195.ルオ、お前正気か!?
今日は早めに更新です。
後、200部到達しました。
感想もいただきまして、大変嬉しい限りです。
本当にここまでこれたのは偏に皆さんからのご声援あってのことです。
ありがとうございます、これからもよろしくお願いします!
……と、言っていてなんですが、今回も多分、感動要素とは無縁になりそう。
ルオ、奴は弾けた……。
『――ハーイ! 留学生としてアメーリカから来マシた! シャルロットと言いマース!』
活発な金髪の少女一人がアップで画面に映された。
上部には“ダンジョン探索士補助者兼シーク・ラヴ研究生:①シャルロット・ホワイト”と説明文が挿入されている。
『シャルロットちゃんはアメリカ人にしては日本語が上手だね』
研究生全体を気遣ってか、それとも何か思惑でもあるのか、赤星は軽い雑談を振った。
シャルロットはそれに人懐っこい笑みを返して答える。
『フフン! イッパイ、たくさーん勉強しました! フジサン、スモウ、エロゲー! 日本の誇るべき伝統ブンカデスネー!』
その3つを並列させると、違和感が凄いな……。
間違い探しにすらなってないぞ。
『あ、あはは……――えっと、じゃあ次、九条さんに質問してみようかな?』
苦笑いしてスルーした赤星は、次の研究生紹介に移る。
次に出てきた少女は、少し茶髪がかった日本人の少女だ。
あまりこういうのに慣れてないのか、ビデオカメラを向けられただけであたふたし出す。
『あ、あの! えっと! く、九条でひゅ! あうっ……噛んじゃった』
“です”を“でひゅ”って……。
まあでも、その仕草自体も可愛いしどこか和むものがある。
確か志木が推薦したというだけあって、素材自体は超一級品なんだろう。
彼女が落ち込む表情のところで“同:②九条聖”という説明文が入った。
『大丈夫です、全然問題ありませんよ! 私なんてしょっちゅう噛みますから、頑張って行きましょう、“ひじりん”ちゃん!』
そこに割って入るようにして現れたのは桜田だった。
俺から見れば胡散臭い笑みを浮かべ、ミスした九条をフォローしおだてまくっている。
『あうぅぅ……ありがとうございます知刃矢ちゃん』
『同い年なんですから、堅苦しいことは無しで行きましょう! これからも分からないことがあればじゃんじゃん私を頼ってくださいね!』
九条は、赤星たち探索士とは違う、補助者用の制服を身に纏っている。
何となく共通点は多々あるものの、肌の露出も抑えられ、探索士の影・補佐をイメージした造りとなっていた。
だが、それにもかかわらず九条に隔てなく接する桜田は、一見とても良い奴の様に見えていて……。
「やっぱりチハヤは良い奴だよな~! あたしにも凄い良くしてくれるし」
こうしてレイネみたく、コロッと騙される人も出てくるだろう。
大丈夫かよ……。
その内ラティアとかに変なこと吹き込まれて、素直に信じてしまわないかとても心配だ。
「うーん……まあカオリの推薦した子っていうことが全てだろうね」
「……だろうな」
俺もリヴィルの考えに、全面的に同意見だった。
桜田の奴、志木対策で九条に全力でゴマすりにかかってやがる。
アイドルとしては先輩である、みたいなプライドはないのか……。
『――プフッ……フフッ、フフフ……次、行った方がいいんじゃない?』
そんな中、今まで後ろに引いて見守っていたはずの逸見さんが耐えきれないと言った風にそう口にした。
……何だろう、お腹抱えて笑いを堪えてんだけど。
『えと、じゃあそうですね。――次、“椎名さん”。行きましょうか』
『フッ、フフフ……が、頑張って、椎名ちゃん……ブフッ』
前々から思ってたけど、逸見さん、ゲラなのかな……。
逸見さんも、一応その椎名さんがルオだとは知ってるはずなんだけど。
「おっ、ルオの番だ!」
「ん。どんな感じになってるんだろうね……」
二人と同じく、期待感を抱きながらも。
一方で今の逸見さんの反応に、言葉にし辛い不安も同時に感じていた。
さて、ルオの椎名さんは大丈夫だろうか……。
――だが、そんな俺の心配など、とても追いつかないレベルの爆弾が投下された。
『――ハロ~! 皆っ、シイナだよ~☆ キャハッ!』
特大の爆弾が炸裂する。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ブフッ――」
ヤベェ、吹いてしまった。
口に飲料を含んでいたら、PCへの毒霧に代わっていたであろう。
ルオ、アイツ正気か!?
