初日の攻防 その4
グループ名『サーラの愉快な仲間たち』とは。
……細かい説明は置くとして。
ざっくり言ってしまえば。
「スタンドで応援してくれていた人たち+スピーナさんですね。スピーナさんがリーダーのようです」
「やっぱり……」
リィズが説明してくれた通りの者たちだ。
あのノリのいい連中かぁ……。
プラスに捉えるなら、もしかしたらユーミルの調子を上向かせるのに最適な相手かもしれない。
「ただ、あの人たち割と……ちょっと……いや、かなり強いぞ?」
このグループ、国別対抗戦の構成人員も多く含まれている。
要はサーラという国のトッププレイヤーたちがギルドを問わず、一斉に集っている感じだ。
グラド帝国のトップ層なんかに比べると若干劣るが、プレイヤー全体で見ると間違いなく上澄み。
なんというか、この序盤で当たりたい相手かと言われると――否だ。
断じて否。
「適当に結成したグループで、軽々とエンジョイ勢の域を超えてこないでほしいなぁ……」
「そうなんです。ですから、早めにお知らせしたほうがいいかと」
なるほど、リィズの行動が腑に落ちた。
傭兵親子を擁してなお、普通に負ける可能性がある手強い相手だ。
こんなトーナメント序盤で当たる理由は……。
各人のスケジュールの都合で、グダグダな予選成績になったからだろう。
いくつのギルドを跨いでいるんだ、という雑然とした集め方だし。
良くいえばサーラオールスター(俺たち抜き)なのだが。
「幸いなのは、データ収集の必要性が薄いという点でしょうか」
「そうだな。それでも、継承スキルには警戒しないとだろうけど」
慣れた相手、知っている相手なので基本データだけは充分だ。
ただし国別対抗戦メンバーは、イベントの際に最低限のスキル振り、装備の性能傾向を公開し合っているということもある。
つまり……。
「こっちの手のうちもある程度知られているってことだけどな、向こう側に。こうなると――」
「いよいよ手札の切り時ですか?」
互いに裏をかく戦法が有効で、リィズが言うように継承スキルの使い時だろう。
その選択次第で戦況は極端な有利にも不利にもなりえる。
それくらい継承スキルの比重が大きい戦闘になると予想される。
「問題はどのスキルを解禁するかだけど」
「……最低限の数で、最大の効果を発揮させるのが理想ですね。まだ序盤戦ですから」
「そりゃな。もしこの試合で主要なスキルを全部使っちゃうような事態は――まあ、まずいわな。決勝を見据えるなら」
後々、トーナメントを進んだ先で当たりそうな相手で「確実に刺さる」というスキルも残っている。
追い込まれてそれらを使ってしまうようなことは絶対に避けなければならない。
リィズも一緒に考えてくれている。
なぜか俺の太ももに手を置いているが。
今、ここで結論を出してしまうのがいいだろう。
「露見すると効果が薄くなる、奇襲に使える技は残すべきでしょう。そうなりますと」
「びっくり系より正統派。純粋にスキルパワーが高いやつか」
「ええ。それが妥当かと」
考え方が似ているので、新しいアイディア出しなんかには向かないが。
思考補助というか思考加速というか、同方向の結論を素早く出すのは得意なふたりだ。
サクサクと話が進む。
そしてリィズの手がサワサワと足に触れてくる。
やめてくれ、くすぐったい。
「……そしたら、アレだな。期間が空いているとはいえ、すでに大勢の前で一回は使っているし」
「そうですね」
優しく手をどかすと、抵抗せずに引っ込める。
そして引っ込めた手を反対の手で胸元に抱え、淡く微笑む。
なに? 酔ってんの? アルコール入っていないよ? 構ってほしいだけ?
――と、そうじゃなくて。
「俺、アレとしか言っていないんだけど」
「わかりますよ。私はハインドさんのつ――家族ですよ?」
つ? ……ともかく、答えは出たようだ。
強敵を前に解禁、次の試合で主力として使う継承スキルは。
「「ルクス・オブ・サーラ」」
兄妹の声が揃った。
それから小一時間後。
決闘イベントは休憩を挟んで夜の部となり、もう試合は始まっている。
「俺がリィズと相談しながら立てた作戦はこうだ。まず――」
最初は1対1だ。
集合がギリギリになってしまったので、始まってから作戦概要を小声で説明している。
「――アルベルトさんを……」
していたのだが……。
話しはじめて数秒と経たない間に、1対1の決着がついた。
「……アルベルトさんで勝ちます」
「一瞬で過去形になった!?」
――まずアルベルトさんを1対1に、ここは力押しで大丈夫。
本当はそう言いたかった。
ただの事後報告になってしまったけどね?
