192.再会のための下準備……。
お待たせしました。
ではどうぞ。
『えぇぇっ!? き、着替えるんですか!? “ブレイブカンナ”に!?』
「ああ、多分着替えてもらう必要があると思うんだ」
部屋に戻るなり早速DD――ダンジョンディスプレイにて織部と通信を繋いだ。
そして織部の事情を分かってもらうためには、それが一番だろうと提案したんだが……。
『その……あれ、変身する時、ほんの一瞬ですけど、えと、全裸……になる瞬間、有るんです。それを新海君の前でやるのは……』
いや、うん、俺の言う順番も悪かったけど。
「そうじゃなくてだな……えと、逆井の件だ」
誤解を正して、逆井との再会を進めてはどうかと説明する。
すると織部はホッと胸を撫でおろし一息吐く。
『な、な~んだ。そう言うことですか。じゃあ新海君の前でわざわざ変身したりは、しなくていいんですね?』
だから、そう言ってるじゃん。
「ああ、別にその必要はないな」
『……本当に、本当にいいんですね? 新海君の前では変身しなくて?』
何でそこをしつこく聞いてくんだよ……。
「何? 何か俺が見ないといけない理由でもあんの?」
『い、いえ……分かりました』
若干強めに問うてみると、織部は渋々引き下がった。
いや、だから何で“渋々”……。
とりあえず逆井に話しても大丈夫だということを、出来るだけ丁寧に話して伝える。
これで織部がまだ踏み出せないとかなら……まあそれは俺が強く言えることじゃない。
織部の心が決まるまで待とう。
だが、そんな心配も必要なかったみたいで――
『――分かりました。梨愛に……伝えます。新海君、橋渡し役、お願いしてもいいですか?』
画面向こうの織部はいつになく真剣な表情でいた。
……大丈夫そうかな。
「いいのか、本当に、決まったら直ぐにでも動くぞ?」
決まった後、時間を置くとその決意が鈍る可能性もある。
だからやるとなったら今からでも、ということを伝えた。
しかし、それも織り込み済みといったように頷き返してくる。
そしてどこか覚悟を窺わせる強い瞳で、織部は言ったのだった。
『大丈夫です。自分の親友……梨愛と。そして――新海君を、信じてますから』
「……そうか」
ならもう何も言うまい。
俺はその覚悟を受け、しっかりと逆井との間を繋ぐ。
それだけだ。
今すぐにでも取り掛かろうとDDの通信を切ろうとする。
『――あっ、あの!』
が、そこで織部自身から待ったがかかる。
……何?
『えーっと……新海君、それだけ、ですか?』
「……?」
織部が何を言いたいか分からず首を傾げる。
そんな俺を見て、織部は堪らずグワっと画面に近づいた。
『いや! 新海君、何かないんですか!? こう私のことを見直した的な言葉とか! ちょっとドキッとしたとか! あるいはやっぱり変身シーン見てみたいとか!』
お前やっぱ変身シーン誰かに見られたいのかよ……。
そしてそんな内心を知ってしまうと、見直すもドキッとするもないんだけど……。
はぁぁ~。
「……こっちの準備が出来次第、また連絡する」
『あっ、ちょ、新海君――』
容赦なくDDの通信を断ち切った。
……逆井に連絡しよう。
別の意味で二人の再会が心配になるのだった……。
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「おっ、リヴィルもいたか」
事前に話を通しておこうと下に降りると、ラティア以外にリヴィルもいた。
丁度いい。
「うん、いるよ。どうかした、マスター?」
「ああ。ラティア、リヴィル。今から逆井呼ぶから。そのつもりで頼む」
「そうですか……分かりました」
ついさっきそのことを話しているので、ラティアは直ぐに察してくれる。
「へぇぇ、そっか。うん、分かった」
意外にも、リヴィルは詳しい話を聴かないうちに頷いてくれた。
というか……ああ、そうか。
「なんだ、ラティア、話しといてくれたのか?」
「はい。おそらくこれからそうなるかな、と」
流石、色々と先読みが得意なことで。
二人から少し距離を取り、リビング内にてスマホを取り出す。
そして逆井へと電話を掛けた。
――prrrr,prrrr……
あれ、中々でないな。
――prrrr,prrrr……pi.
『――に、新海!? え、ど、どしたし!? な、何かあった!?』
いや、それは完全にこっちのセリフなんですけど。
何かあったのかってくらい焦ってない?
しかも若干……呼吸も乱れ気味?