俺は思わず2階を見上げ、寝ているだろうルオにツッコミを入れる。
それほどの衝撃だった。
シャルロットや九条と似た補助者用の制服ながらも、独自に改造されているメイドをイメージした衣服。
しかも手には武器であろうステッキが握られている。
それが掃除用のモップっぽいデザインとなっており、全体的にどこか魔法少女を連想させた。
だが、そんなもの序の口だというように、画面内のルオ――シイナさん(2X歳)は止まらない。
『両手に萌えを、胸には奉仕の精神を! そして全身に御嬢様への愛を詰め込んだ、メイドアイドル、ナツキ・シイナ2X歳! アイドル界に見参!! キュピッ♡』
『ブフッ――』
おい、ビデオカメラ持ってる皇さんからも、思わず吹き出しちゃったみたいな声が聞こえてんぞ!?
『グフッ――』
『フフッ――』
可笑しそうに笑いを堪える赤星と逸見さんを、画面が捉える。
撮っている皇さん自身が笑ってしまっているためか、手の震えが影響して動画はプルプルと揺れていた。
『Oh~。ジャパニーズメイドさん。クレイジー、クレイジー過ぎるネー』
志木や俺達に警戒されているシャルロットからでさえ、そんな言葉を貰うほどだ。
ルオが演じる椎名さんは相当にヤバい。
『あ~! 酷いんだ~プンプン! シイナ、怒っちゃうんだぞ~! ゴロゴロピカッ!』
『え、えっと……椎名さん、あんまり無理はしない方が……』
唯一影響を受けていない様子の九条が、恐る恐るといった風にシイナさんを気遣う。
そこでシイナさんは初めて素の表情に戻った――風に演じて見せた。
『え? 無理? ――ちっ、違っ、わ、私! 別にこれ、好きでやってるんです! 年齢とか別に気にしてなくて、ほ、本当なんですよ!』
「おぉぉ……」
「……ルオ、凄いね」
「……だな」
俺たちはルオの演技力の高さに、3人揃って舌を巻いた。
ルオは要するに虚像としての“アイドルシイナ”さんを作りあげているのだ。
コンセプトとしては、こう。
痛いキャラを作って頑張って演じているが、年齢を気にしたり偶にボロが出てしまう、ちょっとポンコツなアイドル。
それを念頭に、ルオは見事に演じて見せているわけだ。
うーむ……見事。
「……でもこれ、本人は知ってるの?」
リヴィルが主に俺へと尋ねてくる。
しかも大丈夫かと気遣うような声音で。
それは恰も、このことで第一次的に被害を被るのは俺であると暗示しているように……。
「…………どうだろうな」
分からん。
知っててこれなら、椎名さんは修羅となる決意をしたのかと疑いたくなる。
知らないなら……俺はしばらく、スマホは修理に出そうかと思う。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『せっ、はぁっ! すっ、せぁっ! ――シャルロットちゃん!』
『OKネ! タァァッ――ワォッ、全然効きまセン!!』
ダンジョン攻略が開始されて2度目の戦闘。
探索士一人に対し、補助者一人がくっ付いて行動していた。
『ひじりんちゃん! 今です、その剣でモグラ擬きを叩いてください!』
『は、はい!! やぁぁぁ!!――あっ、逃げちゃった!?』
赤星・シャルロットペアと違い、桜田・九条の二人は中々攻撃を当てることが出来ないでいる。
「あっ、そこっ、チハヤ、今だ! あぁぁ……惜しい」
「攻撃が通らないの、チハヤがサポートに回っちゃってるのもあるかもね」
桜田は大きなダメージを狙うハンマーを武器にしている。
