初日の攻防 その1
グループ戦の予選は出場数が少ないのもあり、ゆるゆるなものだった。
グループ戦が新設カテゴリで、決闘ランクでの足切りがなかったという理由もある。
だからこそ序盤戦、色々な性質のチームと対戦することになる。
特に予選下位グループに多かったのが興味本位、思い出作り、エンジョイ勢といった、お互いに「本気で戦うかどうか微妙」な面々。
「ハインド先輩?」
リコリスちゃんが指示待ちの状態で、俺の表情を窺ってくる。
現在の対戦相手は――というか、あちらは作戦そっちのけでこっちを見ているな。
特に女性陣への視線が強め。男性多めのグループだからか?
いわゆるガチ勢とは違う雰囲気だ。
既に終わっている1対1も圧勝だったことを踏まえると……。
「……六割くらいの力で行こうか。継承スキルは温存で」
「わっかりましたっ!」
程々の力で戦うよう指示を送る。
元気よく跳びはねながらフィリアちゃんのところへ戻り、俺の言葉を伝えるリコリスちゃん。
次は待望のフィリアちゃんと出る2対2なので、とても嬉しそうだ。
「ハインド、私は!? 次の試合に出る私は!?」
後ろから肩に手を置き、にゅっと真横から顔を出してくるユーミル。
近いよ。あと声がでかい。
「お前は一か十かしかないじゃん。調整できないじゃん」
力の調整ができない人間になにを言えというのか。
リコリスちゃんはあれでも、ペース配分や力の調整はできるタイプだ。
そんな会話が聞こえていたのか、リィズもユーミルに半眼を向ける。
「調整レバーが壊れていますからね」
「なんだと!?」
後退のネジを外してあるともいえる。
とはいえ接戦では頼りになるやつなので、良し悪しというやつだ。
ユーミルには簡単な指示だけ。
「ユーミルは普通にやりゃいいよ。ただし一部の継承スキルは使用禁止な」
「む? 禁止というと、暗黒走覇――」
「やめろ! 技名を言うんじゃない! こんな衆人環視の中で!」
うっかり魔界産スキルの名を口走るユーミル。
慌てて肩を引き寄せ、せめて周囲に聞こえるなと思いつつしゃがませる。
「お前に関しては、もう解禁済みの技があるだろ。派手なやつ。あっちを使えよ」
「あ、そうだった! 煉獄弾!」
「あれは見せ技だから多用していいよ。他はダメだ」
「よしっ!」
ユーミルは大きくうなずくと、立ち上がってリコリスちゃんたちの応援へと向かった。
継承スキルに関しては、みんなにずっと我慢させているが、もう少しの辛抱だ。
全解放の時は目前まで迫っている。
「技隠しも大事だけど、全体のスタミナも考えないとな……」
舞台傍へと駆け寄るユーミルの背を見つつ、小さくつぶやく。
グループ戦は長丁場だ。
ユーミル、それから傭兵親子なんかは全試合に出る! なんて言っているが。
適度に休憩を入れてやらないと、当然ながらパフォーマンスは落ちるだろう。
特に、相手が強くなりそうな――そうだな、トーナメント五回戦辺りからは気をつけたほうがよさそう。
初日にそこまで進むかは疑問だが。
「先輩先輩。そっちの先輩以外の頭脳労働チーム、なにしてるんです?」
ユーミルが行ったのを見計らったように、シエスタちゃんがのそのそと歩み寄ってきた。
おニューの神官服は着心地がいいからか、いつもより更にリラックスして見える。
余った袖を振り回しながらの登場だ。
「先々の試合に向けての分析だよ。予選上位のグループを中心に」
リィズ、サイネリアちゃん、そしてセレーネさんは、別会場で同時に行われている試合をゲーム内ブラウザで観てくれている。
休憩時間でやれればいいのだが、トーナメント序盤は次戦までの間隔が短い。
それでいてオフライン時はしっかり休んでもらいたい、といった都合で同時進行だ。
「ははぁ。分析……大事ですよね!」
笑顔で、すすーっと距離を取っていくシエスタちゃん。
こっちに寄ってきた時よりも、明らかに後退速度のほうが速い。
「そっと離れようとしないでよ。強制しないから」
面倒ごとの気配に敏感である。
本当は、能力的に向いているシエスタちゃんにも参加してほしいのだけれど。
「そうですか? ではではー、私はここで先輩の話し相手に。先輩がコーチなら、私は総監督シエスタちゃんです」
分析班に参加しなくていいと聞き、再び寄ってくるシエスタちゃん。
俺の真横に立ち、スポーツチームの監督のように腕組みをする。
