グループ戦序盤 中編
「ぬおおおおおーっ!!」
地を割る。
天を裂く。
そして――砕かれるHP。
壊し屋アルベルト、ここにあり。
中でも最も派手に壊されたのは、対戦相手の心である。
「ひいいいいっ!」
相手の軽戦士・攻撃型の男性は完全に戦意を喪失して、ほとんど反撃らしい反撃をせずに逃げ回っている。
大ダメージを負った攻撃で戦闘不能にならず、かろうじてHPが残ってしまったことが彼の不幸のはじまりだった。
鋭い風切り音と共に生じる風圧が頬を撫でる度に、情けない――とは俺の口からは言えないな。
だって怖いもの。俺だって同じ状況になったら似たような声が出る。
……ともかく、きわどい回避を成功させるたびに彼は悲鳴を上げている。
「大人げない……」
フィリアちゃんの言葉は目の前の戦闘に関してのものか、それとも出場を譲ってくれなかったことに対してか。
おそらく後者だな。
場内からは「戦え」だの「逃げるな」だのと相手選手への野次が飛んでいる。
だったら降りてきてお前が戦え! とか言い返したいだろうなぁ。
軽戦士の彼は。
そんな余裕はなさそうだけれど。
俺たち九人はグループ戦で新設された舞台横の待機場所から、試合の経過を見守っている。
「相手チームの選手、かわいそうでござるな……」
「いや、待て」
逃げる、逃げる、逃げる。
同じ軽戦士のトビは同情の視線を、常に戦意旺盛で退くことをよしとしないユーミルは顔をしかめている。
が、はたとユーミルはなにかに気づいたように動きを止め、険しい表情を緩めた。
「降参すればよくないか?」
戦う気がないのなら、もう粘る必要もないのでは? とユーミル。
確かに、多人数戦と違いこれは1対1だ。
逃げ回っていても助けは来ないし、状況も好転しない。
時間切れならHPが多く減っているほうが負けだし、フィジカルモンスターのアルベルトさん相手では、スタミナ切れも見込めない。
あんなデカい剣を連続で振り回しているのに、息切れしないし剣閃も鈍らないから非常に恐ろしい。
……改めてひどい状況だな。
考えれば考えるほど詰んでいる。詰みきっている。
だがしかし、しかしだ。
俺には彼の気持ちがちょっぴりわかる。
「チーム戦だからな……」
その一言でユーミルにも伝わったらしい。
今の逃げ回っている状況がいいとは言い難いが、瞬殺もそれはそれでチームの――グループの士気が下がってしまう。
負けるにしてもどうにか一矢報いていい形に、というのがあの軽戦士の気持ちじゃなかろうか。
「そう言われると、あの軽戦士がすごく頑張っているように見えてきたぞ……!?」
ユーミルの蔑むような視線が一転、温かみを帯びる。
釣られるようにリコリスちゃん、サイネリアちゃんら素直な面々の表情も似たようなものに。
敵チームの彼を応援するような目にさえなっている。
一方、そうは思わなかった者もいるようで。
「単純に、アルベルトさんが怖すぎて逃げているようにも見えますが。そんな高尚なものではなく、生存本能に火が点いただけでは?」
「ですよねー。私も妹さんと同意見です。アルさんこわすぎー」
リィズとシエスタちゃんだ。
セレーネさんは――どっちもありそう、という表情。
真相は……。
「ふんっ!」
「ぶへああっ!!」
戦闘の決着によって、闇の中となった。
やられた時の体勢がまた絶妙で……。
一か八かのカウンターに賭けて剣を突きだしたようにも、恐怖に駆られて手足を振り回しただけのようにも見えるものだった。
グループ戦・一回戦・第一試合1対1、鳥同盟の助っ人アルベルトさんの勝利。
さて、第二試合は――
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ! 久しぶりのっ!! ハインドと私のぉぉぉぉぉっ!!!」
「うるさっ」
「タッグマッチの時間だぁぁぁぁおぁぁぁぁっっ!!!!」
――純粋な喜びと、観客へのアピールを兼ねたユーミルの叫び。
両手を上下に振って観客を煽る煽る。
会場内の観客たちはそれに対し、素直に沸いている。
野次とか皮肉、否定的な声は一割未満だろう。
潜在的にもっと多かったとしても、会場内の雰囲気で封殺されている。
こういう時のユーミルは無敵である。
容姿、性格、持っている雰囲気、そして声のでかさ。
周囲の人間を味方にする能力が抜群に高い。
「うげ……」
「あー……」
少し遅れて舞台上に登った相手チームは、アウェイな空気にげんなりしている。
あちらも男女二人組。
装備からして男性が騎士、女性が神官で、職業的にはミラーマッチのようだ。
すまんね、戦う前から士気を下げるようなことをして……。
とはいえ。
「なんだその顔はぁ! こんな空気、ぶち壊してやるという気骨がなくてどうする!」
「!!」
ユーミルの言う通りではある。
あるのだが……。
「確かにそうだな! せっかく出場したんだし!」
「なんだか元気が出てきたよ! ありがとう勇者ちゃん!」
敵に気合を入れてどうする。
目に光が戻っちゃったよ。
まあ、あまり手応えがなさすぎても、ユーミルの今後のためにならないか。
楽勝だと勘定していた精神状態を切り替えないといけないな――と、対戦相手がユーミルからこちらに視線を移す。
「ハインドも! 対戦よろしく!」
「あの、いつも動きとか参考にさせてもらっています! よろしくお願いします!」
「あ、ああ、はい」
しかも礼儀正しいぞ、この人たち。
声をかけられると思っていなかったから、つい間抜けな返事をしてしまった。
心の中の警戒レベルが一段上がる。
オラついている手合いよりも、ずっと嫌な予感がする……。
旧装備で来ちゃったけど、さすがに装備だけは新しいほうがよかったか?