その通りになったというかしてくれたので、なにも文句はないが。
問題は瞬殺すぎたせいで、説明する時間がなくなってしまったことだ。
「はっはっは! やっぱ無理じゃんね! いい負けっぷりだったぜぃ!」
「チクショー! トラウマになったらどうしてくれんだ!」
スピーナさんの陽気な声と、負けた選手――ダンジョン探索大好きな、レンダくんの声が聞こえてくる。
俺の料理をよく買いにくる常連さん。
豪快な突撃をしていたことから、元々この1対1は捨てる感じだったのだろう。
「うむ……いい手応えだった」
短い戦闘だった割にアルベルトさんは満足気。
玉砕はしたが、気持ちのいい砕けっぷりだったようだ。
一応、横目で見ていた感じだと……。
ガンマンの早撃ち、あるいは武士の居合勝負のようになっていたので、試合の見応えとしても悪くなかったみたいだ。
会場内は盛り上がっている。
「……」
そして一連の流れを見ていたユーミルの足と体が揺れている。
貧乏ゆすりというほどではないが、こうモゾモゾと。
これは明らかに……。
「ウズウズしてんじゃないよ」
「!?」
触発されているな。
さっきから視線は誰もいない舞台の上をチラチラと。
「自分も突撃したくなったんだろう?」
「なぜわかった!?」
「傍から聞いていると、意味のわからない会話でござるなぁ……」
頭を空っぽにして戦いたいということなんだろう、多分。
俺のような頭でっかちタイプにはない、そういうときが感覚派にはあるらしい。
共感できないが理解はしている。
だから背中を押すことにした。
「行ってきていいぞ」
「いいのか!?」
いいですとも。
試合前に考えていた通り、ユーミルの調子を上向かせるのにうってつけだと思う。
「なるべくなら勝ってほしいけど、気持ちよく戦えればそれでよし」
「よーし!」
「で、もうひとりは――」
問題は、コンビとして誰を送り込むかだ。
近い感性を持っていて、一緒に試合を盛り上げてくれそうなリコリスちゃんか。
それとも、冷静にユーミルをフォローしてくれそうな別の誰かか。
……迷う必要はないな。
「――リコリスちゃん」
「! はいはいはいはい! ご指名ありがとうございます!」
この子は誰と組んでも元気いっぱいだが、ユーミルやフィリアちゃんと組む時は特に嬉しそう。
もうこうなると勝敗度外視で、とにかく全力でやってきてほしい。
――準備時間終了のブザーが鳴る。
「行ってくる!」
「行ってきます!」
胸を張り、肩をいからせ肘を張り、まったく同じ歩き方で舞台に向かう騎士コンビ。
仲良しだな……。
っと、その間に3対3以降の戦いについて周知しておかないと。
急いで説明を。
「ハインド殿」
「なんだ?」
口を開きかけた俺の背を、トビが引っ張る。
「ハインド殿」
「なんだってば」
反応が鈍いこちらを見てか、再度引っ張るトビ。
目が合った後で、視線を誘導するように首というか顎を舞台のほうへ向けて二度ふる。
あれ、あれ、あれ見てと口元も動いている。声に出せ。なんだその顔は。
「相手、マルシア殿とエリーシャ殿でござる」
「えっ」
あわてて舞台のほうへ目をやる。
そこにいたのは、踊り子みたいな恰好をした艶やかな二人組。
プレイヤーとしては後発組だが、最近トップ帯まで昇ってきたサーラの軽戦士コンビ。
マルシアさんのほうは軽戦士・回避型。
こちらはいい。トビと同じ職業。
問題はもうひとりのエリーシャさんのほう。
彼女は軽戦士・罠型である。
もう一度確認しよう。
罠型である。
……。
「嫌な予感」
「奇遇でござるな。拙者も同じ気持ち」
「私もです」
「あー、右に同じくー」
「……」
「だ、大丈夫ですよ! ユーミル先輩とリコならきっと! ですよね、セレーネ先輩!」
「う、うーん……」
その場の全員が全員、微妙な表情になってしまった。
元気よく罠にかかりまくる騎士コンビの姿が目に浮かんだが、今更どうすることもできない。
試合が始まり……。
「ぬわーっ!!」
「ユーミル先輩ぃぃぃ! ――キャインッ!?」
程なくして、俺たちの予想通りの光景が舞台上で繰り広げられた。
爆発があちこちで起きているのを見た後で、思わず顔を両手で覆う。
ああ、完全に俺の采配ミス……。




