供物を捧げよ!
魔王ちゃん像への貢ぎ物だが……。
捧げるものによって忠誠度の上昇量に、わかりやすい差があった。
いくつかの種類を試した俺たちは、やがて一つの結論に達した。
「お菓子だな」
「うむ! お菓子だけ露骨に上がるな!」
「消費アイテムの処理は妙にシビアと言いますか、システマチックですね。レアリティ次第で評価が上下といった感じです」
魔王ちゃん像による評価の多寡は、魔王ちゃんの好みそのものに連想していると思ってよさそうだ。
つまり、像を魔王ちゃんと思って扱えばいい。
故に食べ物系、特に甘味は効果絶大だった。
「武器なんかの装備品も基本、消費アイテムと同じ扱いみたい。多分、魔王ちゃんがあんまり興味のないジャンルってことだね。あ、でも服とかアクセサリー関係だけはちょっと……」
「ああ、わかります。だって……」
セレーネさんの言葉を受けて、俺はリィズに目配せする。
頷いたリィズが魔王像に商家の令嬢風の服を。
像はポーズが固定なので、着せるのに若干苦労しているが。
自分は仕上げに帽子……リボンの付いた白いハットを像の頭に乗せ、魔王ちゃん像は清楚で大人びた――というか、やや背伸び感のある恰好に。
どちらも角や尻尾などに配慮した調整がされている。
それからしばらく待つと……やがて、像にある変化が起きた。
「おお! 光った!」
「……す、すごいきらきらしているね?」
ユーミル、セレーネさんが驚きに目を丸くする。
像からは輝く光のエフェクトがたくさん出ていた。
これはちょうど、俺とリィズ以外の三人が話し込んでいた際に発見したものだ。
「そうなんですよ。組み合わせなのか、評価の合計値なのか、服を着せると光るんですよ……ここはSTチェッカーなしでもなんとなく察せられるものがある点ですね」
「お菓子をお供えして、服を着せて。なんだか、笠地蔵みたいだね……?」
「意識して作られている可能性はありますね。まあ、俺たちのは魔界に行きたいっていう欲から出た邪な行動ですが」
「継承スキル欲だな? 全然清くないな!」
「だなぁ……おじいさんと違って、お返しに超期待しているものな……」
もっとも、相手が魔族なのだから、欲丸出し上等! ということも考えられるが。
この服一式はトビに所有権を渡して、それから捧げてもらうことにしよう。
……さて、そのトビだが。先程からやけに静かだな?
「……」
「無言で鼻血を出すんじゃない。怖いよ」
どうしたのだろうと視線を向けると、鼻から血を流しながら笑顔で天を仰いでいた。
このゲーム、鼻血なんて出せたんだな……。
試しにメニュー画面を開き、流血表現をオフにするとトビの鼻血が一瞬で消えた。
後に残ったのは、今にも召されそうな表情で佇む残念な男だけである。
「……よし。私もこの服装にアクセサリーを加えてやろう!」
色々と考えた結果、ユーミルはそんなトビを無視することに決めたらしい。
アイテムポーチを漁り、俺たちから見えないようになにかを取り出した。
そのまま像に歩み寄り……って、これ以上この服装に付け加えるものがあるとは思えないのだが。
「受け取るがいい、魔王よ!」
バサッと、大きな布のようなものを広げるユーミル。
直後、魔王像の背には立派なマントが。
「「「いやいやいや」」」
それはおかしいと、ユーミルを除くその場の全員が顔の前で手を左右に振る。
あれは少し前にユーミルが作った『早脱ぎマント』のバージョン違いのようだ。
魔王の衣装として、マントは全くおかしくない。
しかし……。
「なんっっっで、おしゃまなお嬢様系衣装にマントなのでござるかぁ!」
今度は血涙を流さんばかりの勢いで、ユーミルに食ってかかるトビ。
勢いがありすぎて、ちょっと鼻水が出ている。
今日は顔面から色んなものが出るなぁ、お前……。
「ま、魔王と言えばマントだろうが! 足りないものを足しただけだぞ、私は!」
「マントのない魔王だって、世の中いくらでもいるでござるよ! っていうか、魔王ちゃんは最初から着けているでござるし! マント! この像が珍しいマントなしバージョンってだけで!」
「それならそれで、趣味の悪い柄をした禍々しい鎧とか! いっそ闇そのものを背負っているとか、もっとなにかあるだろうが! TBの魔王には外連味が足りん!」
