194.初仕事、ってことかな?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「えーっと……ここをこうして……良しっと」
送られてきたデータを移し、PCで見る準備を終える。
画面を戻して、チャット相手にその旨を伝えた。
『そう。じゃあ時間のある時でいいから、良かったら見てくれるかしら?』
画面向こうの志木はホテルの部屋にいた。
今回の同室は白瀬らしい。
丁度彼女が風呂上りで画面の端に映るのが見えた。
「おう。何と言ってもルオも出てるんだしな。ちゃんと動画は見させてもらうよ」
そう言いながらも、白瀬の様子が気になって仕方がない。
アイツ……風呂上りで油断してんのか?
それは別に、ちょっと裸が映っちゃってるラッキースケベ的な意味ではない。
――〇村後ろ! ならぬ白瀬前! である。
もっと具体的に言うと白瀬は、あんなに平らでいてはいけないはずなのだ。
『助かるわ。……? えっと、何かあったかしら? 少し眉間に皺が寄っているようだけど』
「ああ、いや、何でもない」
というか、白瀬の胸が何にもない……いやいや!
志木に指摘され、慌てて思考を切り替える。
が、志木の言葉が聞こえたのだろうか、白瀬が振り返る。
そしてバスタオルで髪の水滴を拭いながら、画面に近づいてきてしまった。
『……本当に~? 何だか心配。ハ、ハー君、前みたいに無理しちゃう時、あるから』
白瀬につっかえながら“ハー君”と呼ばれ、一瞬誰のことか分からず。
『…………“ハー君”って、彼のこと?』
志木がそう口にしてくれたおかげで、それが俺のことだと理解する。
ただ、ジトっとした目で俺と白瀬を交互に見るのはやめて欲しい……。
『そ、そうよ。悪い?』
いや白瀬さん、志木に胸を張って答える前に、張る胸が行方不明なんですが!?
大丈夫ですか、どこかで2つの果実擬きを落とし物してませんか!?
『ふ~ん……まあいいわ。――で、私がお風呂頂く前に、もう一度、簡単に説明しておきます』
切り替えたようで、志木は改めて体ごと画面に向き直った。
俺も頷き、メールに書かれていた内容を頭の中から引っ張り出してくる。
「先週くらい、ルオが初めて椎名さんと実際に入れ替わった。で、それが、研究生含めたダンジョン攻略過程の撮影、なんだよな?」
志木と白瀬が揃って頷く。
『正確にはダンジョン探索士“補助者”を含んだチームで、ダンジョン内に入った場面を撮影した、ということね』
『ウチからは六花さんが参加してる。確か志木さん達の所からは……志木さんと逆井さん以外よね?』
これまた志木が肯定し、おおよその参加者を知らせてくれる。
『貴方の確認を貰ってから、動画アップを考えてるの。気になったことがあったら何でも言ってね?』
「分かった。これから時間あるから、明日にでも感想の詳細送るわ」
『ありがとうございます、それじゃあ私はお風呂に――』
あっ、ヤバい。
志木が立ち上がった。
ホテルの同室だし、同じ浴場使うんだよな……。
もし脱衣所とかにあったら……マズい。
いや、別に俺はどうということもないんだが、知り合いの勇者が同じ悲哀を抱えているからか。
できれば秘密は秘密のままで隠し通してあげたい。
「え、えーっとさ。言い辛いんだが、一つ忠告しとく」
『? 何かしら』
志木は一人用ソファーの前で動きを止める。
白瀬も何事かとコチラに注意を向けた。
……一般論としてなら、大丈夫だろう。
頼む、勝手に俺の言葉から気づいてくれ……。
「あのな、志木も、白瀬も、今を時めくスーパーアイドルなんだろ? 俺も男なんだ」
二人はそれだけでは察してくれず、俺が何を言い出すのかと怪訝な表情。
クソッ、もう、俺が恥ずいだけで終わらせるなよ?
