132.じゃあ、ちょっと行ってくるわ!
休むかも休むかもと言ってましたが、結局今日は更新することに。
休みですしね、まあそこは融通利かせて。
ではどうぞ。
「はあ……分かり、ました。えと、はい、はい……」
最初こそ志木に何か勘付かれて叱られでもしているのかと思ったが。
桜田の受け答えを見る限りでは、どうもそうではないらしい。
妹さん二人も、桜田の邪魔をしてはいけないと静かにしているものの……。
「…………」
「…………」
心配な表情でそのやり取りを見守っていた。
うむむ……ちょっと不安になってしまってるかな……。
……お?
「――ああ、もうっ、辛気臭ぇ面すんな! うっし!」
そんな二人の頭を、レイネが乱暴にグシグシと撫でつける。
そして驚く妹さんたちの前に、丁度合流したてのラティア達を押しやった。
「わっ、わっと!」
「えっ、ちょ、何?」
「うひゃぁぁ、レイネお姉ちゃん!?」
いきなりのことで、ラティア達も。
また、妹さん達も。
互いに驚き合い、体を硬直させる。
「ほらっ! 普通に生きてたら滅多に会えないような美少女が3人だぞ! 隊長の仲間だからな! どうだ、今のうちに有難く拝んどけ!」
…………。
「え、えと……レイネ?」
どういうことか良く分からずに、ラティアは目を丸くする。
だが、振り返ったところに、レイネが申し訳なさそうな表情をしていた。
「…………わりぃ、後で埋め合わせはする。ちょっとだけ、その、合わせてくんねぇか?」
……そんな囁く声を、側にいた俺の耳が拾う。
レイネの発言の内容自体はちょっと不器用でいて分かり辛いが……。
要するに、2人の妹さんを気遣ってるってことだろう。
そのために、まだ出会って間もないラティア達に協力を仰いでいる。
“必要以上に干渉すんな”と言っていた彼女が、だ。
「…………」
俺はラティア達にアイコンタクトだけで伝える。
俺の視線の意味することを理解して、頷き返してくれた。
「――えっと、ボクルオ! よろしくね!」
年の近そうなルオが真っ先に少女達へと歩み寄ってくれる。
うん、助かるのは助かるが、その自己紹介……いや、今回はツッコむまい。
「あの、えと、その……彩です。こっちは、妹で、美也です」
「そっか、サヤにミヤだね!」
明るく元気なルオをとっかかりにして。
ラティアとリヴィルも自己紹介を済ませる。
「へぇぇ……チハヤの妹さんなんだ。そっくりだね」
「ええ。お姉さんに似て、二人ともしっかり者そうです」
最初こそまた人見知りが顔を覗かせかけたものの、桜田と顔見知りということもあり、直ぐに打ち解けてくれた。
「あの……えっと、その、ありがとうございます」
「お姉さんたち、皆凄く綺麗! レイネお姉さんに負けないくらい! 凄い!」
「そう? ……ありがとう」
「フフッ。そう言ってもらえると嬉しいです」
ふぅぅ。
とりあえず二人の相手はラティア達で大丈夫だな。
「……ふぅ」
レイネも俺と同じく安堵したように息を吐いていた。
「…………」
未だ通話中の桜田がこちらへと顔を向け、目礼してくる。
電話しながらも、今のやり取りの一端を見ていたのか……。
まったく、こっちは気にしなくていいのに。
変なところで気遣いする奴だな……。
「――はい? あの、えっと、その、確かに……います、けど」
その桜田が俺へチラッと視線を向ける。
「え!? 替わるんですか!? その……」
…………。
嫌な予感がする。
桜田、こういう時こそ気の遣い所だ!
間違えるなよ、いいか、間違っても替わろうなんて言うなよ!
いいか、フリじゃないからな、これマジの奴だからな!?
「渋ってるとかではなく、その、先輩も女子のスマホを使うのは気が引けると……あ、えと、それは…………はい、分かりました」
分かるなよぉぉぉぉ!!
肩を落とした桜田が、申し訳なさそうにこちらへと近づいてくる。
そしておずおずと、自分のスマホを差しだしてきた。
「すいません、先輩……私も、自分の命には代えられませんでした」
おい……。
まあ一種のジョークだろうが、やはり桜田は志木には弱いらしい。
……うん、“桜田は”というより、大抵の人は志木とは相性良くないけど。
何だ、桜田が提唱した“鬼・悪魔と同列説”もあながち間違ってはいないな……。
俺も相性の悪い一人なんだけどな、と半分諦めの境地に達しながらも。
渋々、俺は桜田からスマホを受け取った。
「…………はい、もしもし」
『――ねえ、私から毎夜コールを受けるか、椎名さんからメールを受けるか、どっちがいい?』
ヒィィィィィィィィ!
