117.話を聞こうか。
な、なんでや……いきなり評価者数が増えてた……。
これがメンテナンスを経た効果か!?
しばらくして、またチャット機能を繋ぐ。
状況は落ち着いていたものの、何とも言い辛い空気が漂っていた。
そんな沈黙を破るように、赤星が告げる。
『……その、えっと……うん、新海君、だけだから。こんな恰好した私を、見せたの』
「…………」
普段は中々見ないような赤星の、その照れながらのセリフ。
覗いている足を隠すように、短いスカート部分を引っ張る仕草。
そして極めつけは、画面越しで恥じらいながらの上目遣い。
……流石にちょっとドキッとするな。
『――やっぱりハヤちゃん、実は伏兵でしょ』
『うーん……ですね。ハヤテ様、中々な伏兵力です』
『……いいんじゃない? そう言うハヤテも、可愛くて』
『いや、だから伏兵って何!? って言うか“伏兵力”!? ラティアちゃん何それ、私初めて聞いたけど!?』
……赤星はツッコみ属性もあったのか。
これも、新たな赤星の一面だな。
「――そっちがガールズトークに入る前に、一つだけ確認したいことがある」
赤星の貴重な一面も垣間見えた後。
楽しい時間に水を差さないよう、早めに思い出した用件を尋ねておく。
『うん、いいよ、何でも聞いて?』
『では、リア様の好みの男性のご主人様は……』
『えーっと、好みの男性の新海? それは……って好みのタイプじゃなくて!? 新海限定!?』
……うん、逆井のツッコミは今日もキレキレだな。
ラティアはちょっとピリッとしかけた空気を感じ取ったのだろう。
上手いこと和んだ後は、サッとあとずさり、リヴィルの隣へ。
「……聞きたいのは、DD――ダンジョンディスプレイについてだ。今も、赤星か逆井が持ってるのか?」
『ああ、あれね? それなら、えっと、今はハヤちゃんが持ってたよね?』
逆井の顔が赤星の方へと向く。
それを受け、赤星も肯定するように頷いて見せた。
『うん。ちょっと待って――』
直ぐに立ち上がった赤星は、部屋の中を歩く。
リヴィルの後ろまで来て、そこにあった衣装ボックスの一つを開けた。
一瞬取り出すときに、衣類か何かを避ける動作が映る。
その際、何かヒラヒラしたものが見えて……。
「……多分、下着が入ってるケースだね」
こらっ、ルオ、一々言及せんでよろしい。
ちょっと想像してまうやろ。
言葉にはせず、ずれ落ちないよう抱き留めている腕の力を強める。
それでルオは多分感じ取ってくれたのだろう、それ以上は何も言わなかった。
『? えっと、何か言った?』
「ん? ああ、いや、何も」
戻って来た赤星の手には、ダンジョンディスプレイが。
今は起動されておらず、その画面は真っ黒。
以前にも見ていたが、俺の物と大した違いは無いように見えた。
すると、膝に座るルオが顔を上げ、俺を真下から見上げる。
何だ、と思っていると“し・た・ぎ”と口パクで伝えてきた。
「……そうか、確かに」
俺のDDは普段は異空間に収納されている。
一方で、逆井や赤星たちのDDは、今は赤星の下着たちに包まれて保管されているのか。
無機質な空間内に置かれた俺のは、それを示すように手に取るといつもヒンヤリと冷たい。
だが逆井達のは、肌を守るために作られた布にずっと接していたわけだ、ほんのりと温かいに違いない――って!?
んなわけあるか!!