そして数分後。
予感、的中。
「あべしっ!?」
ユーミルが敵騎士の継承スキル『エミュレイト・エンペラーソード』で倒れる。
グラド帝国で習得できるアンコモンかつ性能が高い技だ。
……いかん、白目を剥いてら。
「やった! また倒したぞ!」
そう、またなんだ。すまない。
なんだか応援してくれているグループのみんなにも、観客のみなさんにも申し訳ない。
ユーミル選手、この試合二度目の戦闘不能である。
――『リヴァイブ』のWTが明けた直後に戦闘不能になるの、やめてくれないかなぁ!?
明ける前よりはいいけども! わざとやってんのか!?
「今度こそ、俺たちの勝ち――」
ってことで、騎士の男性が汗をかきつつこちらを向いた瞬間。
もちろん準備していました。準備していましたとも。
ユーミルの動きが急に荒くなったから、唱えざるを得なかったというのが本当のところだが。
詠唱完了! 蘇生!
「はっはっはぁ! まだまだぁ!」
蘇生によるふらつきを抱えながらも、ユーミルが力強い斬撃で敵を場に留める。
慣れって怖いな。あんなものに慣れてほしくはないのだが。
その場で回転してからのスイカ割りがあるが、あれがとても得意な人みたいな動きだ。
酔拳とかの動きにも近い。
「――」
パクパクと、呆気にとられた様子で口を開閉しながら、背後の神官女性のほうを振り返る騎士男性。
うん、そうだね。
この展開も二度目だね。
「ま、またノータイム蘇生……しかも一回目よりも速い……うぅ。あれだけは真似できない……できないよ……無理だよぉ……」
絶望したような表情で顔を横に振る神官の女性。
とはいえ、こちらも『シャイニング』連発による妨害をかいくぐりながらの魔法詠唱だ。
楽に蘇生できたわけではない。
彼らが悲観するほど、余裕のある試合運びにはなっていないのが実情だ。
「さあ、そろそろ剣が温まってきたぞ! ここからが本番だ!」
「温まってきたとしたら、お前の体のほうな。その長剣にそんな機能はないし、戦闘不能を挟んだから、むしろ冷えているだろ」
「失礼な! 冷えるほど長く戦闘不能になっていないだろう! お前のおかげで! ありがとう!」
「どこにキレてんだよ。キレながら感謝の言葉を贈るな」
だが、苦しいときほど笑顔で元気に。
そんなユーミルの言葉と、苦しさを覆い隠すべく発した俺のツッコミ。
本質はそんなところなのだが、相手目線では余裕たっぷりの態度に見えたのだろう。
「う、うおおおおおああああっ!」
「ま、待って! まだ時間はあるんだから、慎重に――!」
相手前衛、男性騎士のほうが暴走。
やぶれかぶれの攻撃に、ようやくユーミルがまともな反応でカウンター。
俺が放った『エントラスト』によるMP補給を受け、体を光らせながら身を沈める。
「隙ありぃっ!!」
目一杯突き出した剣先が、騎士の青年の顎に触れるかどうかの位置で止まる。
味方の制止を受けてギリギリでブレーキをかけたためか、それともユーミルのカウンタータイミングが早すぎたのか。
ともかく、そんな顎先手前で止まってしまったロングソードだったが。
チリチリと閃光が走ると――爆散。
「――っ!?」
顎が吹っ飛ぶような爆発を受けて、声もなく倒れ伏す。
『バーストエッジ』の二段目、魔力爆発の部分が命中。
HPがわずかに残っているのを見て、ユーミルは追撃に。
俺は……。
「あっ!?」
回復魔法を放とうとしていた敵女性神官のところへ駆け、速度の乗った杖による突き攻撃を加えた。
……かなり迅速な対応だったし、自分はできないと言っていた蘇生の択を捨てた思いきりもよかった。
だが、俺の模倣と言っていただけに行動が読みやすい。
詠唱時の回避の癖、右方向に移動しがち――というところまでコピーしてしまっているのはいただけない。
そんなわけで、ユーミルが二度の戦闘不能という事態に陥ったものの。
1対1に続き、2対2も勝利となったのだった。