恐怖の二択ぅぅぅぅ!?
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『……というわけ。貴方が行ってくれるというなら私はそれで構わないけれど、無理して行く必要はないわよ?』
「うっす、自分大丈夫っす! 馬車馬の如く働かせてもらいます!」
平身低頭である。
まだ社会人でもないのに自分から社畜根性磨くとか、俺の将来どうなんだろう……。
さっきも「勿論お嬢です! サァァ!」みたいに恐怖でグッチャグチャな回答になったし。
ただそう言う姿勢が伝わったのだろう。
しばらく無言にはなったが、ちゃんと流してくれたし。
『……はぁぁ。じゃあ、ダンジョンの方はお願いね? ああ、本当に無理はしなくていいです。安全第一でお願いしますね』
「了解っす。えーっと……そのダンジョンを見つけた社員さんはもう帰したんだよな?」
『ええ。“志木”や“皇”グループで独自に築いている情報網での発見ですから。攻略するんなら、その場にいられると不都合でしょう?』
そこは流石、分かってらっしゃる。
協力関係を築いてそこそこ経つからか、どうすれば俺が動きやすいかをかなり考えてくれているようだ。
お互いwin-winでいたいからだろう、かなりこっちも助かる。
『知刃矢さん達には予定通り休日を楽しんで、と伝えておいて。……確か妹さん達と一緒だと聞いていたんだけれど?』
成り行きを見守るようにして待っている桜田へと視線を向ける。
なるほど……。
要するに、志木に今日の予定を話してたってことか。
志木の言い方からすると……桜田が姉妹での休暇にはしゃいで、会話の中で触れたってところかな。
それを志木が覚えてて、桜田に連絡したんだろう。
「まあ、そうだな。でも大丈夫だ、俺から上手いこと言っとく」
『そう……ありがとう。いつも助かってます』
何だ、そんな改まって……え、怖い。
『……何か変なことを考えませんでした?』
「い、いやいやいや! うん、大丈夫! 何にも考えてないから! じゃ、これで」
『え? あっ、ちょっと――』
全て聞き終える前に切った。
ふぅぅ……。
文脈とか無視して終わらせたが、うん、まあ大丈夫……多分。
スマホを桜田に返して、極々簡単に経緯を話した。
「まあ要するに桜田は妹さん達と休日を楽しんどけってことだ。うん」
「え? でも、その、いいんですか? じゃあ、先輩は……え、行くんですか?」
はぁぁ。
本当、変なところで気遣いする奴だな。
「良いんだよ、今日は暇だったし。女子の買い物に男の俺が入る隙は無かったしな」
俺はそう言ってラティア達に近づく。
そしてラティアに財布を渡した。
「買い物済ませたら、先帰っといてくれ。ああ、もしかしたら俺の方が先に終わらせちゃうかもしれないけどな」
一瞬否を唱えようとしたので、それへの対処も忘れない。
まあ今回の主目的は調査だ。
出来そうなら攻略もやるけど、見つけたばかりのダンジョンらしいし、無理はしない。
その意思が伝わったのか、ラティアは色んなものを飲み込んだような表情をする。
そして自分を納得させるように、一度だけ大きく頷いた。
「分かりました。では――」
「――待ってくれ!!」
そこに、声が上がった。
「あたしも……連れて行ってくれ」
静止をかけたのは、レイネだった。
レイネは声を上げた後に妹さん達の側により、しゃがみ込む。
「……ほらっ、これ、やるよ。すんごい貴重でな、“飴”っていうんだ。姉ちゃんとの時間、楽しめよ」
そういって渡したのは、パイナップル味の飴だった。
俺が今朝、詐術めいた感じであげた、あの。
宝物のようにあれだけ大事そうに仕舞っていたのに……。
それを握らせ、レイネは直ぐに立ち上がって俺へと向き直る。
決意に満ちた表情。
それを見て、俺は、思った。
――いや、そんな覚悟完了系みたいにならんでも……。
ヤバそうなら一旦持ち帰って、ラティア達とまた日を改めて来ればいいだけなんだが。
だから、そんな全てを背負って死地に赴くみたいな雰囲気は別にいらないんだけどな……。
レイネとの初ダンジョン探索になるので、やはり次話に第三者視点が入ることになりますかね。
本当ならもうちょっとスムーズに入る予定だったんですが、少しダラダラした感が否めません。
次話は第三者視点もいれますので、ちょっとはスッと話が進むようにしたいですね……。




