グループ戦序盤 後編
ここまで、チーム鳥同盟は助っ人の力もあって連勝。
グループ戦は全部で五戦なので、三戦勝利で試合全体も勝利となる。
仮に次の3対3も勝ったとするなら、いわゆるストレート。
4対4、5対5は行われずに次の試合へと駒を進めることに。
そして3対3に出るメンバーなのだが。
2対2までの戦績を見て決めるつもりだったので、実はまだ確定していない。
誰を出すべきか……選出を任されている身としては、色々と考えてしまう。
「出る」
そんな中、先程よりも強くフィリアちゃんが主張する。
それはいいのだけれど。
斧を構えながら近づいてくるの、やめてくれないかな?
観客席から舞台脇を見ている人たちも何事かとざわめいている。
「絶対出る」
……ま、まあ、別にいいか。
だったらフィリアちゃんには出てもらうとして、残りのふたりをどうするか。
この子は前衛として突撃・後衛の護衛・前線維持と万能だからな。
残りの二名が後衛でも、上手く試合をまとめてくれると思う。
「そしたら、残りの枠はセレーネさんとサイネリアちゃんに――」
「なんでですかぁぁぁっ!」
特に立候補もなさそうなので、俺から指名したのだが……。
リコリスちゃんが非常にがっかりした様子で縋りついてくる。
あ……しまったな。
「ごめん。リコリスちゃんは……次の試合の2対2でどうかな? フィリアちゃんとコンビで」
「私は構わない」
「絶対ですからね!」
そうだったそうだった、本来であれば最優先で組んであげるべきだった。
うっかりしていた。
そして約束してしまったからには、次の試合で勝負が決してくれると、俺の胃と心臓に優しい。
「それでハインド。どうしてそのふたりなのだ?」
ユーミルをはじめ、その場の他の面々も同様の疑問を持ったようだ。
確かに編成バランスや勝つためだけを優先するなら、こうはならない。
後衛を減らして、前衛にもう一人置くのが普通だ。
ただ、今の二連勝という余裕がある状況。
そして非常に申し訳ないが、相手とはチーム力に差がありそうということで、漫然と試合に出るのはもったいない。
そんなわけで、選出理由は次のようになっている。
「サイネリアちゃんもセレーネさんも、真面目で緊張しやすいからさ。早めに出場してもらって、硬さが取れたらいいなと」
慣らしというか試合勘を磨くというか。
特にセレーネさんは鍛冶作業に集中していた関係で、決闘はおろか戦闘そのもの、観戦からすら遠ざかっていたわけである。
早めに場慣れしておいてほしい。
「どうだろう? いきなり切羽詰まった場面や、準決勝とかの大舞台から出るよりは……余裕のある今のうちっていうか」
セレーネさんとサイネリアちゃんは互いの顔を見ると、同じようにうなずいた。
というよりも、俺の言葉を受けて、途中から物凄い勢いで何度もうなずいている。
今よりもっと増えた観衆、広い闘技場に緊張したまま立つ自分をリアルに想像してしまったらしい。
グループ戦の構造上、前衛のほうが多く出番が回ってくるからな。
一度も出場しないということは早々ないだろうが、絶対にありえないという話でもない。
だから後衛組は意識して、順番に出場しておいてもらわないと。
特に自分から手を上げないであろう、このふたりは最優先。
次点で消極的といえばシエスタちゃんだが……あの子は緊張とは無縁だからな。
「……思い当たる節がたくさんあります。そうですね、早めに出場しておいたほうがいいかも」
「私も。観客の人たちからの視線に慣れておかないと……」
サイネリアちゃん、セレーネさんと順番に承諾の返事をもらえた。
どうやら納得してもらえたようだ。
他のメンバーも……大丈夫そうだな。
リコリスちゃん以外の話ではあるが。ごめんね。
「……そうだ。セレーネ」
出場が決まってやる気満々――かどうかは、無表情なので定かではないが。
フィリアちゃんがセレーネさんに自分から話しかける。珍しいな。
「どうしたの?」
小柄で年下、物静かという条件が揃っているためか、セレーネさんもフィリアちゃん相手は緊張しない。
小首を傾げつつ、正面に回って目線を合わせる。
制限時間は――まだ平気か。
というか、あっちのグループはなにやら編成で揉めているな。
険悪とまでは行かないが、ああでもないこうでもないと、こちらにまで言いあう声が聞こえてくる。
「武器の宣伝。したほうがいい?」
受け取った新品の斧を掲げて問うフィリアちゃん。
その意味するところはというと。
「武器の性能を見せながら戦うってこと?」
相手の武器との耐久値の差、ダメージの差なんかをわかりやすく示すということだろうか?