それが大振りな分、補助たる九条がサポートしないといけない。
だが、リヴィルの言う通り、役割りが逆転してしまっているのが大きいだろう。
「まあ見た所、ダンジョンのレベルは大したことない。というかそういうダンジョンを選んだんだろう。だから心配はいらないと思うが……」
本来この“補助者”制度が目指しているのは最大で探索士:補助者=1:5。
つまり、1人の探索士につき5人まで、補助者が随行することを目指している。
ただ、今はまだ制度が走り始めたばかり。
それに、これはその制度が具体的にどう運用されるかを示すためのビデオだ。
それなのに全くダメな部分ばかりは映さないはず――
――おっ。
『キュピー! やぁっ、キラッ! そっち行ったよ、六花!!』
ルオが演じるシイナさんが、そのモップステッキを使って上手くモンスターを掬い上げる。
叩かれると思って地中に逃げようとしたコボルトは、なす術もなく逸見さんのもとへ。
『ありがとう椎名ちゃん――はぁぁぁッ!!』
鞭を一閃。
地中を行き来できる以外に見るべきところのないモンスターは、その一撃でのされてしまう。
「今のコンビネーションは上手いな」
戦闘に長けたレイネからしても、褒められる内容だったらしい。
「まあ何だかんだ言っても、中身は一応ルオだからね」
リヴィルの言う通りだが、実際に戦う側としてはこれが補助者と探索士としての理想形なんだろう。
というかそもそも、ほぼ誰もが最初はモンスターへと攻撃を通すことが出来ない。
異世界から取り寄せたり、あるいは異世界産の物を練り込んで作った武器があれば別だが。
つまり結局トドメや有効打は、今の逸見さんがやった様に、探索士が担うことになる。
ちゃんと役割り分担を意識させる上でも、赤星・桜田・逸見さんとそれぞれのペアの流れで見せたのは、意味があったんだろう。
経験を積ませるためか、赤星が手加減して保たれていた均衡が一気に崩れ。
そうして2度目の戦闘も、大きなミスなく勝利で終わった。
その後、2回戦闘を経て、ダンジョンが攻略された。
1階層しかない、本当に初心者向けダンジョンではあったが、解説動画にはピッタリだっただろう。
『疲れマシタ……それに、全く役に立ちませんデシタ……sorryネ』
『私もです……うぅぅ、花織さんみたいなアイドルへの道は遠いよ~』
新人二人は真実、役に立ったとは言えない内容だった。
だが、赤星たちは別にそれでいいんだと励ます。
……まあ、赤星達も1回のダンジョンだけで戦えるようになったわけじゃないしな。
特にシャルロットは、簡単にダンジョン攻略の秘訣が分かるわけではないと肩を落としているように見える。
フフッ、頑張りたまえ若者よ。
「――とりあえず動画はこれで終わりだな」
暗くなった画面を確認し、伸びをしながらレイネが告げる。
「だね。……マスター、どう報告するの?」
「ん? いや、別にまともに作られてたって、そのまま普通に」
だがリヴィルの表情は晴れない。
普段からキッパリ告げるリヴィルにしては言い辛そうに、口を開いた。
「……ルオの、“あれ”も?」
「ああ……」
それだけでリヴィルの言いたいことが分かった。
要するに“キャピ! 2X歳メイドアイドル見参!!”のことね。
「……PCがぶっ壊れた、はダメかな」
「隊長さん、そりゃダメだろ」
ダメか……。
更新を優先してしまいましたので、感想の返しはこの後少しずつ、日が変わるまでには何とかやっていきます。
ですので、後もう少しだけお待ちを!