「だから、俺の目の前で、異性であるお前らが“お風呂”とか、そういう単語出すな。“ああ、志木や白瀬が使うお風呂場か……脱衣所には服とか色々、あんのかな~”って想像するだろ!」
『っっっっ!!』
『あっ――』
一瞬にして顔を真っ赤にし、バッと後ろに退く志木。
一方の白瀬は瞬時に顔を真っ青にし、風呂場へと飛んで行った。
……気づいてくれてよかった。
『…………』
志木は羞恥に悶えながらもさっきまではキッと俺を睨んでいた。
……が、白瀬の慌てぶりを目の当たりにし、それがどんどん半目に代わっていく。
『……貴方。もしかして、何か白瀬さんのフォローするために、ワザと自分が泥を被るような言い方をしたのかしら?』
疑問形での質問の仕方ながらも、その声音は確信に満ちた物だった。
「…………」
『私のお風呂姿とか、脱衣所でのあれこれを想像する、なんてのも方便、ということ?』
「…………」
流石に“はい、そうです”とは言えんですよ……。
『……ばか』
……ヤバい、黒かおりんが顔を覗かせだしている!
「え、えーっと何のことかさっぱり……あっ! 早く送られた動画見ないと、明日に響くな! これは急がないと、じゃあな!」
『あっ、コラッ、待ちなさ――』
――ブツッ。
チャット強制終了。
ふぅぅ。
危ない危ない。
さーってと、嘘はいけないから、動画を見ることにしよう。
で、動画に集中していたら、スマホへの着信とか気づかないことって、あるよね?
うわ~仕方ない、何か連絡があったら、明日に返信することにしよう!
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――ってことは、ルオとかチハヤの動画ってことか?」
「へ~。ルオが出てるんだ」
皆で動画を見て盛り上がり、議論に集中するためにレイネとリヴィルも巻き込んだ。
……決して、特定の誰かからの連絡に気付き難くするためとかではないぞ?
ルオは忙しくなり始めたからか、今日は既に疲れて寝てしまっている。
ラティアは、先日のお泊りの件のお礼ということで、逆井の家にお呼ばれしていた。
「ああ、ルオの初めてのアイドル活動ってことになるな。3人で見よう」
ソファー前のテーブルにPCを見易いよう置いて、俺は動画を再生した。
『――えと、ちゃんと映ってます? 電源、大丈夫ですかね?』
真っ先に聞こえてきたのは皇さんの声だった。
そして画面は桜田と逸見さんの二人を映す。
背景からすると、ダンジョンに入ってから撮影が始められているらしい。
無機質な岩肌や、足元の所々に生えている雑草・薬草類が目に入った。
「おっ、チハヤだ! イツミもいるな!」
「レイネ……チハヤへの贔屓が凄いね」
あ、はは……。
レイネは桜田大好きっ子だからな。
『大丈夫、問題ないよ。始めちゃって』
また画面外から声がする。
「今度はハヤテだね。これで探索士サイドは全員、かな?」
リヴィルの言う通り、直ぐにビデオカメラが動き、赤星の姿を映し出す。
赤星の側には他に3人の女性が立っていた。
それが誰なのかを把握する前に、一瞬、画面が薄暗くなる。
……ああ、人物紹介ね。
撮影済みの動画だから、一度編集して、登場する人物の名を画面に張り付けたらしい。
『本動画内における登場人物 ダンジョン探索士兼シーク・ラヴ:①赤星颯』
そこで再び映った赤星の頭上に名前が記される。
『同:②桜田知刃矢』
桜田はハンマーの石突に顎を乗せながら怠そうにしている。
……おい、アイドルしっかりしろ。
『同:③逸見六花』
鞭の強度を確認するためか、両手で正反対の方向に引っ張る逸見さん。
それを胸元でしているために、その大きな二つの膨らみが強調されて……っていかんいかん!
ちょっとさっきの胸関係を引きずってるな、集中しよう。
『同:④皇律氷――今回、撮影係と念のためのバックアップを務めます』
一瞬ビデオカメラが反転され、自身の声に合わせて皇さんの顔がドアップに。
だがまた直ぐに元に戻り、紹介を進行させる。
「――次が、ルオなんだよな?」
レイネが少し焦れったそうに聞いてくる。
「ああ、そのはずだ。まあとは言っても、ルオが演じている“椎名さん”だけどな」
『――続いて、今回ダンジョン攻略に随伴することになった研究生3人を紹介します』
皇さんのナレーションの後、ルオの他2人の紹介に入ったのだった。
要するに探索士補助者が具体的に入ってきて、それがどんな感じなのかというのと。
後はルオ名(=ルオが演じる椎名)さんですね。
ルオは……その無意識の層での勇者に対する怒りを、別のことで発散するかもしれない……。
椎名さん、ドンマイ(予告)。
感想の返しはまた午後に時間を取りますので、今しばらくお待ちを!