仮にセレーネさんの武器で長く打ち合えば、一方的に敵の武器を破損させる――なんてことも可能かもしれない。
俺の問いかけに、フィリアちゃんはうなずきを返してくる。
「そういうことまでできるのでござるかぁ。傭兵ってすごい」
「そもそも着眼点がすごいぞ! 戦い方次第で武器の宣伝になるとか、私はちっとも思いつかなかった!」
感心したような視線をフィリアちゃんに送るトビとユーミル。
口元を引き結んだまま、斧の長い柄を地面に立てるフィリアちゃん。
もしかしてちょっと照れている? の、だろうか? わからん。
ともかく、フィリアちゃんはそのまま無言でセレーネさんへと視線を戻す。
「ううん。気持ちはありがたいけど、せっかくだからフィリアちゃんには伸び伸びと戦ってほしいかな」
新武器の強さを堪能してほしい、とセレーネさん。
それに対し理解を示すはシエスタちゃん。
「なるほどー。セッちゃん先輩は、フィリーに相手が伸びるほどボコしてほしいと」
「違うよ!?」
もちろんセレーネさんはそんなこと言わない。
みんなわかっているので身内用ジョークではある。
……しかしまあ、武器の性能披露か。
とてもいい提案ではあるのだが。
対人戦で魅せプレイというのは、場合によっては悪感情を持たれかねない。
ここは一言注意しておいたほうがいいかもしれない。
年長者のアルベルトさんは黙って経過を見守っているので、ここは俺が。
「私も普通に戦ったほうがいいと思います」
……口を開きかけたところで、リィズに先を越された。
そこ、シエスタちゃん。
察して笑うんじゃありません。恥ずかしいから。
「あまり変なことばかりしていると、礼を失していると取られかねませんから」
「……そうかも。私も相手を煽るような真似は好きじゃない」
と、そこでフィリアちゃんがアルベルトさんのほうを見る。
煽りになっちゃう? という視線での問いかけ。
アルベルトさんは重々しくうなずいた。
……やりすぎなくらい全力だったもんな、最初の試合のアルベルトさん。
確かにそのほうが余計なことは言われないだろう。
「……やっぱり、宣伝はいらない?」
――それでも、せっかくフィリアちゃんがしてくれた提案だ。
口数が少ない彼女の発言だからこそ、無駄にしないであげたいという感情も働くわけで。
中学生女子の心は繊細なのだ。
どうにか、いい落しどころへ持っていくためには……よし。
「待て、フィリア! ここにいいものがある!」
「――くっ」
「ふはっ」
と、なにか言おうとしたところで、今度はユーミルに先を越された。
それ自体は別にいい。ただ。
シエスタちゃんさぁ……。
見ないで? こんな俺を見ないで!
「これだ! これを使え! こいつを使って全力で戦え! そうすれば、煽りにならずセッちゃん工房の宣伝にもなる!」
そう言ってユーミルがインベントリからぬっと取り出したのは――。
眩い金色の鉄塊。
ネタ武器とガチ武器の狭間を往く『偽神器・ミョルルル』であった。
「え、ユーミル。いいのか? お前、最初に実戦で使いたかったんじゃ?」
「今の私は、さっきのお前とのタッグマッチで満たされているからな! これくらいの権利は譲ってもいい気分だ!」
ミョルルルはTB初の『可変武器』として、作製成功がゲーム内でアナウンスされた武器だ。
使うだけで「あれがそうなのか!?」と、知っている人なら注目してくれるはず。
ユーミルらしからぬ名采配だ。
それに対しフィリアちゃんの反応はというと。
「……ん、使ってみたい」
「フィリアちゃん!?」
心なしか目を輝かせて、フィリアちゃんが大型のウォーハンマーを受け取る。
システム的にも一時譲渡というシステムがあり、それを両者が承諾したので使用可能となったが……フィリアちゃん側も、いいのだろうか?
新しい斧を使うのを楽しみにしていたと思うのだが。
「斧は次の試合……リコリスと出る試合で使う」
おお、それでいいのか。
というか、フィリアちゃんにしてはいつもより長く一生懸命喋ってくれている。
その証拠に舌がもつれるようなもどかしそうな顔になり……。
若干乱れた呼吸を整えるように、ぽひゅっとやや長い吐息を発した。
戦闘中以上に呼吸が乱れている印象である。
口頭言語よりも肉体言語なフィリアちゃんらしい。
「実は私、斧の次に好きなのがハンマー」
その言葉を最後に、ハンマーを担いで舞台に向かうフィリアちゃん。
俺たちはその小さな背を見送り……。
「なんていうか、フィリアちゃんの好みって……」
「大艦巨砲主義っていうかー」
「ロマンの体現者でござるな! 小さい体にゴツイ武器! 実に漫画的! イイ!」
「アルベルトさんの教育がばっちり行き届いてらぁ……」
ハンマーが二番目に好きという発言について語り合う。
マニアックで渋い好みである。
一般に人気な近接武器というと、刀、大剣に双剣といったヒロイックなものが主流なイメージだ。
私見だがハンマーという武器のポジションは、格ゲーでいう投げキャラに近い位置に思えてならない。
「……」
「……あっ、私たちも行ってきますね! 行きましょう、セレーネ先輩!」
「あっ、ああ、そうだね! い、行ってきましゅ!」
少し遅れて、サイネリアちゃんとセレーネさんも弓とクロスボウを手に動きだす。
そこで制限時間一杯となり、相手チームも舞台に上がりだした。
「「「いってらっしゃーい」」」
残った面々で再度のお見送り。
緊張で噛んだセレーネさんについては、触れずに生暖かい視線を送るに留める。
はてさて、どんな試合になるのやら。