俺から電話があったら、そんなにビックリしますかね……。
「えと、今大丈夫だったか?」
『う、うん! さっき丁度落ち着いた! って言うか終わったとこだったから、うん!』
…………。
「そうか。で、突然なんだが、今日これから、予定空いてるか?」
深追いはやめて本題に入ることにした。
何か直感が止めておけと言ってる気がしたのだ……。
『え!? えちょ、えぇぇ!? 今から!?』
「ああ、今から」
『う、うん……今日、始業式だったし、仕事の方は入れないように頼んでたから……空いて、る、けど』
電話向こうの逆井の声は、まるで借りてきた猫のように尻すぼみに弱まっていく。
ちょっと様子が変だが、まあ空いてるのなら何よりだ。
俺は改まった声で、用件を伝える。
「そのさ……大事な話があるんだ。今からさ、俺の家に来れないか?」
『…………』
逆井からの返事がない。
一瞬、電波の不調を疑ったが、そうではないっぽい。
逆井の声が微かにだが聞こえていたのだ。
……ちょっといきなりすぎたかな?
いや、それか明日も学校があるから忙しいのかも。
……でも織部の件がある。
鉄は熱いうちに打てというし、ここはちょっと強引でも逆井には是非とも来てもらいたい。
「明日以降のことを気にしてるんなら、別にウチに泊まって行ってもらっても構わない」
『――え、新海、何だって!?』
鈍感系主人公スキル!?
まさか織部じゃなく逆井からこの返しが来るとは……。
「え、聞こえてなかったのか? だから、泊まりでもいいから、来てくれないかって。逆井が来るなら、ラティア達も喜ぶだろうし」
『……な、な……』
“な”?
『――何でそんなこと、今言うしぃぃぃぃ!!』
いきなりの大音量に、思わずスマホを耳から離す。
恐る恐る近づけると、未だに逆井は何かをブツブツと言っていて……。
『も、もう! い、いきなり過ぎるし~! うぅぅ、汗臭いかな? シャワーだって浴びないと……』
……シャワー?
「ウフフ……リア様、来ていただけそうですね」
成り行きを見守っていたラティアが、満面の笑みを浮かべてこちらに近づいてくる。
……何ですか?
こっちは別に面白い事なんてないですよ?
ラティアはそのまま俺の1m程の距離まで来て止まる。
……何だ、逆井の声が聞きたいってだけか?
『あっ!? でも泊まりだと、新海の家で入るかもだし……えっ、ど、どうしよう、前に買っといたあの下着1枚しか――』
「ウフフ」
逆井の声が漏れ聞こえる度に、ラティアがその笑みを深める。
……ちょっと、何か色々心配になって来た。
「おーい。 来てくれるってことでいいのか? なら後で場所と道を書いてメールするけど」
心持ちラティアからスマホを離して、逆井に確認しておく。
『行くぅぅぅぅ!! 行くからぁぁぁぁ!! お願い、新海、お願いだからちょっと待ってぇぇぇ!!』
逆井の声が余りにも大きかったので、流石にこれはラティアの耳に拾われたらしい。
「少し、リア様の声、エッチな感じに聞こえましたね?」
……要らないことを、そんな笑顔で言わなくてよろしい。
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気苦労が増えた逆井との通話を終え、道順や場所などを詳しく記したメールを送る。
「ふぅぅ……で、二人には別に話しておくことがある」
2階を気にしながらも、俺はリヴィルとラティアを側へと呼び寄せる。
「……何、どうしたの?」
今まで様子を見守っていたリヴィルも、流石に俺の様子を察したらしい。
リヴィルも2階に目をやりながら、声を落として聞き返してくる。
「……もしかして、ルオとレイネ、のことですか?」
ラティアは早くも状況を察し、俺の言いたいことを先取りして口にした。
頷き、極力声を抑えて二人に説明する。
「これから逆井に、織部の事情を打ち明ける――これはいいか?」
二人は同時に首を縦に振る。
前提は問題ないらしい。
「で、だ。逆井が全てを理解するには……どうしても織部の“勇者”という部分を話さないとならない」
「あ、そっか」
今の説明だけで、リヴィルも全てを理解したらしい。
流石に頭のキレがいいだけあって、飲み込みも物凄く早いな……。
「そういうことだ……ルオとレイネに、織部が“勇者”だということはまだ知られる訳にはいかない」
「じゃあ……私とラティアは話が終わるまでは部屋に籠って、それぞれ二人をひきつけておけばいいんだね」
直ぐに自ら役割を言い出してくれたリヴィルに、頷きで返す。
「よし。じゃあ……頼んだぞ!」
二人も、しっかりと力強く頷いてくれた。
さあ、逆井と織部の再会の舞台を、しっかりと整えるぞ!
「ご主人様とリア様がお二人きりで、ご主人様の部屋で色々となさるんです。しっかりと人払いしてみせますね?」
「……確かに、マスター、私達の役割、ラティアの言葉通りで一応間違ってないね」
間違ってないけど、それは明らかに間違いへと誘導するためのワードを選んでるから……。
……離れ離れになっていた親友の二人再会のはずなのに。
何でや、逆井さんと織部さんがその主役になるだけで感動っぽさが薄れる!
うぅぅ……違う意味で泣けてくる。
感想の返しはまた午後に時間がとれると思います。
ですのですいません、もうしばらくお待ちください。




