません』
サラの言葉に虚を突かれたように驚く。
一体どういう意味だろうかと詳しく尋ねてみた。
『“シルフ”は“四大精霊”の中でも、悪戯好きで有名なんです。おとぎ話ですが、大好きな英雄相手に遊びの一環で風の悪魔を差し向けた、なんてこともありますから』
「おう……」
なら、赤星自身がこのダンジョンからは距離を置いて、俺達に話を持ってきたのは判断として適切だったらしい。
……アイツ、そういう所でもやっぱ直感が鋭いんだな。
流石だな、と心の中で赤星への評価を1段引き上げる。
『……むむっ! 今私の“織部レーダー”略して“オリベーダー”が反応しました! 新海君、今誰か女の子のことを考えてましたね!?』
「……いやもうツッコむの面倒臭いんだけど、切っていい?」
何でそんなどうでもいいことにセンサー張り巡らせてんだよ。
もういいからシルレの手伝いしてやってくれ、さっきから一人で飯作ってんぞ?
『――とにかく、ニイミさん達も、お気をつけて。相手は配下とはいえ、“シルフ”に関係する者です』
「ウっす」
俺はカズサさんの助言を頭に入れ、DDの通話を終えたのだった。
「――あ、逆井が織部によろしくって。じゃ、それだけ。またな」
『はい分かりました――って、いや、え、本当に終わりなんですか!? ちょ、新海君――』
ブツリッ。
……さて、気合い入れるか!
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ワープの浮遊感が無くなり、周囲の眩さも徐々に収まっていく。
恐る恐る、ゆっくりと、目を開けた。
その目に飛び込んできたのは、視界一杯に広がる花畑。
色とりどりの花の絨毯が足元を埋め尽くしている。
風が吹き、幾つかの花びらが空に舞う。
美しい幻想的な風景。
――その先には、1体の人型モンスターがいた。
植物を、そのまま人にしたような緑の体色。
下半身は完全に大きな葉で覆われている。
俺達が歩き出すまでもなく、相手はその存在を把握していたようで……。
「――待っていたのよ。ようこそ、最終15階層へ。ここが私――守護者“アルラウネ”の管理する間なのよ!」
ちゃんとあのワープは終着駅に辿りつく直行便だったらしい。
今日一番の戦いが今、始まろうとしていた。
多分次でこのダンジョンの重要な部分のお話は終われると思います。
それと、午後に、あるいは次のお話を更新してから感想の返しを行うと思います。
ですので、お送りいただいた方々には申し訳ありませんが、もう少しだけお待ちを!