「魔王ちゃんはこれでいいのでござるよ! かわいいんだから!」
ユーミルが本気で嫌そうにトビから距離をとる。
そしてお前たち、どんどん論点がずれていっているぞ。
「この衣装にマントは変だって話だったよな?」
「……はぁ。もう、評価が高ければなんでもいいのでは?」
細かく記録を取ってくれているリィズが、段々と投げやりな態度になってきた。
例のカームメモを見習って筆記してくれていたのだが、そりゃあこんな話の流れでは嫌にもなる。
「ちゃんと最後までコーディネイトして!? リィズ殿、ファッションセンスいいんだから手を抜かないでほしいでござるよ! この組み合わせは明らかにおかしい! ユーミル殿はおかしい!」
「まだマントが駄目と決まったわけではないだろうが! 私のファッションセンスがおかしいみたいに言うな!」
「おかしいのは別の部分でござるよ!」
「どういう意味だっ! 頭か!? 頭なのか!? お前にだけは言われたくないのだがっ!」
「ま、まあまあ、二人とも。とりあえず、像の様子を見てみようか?」
セレーネさんに促され、みんなで像を注視する。
魔王像は、まるで俺たちが見るのを待っていたようなタイミングで――先程と同じように、きらきらと光りだした。
……というか、むしろさっきよりも輝きが強くないか?
「……い、いいんだ。それで……」
「魔王ちゃんの好みが一番不可解です」
「なぜでござるかぁぁぁ!」
「ほら見ろ! おかしいのはお前のほうだったようだな!」
「この服装に合っていない帽子とか靴とかだと、光が消えるんだけどな。マントはいいのか……」
紆余曲折あったが、どうにか手持ちのアイテムたちでトビの評価値――『魔界忠誠度』は100を超えそうだった。
次回からは的を絞り、お菓子系を大量に持ち込めば効率よく忠誠度を上げることができるはずだ。
……そしていよいよ、トビが最後のアイテムを供える時がやってきた。
「今の拙者の忠誠度は99。このハインド殿特製マカロンなら、100超えは確実……!」
何かが起きるのか、それとも起きないのか。
緊張の面持ちで、トビが魔王ちゃん像の前にマカロンの入った箱を置く。
「マカロン? ……ハインド、私も食べたいのだが? できれば現実のほうで!」
「後でな。っていうか、ホテルのビュッフェになかったっけ?」
「お前の作ったやつがいい!」
「あー……そう言ってくれるのは嬉しいんだが。調理できる場所が……」
ユーミルに言われ、自分がしばらく料理をしていないことに気づく。
ホテルの厨房を貸してくれ、とは言えないしなぁ。
しばらくはゲーム内の調理で満足するしかないと思う。
残念そうなユーミルの背を撫でつつ、セレーネさんが代わって話しかけてくる。
「ハインド君。マカロンって、作るの難しいんじゃないの?」
「クッキーとかよりは難しいですね。工程自体はシンプルなだけに、メレンゲの出来に全てがかかってきま――」
「なにか来たぁぁぁ! でござるよぉぉぉ!」
トビの叫びに、俺たちは会話を切り上げて魔王像へと視線を向けた。
既にトビはパーティを外れてソロ状態になっているのだが、どうやら忠誠度の達成演出はその場の全員に平等に見えるらしい。
内部で金属製の仕掛けが作動するような音が連続し、まずは像の台座がせり上がっていく。
せり上がった台座には穴があり、そこから何かが出てくることを期待させるような造りになっていた。
その期待は裏切られることはなかったようで、仕掛けの作動音は途切れることなく続き……。
「ふおおおお! なに!? なに!?」
まるでカプセルトイのように、台座の穴から球状のものがぽんっと勢いよく排出された。
慌ててそれをキャッチ、抱え込むトビ。
演出の関係から「まさかランダムアイテムか?」などと、一瞬嫌な予感がよぎったが……。
「……魔界入場のキーアイテム“魔界のオーブ”、ゲットでござるぅぅぅ!」
アイテム説明文を読み終えたトビが、そんな言葉と共に宝玉を持った手を掲げる。
その後ろでは魔王像が光りながら回転し、魔王ちゃんの声で『ヨクヤッタ! タイギデアル!』などと喝采を送っていた。