歳不相応の豊かな双丘が押し上げられて、目の毒だ。
吸い寄せられそうになる視線を気合で引っぺがし、舞台のほうに顔を向ける。
「あ、ありがとう……?」
ありがたいような、迷惑なような。
せっかくなので、シエスタちゃんのほうが理解が深そうな事柄を訊いておこう。
「……リコリスちゃんの調子をどう見ます? 総監督」
ここ最近、急激にプレイヤースキルを伸ばしてきたリコリスちゃん。
ただ――長く体に馴染んだ動きなら、すぐにスムーズに引き出せるように。
短期間で身に着けたものは忘れやすく、咄嗟には出ないものだ。
そうなってしまうのが怖い。
「フィリーと組めて、はしゃいでいますからねぇ。上手く力に変えられれば圧勝、悪くすれば……」
やはり、シエスタちゃんも俺と同じ危惧を持っていたらしい。
まだ少し不安定なリコリスちゃんの立ち回りを心配している。
――と、そんな時だった。
「あれっ? ――ふぎゅっ!?」
完璧な盾受けとカウンタースキルの発動。
……からの盛大な空振り。
当然、強者なら警戒しながら踏み込んでくるだろうことを考慮に入れた、リコリスちゃんの深めの斬り返し。
しかし、目の前の相手は油断しきって近めの位置に立っていた。
リーチが短い武闘家という職なのも、マイナスに働き……。
結果、勢い余って肩がぶつかる。顔も相手の胸付近にぶつかる。そしてサーベルは当たらず。
――密着状態に一瞬、対戦相手の武闘家の男性が嬉しそうな顔をしたのが見えた気がする。
真面目に戦え。
「……悪くすれば、まーこうなりますよねー」
「トーナメント終盤用の動きじゃないか!」
あれ? 俺、六割の力でって言ったよね……?
明らかにはりきりすぎ、フィリアちゃんの前でいい格好をしようとしすぎである。
継承スキル不使用だけは守っているので、責める気はないけれど。
「ひでー内容ですけど、フィリーがどうとでもしてくれるでしょー」
違うんです、フィリアちゃん! と弁明するリコリスちゃんに対し、わかっているとうなずくフィリアちゃん。
うなずきながらも、自分が担当している敵騎士をしばき倒している。
新しい斧の使い心地は上々のようだ。
ちなみに、フィリアちゃんはきっちり指示を守って全開ではない動き。
それでも強い。余裕をもって敵を圧倒している。
シエスタちゃんが言った通り、立ち回りも精神的なフォローもばっちりだ。
「さ、さすがです、総監督。総監督の言った通りに推移していますね」
「でしょー? 慌てない、慌てない」
どこかの小坊主のようなことを宣うシエスタちゃん。
このどっしりした佇まい……。
今すぐ全権を任せて選手に専念したい気持ちになるが、絶対に嫌な顔をするだろうな。
できる、できないではなくて、面倒だという理由で。
「でもですねー、先輩。フィリーはフィリーで、程々に強敵と戦わせてあげたほうがいいと思いますよ」
「……ふむ」
更に総監督から追加のアドバイス。
その意味するところを少しだけ考え、考えがまとまってから答える。
「あんまり相手が弱いと、フラストレーションが溜まる?」
「だと思いますねー。アルさんも」
トーナメント下部でも、エンジョイ系のグループにエース格のプレイヤーが混ざっていることがある。
シエスタ総監督のアドバイス通りにするならば。
そういった相手に傭兵親子を当てると、いいガス抜きになりそうだ。
――やはり、分析班に混ざってほしいくらいシエスタちゃんは優秀である。
指揮能力についても、俺なんかよりずっと高いんじゃないか?
「って、結局私も分析に参加していません? この場合、味方の分析ですけど」
この状況、この立ち位置で俺の話し相手になる時点で、こうなることはわかっていただろうに。
白々しいシエスタちゃんの言葉だが、一応様式美として俺も返しておく。
「気のせいだよ」
と、そんなふうに。
なんだかんだ面倒だの言う割には、ちゃんとグループの力になろうとしてくれている。
ストレートな表現こそしないが、優しい子である。
しかしね、シエスタちゃん。
「うぇっへっへ。役得役得」
「……」
監督席と称して、背中に登ってくるのはどうかと思う。
いつものことと言えばいつものことだけど、今は特に観客席からの視線が痛い。
俺のことなんていいから、観客の人たちも試合を観て――って、もう終わってた。
リコリスちゃんがフィリアちゃんのフォローを受けつつフィニッシュを決め、無事勝利である。