『……新海君?』
「いやいやいや、何でもない何でもない! ひんやりと肌が温かくて無機質とか、俺言ってないから!」
『?』
やっべぇぇぇ。
ちょっと焦りすぎて意味わからんことまで口走ってしまった。
腕の中のルオは、あちらには聞こえない程度にクスクスと笑っている。
ちょっとお仕置きとして、つま先でルオの足を小突いておいた。
ルオも、多分あちらのお泊り特有の空気に充てられているのだろう……。
『どしたし、新海……なんかあったの?』
「いや、ほんと、何でもない何でも……」
ほらぁぁ、ちょっと怪しまれた。
ってか、ラティアがこっち目掛けてグッと親指を上げている。
あれは多分、俺当てではなくルオあてなんだろうなぁぁ……。
そんな俺達とラティアを見比べて。
『…………フフッ』
この時間を慈しむように笑って見せたリヴィルが、とても印象的だった。
……まあ、楽しんでくれてるなら、良いけどさ。
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「でもそうか……やっぱりDDをゲットできるのは、例外的な状況なんだろうな……」
それから逆井と赤星に、簡単だが話を聞いた。
DDをゲットした状況を話してくれたのだが、やはりこちらの点は楽観視しない方が良さそうだ。
『でもそっか……前回のあのダンジョンの時、あれって結構色んなことが偶然いい方に転んでたんだね』
『かおりんもいてくれたし、そもそも新海達が協力してくれたのも、本来なら無い要素だし……うわ、アタシ等もしかして運だけで生きてる!?』
3回目のボス戦で出た反省点を踏まえて。
DDをまた新たに入手できないかとの期待があって、こちらの状況も簡単に説明はしたのだが……。
「いや、そこまで卑下しなくてもいいと思うが……」
先程まで見ていた掲示板でもそうだったが。
逆井や赤星は普通にダンジョン攻略の戦力として数えられるレベルだ。
というか、魔王の側近と懐刀的な存在、とまで言われてたし。
『……“ひげ”しなくても? えちょ、新海、何言ってんの? “髭する”って動詞なん?』
「……俺がこの場面で“髭”について言及すると思うか? そんなこと言いだしたら、俺めちゃくちゃ頭おかしい奴じゃねえか」
『……いや、だから、新海がちょっとおかしくなっちゃったのかな、って……思って』
薄々自分でも違うな、と思ったのか。
尻すぼみに声が小さくなっていく。
……はぁ。
『えっと、新海君はさ“落ち込み過ぎは良くない、自信もってもいいんじゃない?”って言ってくれてるんだよ』
赤星が上手いこと逆井に分かりやすいよう翻訳して伝えてくれた。
それで意味が通じた、と思ったら、今度はジト目で赤星を睨む……忙しい奴だな。
『……ハヤちゃん、そう言う以心伝心的な行為が、律氷ちゃんに伏兵って言われる原因だよ?』
『え!? いや、別に私、特別なこと言ってなくない!? “卑下”の意味を知ってるだけで伏兵とか言われてるの!? そんなことだったらそこら中に伏兵ゴロゴロしてるって!!』
またじゃれ合いみたいな可愛げある喧嘩が発生する。
少ししたら収まるだろうと、放置することに。
それにしても、やはりDDを入手することで解決、というのはやはり無理筋か。
織部にも聞いてみないと何とも言い辛いが、DDゲットは完全に運や偶然性に左右される。
伝令役というか、意思疎通のための解決策を求めて、逆井や赤星に尋ねてみたが……。
そちらよりは、やはりそう言った能力を持った人員を探した方が現実的だろう。
『……結局、マスター的にどういう結論なんだろうね』
逆井と赤星の小さな言い合いを脇に置きながら。
リヴィルがラティアに尋ねる姿が映る。
ラティアはしばし中空へと視線を向け、何でもないように告げた。
『うーん……要するに、またご主人様“が”――いえ、ご主人様“を”囲う女性が一人、増えるかもってことじゃないですか?』
おい。
まだ奴隷の女の子を買うかどうかすら決めてないのに。
ラティアはほぼ断定的なニュアンスでそれを言ったのだった。
しかも、それを訂正する間もなく、言い争っていた二人がクワッとこちらを向く。
『はぁ!? 新海、何なん!? ラティアちゃんやリヴィルちゃん、ルオちゃんがいてまだ足りないん!? やっぱハッスルしてんじゃん!』
ハッスルってなんやねん。
『……私は、うん、分かってるから。新海君の優しいところとか、えっと、うん、色々』
いや、もう男相手に“優しい”を長所としてあげる時点でお察しっすわ。
俺……そんなに良いところないのか。
凹む。
『え? あっ、いや、違っ、そうじゃなくて、本当に、その新海君が優しいと――』
いいんだ、赤星。
共通の敵を見つけて、言い争いが収まるんなら、それでいいじゃないか。
おっ、俺の良いところ、あるじゃん。
憎まれ役だけどな……ぐすん。
伏兵力:全然関係なさそうに見えて、いきなり参戦してくる衝撃度の度合い。相手との関係の近さ、手料理や行き届いた整頓などのヒロイン力、そして参戦してなかった期間の長短など諸般の事情により考慮される力。
評価していただいたポイントの増加は本当に驚きました。
今まで頑張って書き続けてきたことに対して、読者の皆さんが下さったご褒美、みたいに思っておきます。
ありがとうございます、今日は良い夢見られそうです……。




