本戦5対5決闘 その6
――リヒトが立てた作戦はこうだ。
まず、パーティを二分する。
区分けはチタン・エルデ、リヒト・ローゼに俺といった形だ。
「うおおおおっ!!」
チタンさんが両盾を手に突進。
ソラールの手前、敵チームの懐に潜り込むとそのまま盾を振り回し、更にリヒトとローゼがソラール以外のメンバーに次々と斬りかかる。
こちら側は更にダメージを負うことになったが……その甲斐もあり、無事分断に成功。
「ぐぬっ! ラグビー部! お前が俺の相手か!」
「来い……!」
神官がふたりいるからこそ、可能となる分隊作戦。二方面作戦だ。
ソラールをチタン・エルデ組で抑え、その間に俺たち側三人で他を全員倒す。
ただしソラールひとりにふたりの人数を割くということは――
「舐められたもんだな!」
「無理でしょハインド、その戦法。やるならユーミルたちを連れてきなよ!」
「……さすがに不快ね。私たちはあいつのオマケじゃないっ!」
「ソラールさん! すぐに合流しますからね!」
――こちら側は人数不利、ということになる。
それでもこういった振り分けにしたのは、それだけソラールの強さを評価しているからだ。
そしてリヒトとローゼが「やれる!」と強く主張したからだ。
エルデさんの回復付きとはいえ、チタンさんがどれだけ持ちこたえられるか。
時間との勝負になる。
敵チームがこちらの思惑を察しつつもソラールとの合流を急ごうとしないのは、余裕の表れか。
「舐めているのはどっちよ! 澄まし顔がむかつくわ! くたばれえええ!」
ローゼもそれがわかったのだろう、息つく間もなく即座に切り崩しにかかる。
ちょっと口が悪いが。
こちら側の敵チーム四人のうち、前衛と後衛の人数は半々。
ソラールと同等の暑苦しい発言をする男性が重戦士のシャムスで、先程ソラールに蹴りをかましていたクールな女性が武闘家のソレイユ。
後衛はノリが軽い弓術士の男性がフエゴ、控えめな印象の神官少女・ルア。
理想は脆い後衛から倒すことだが、とにかく誰でもいい。
早期にひとり倒せば活路が見えてくる。
「はぁぁぁぁっ!!」
リヒトが気合の声を発しつつ、前衛二人に無謀とも思えるアタックを繰り返す。
継承スキル『シールドスラッシュ』を使い、シールドから伸びる光の刃を用いて疑似二刀流の攻撃特化に。
ローゼは基本、弓術士の矢を止めに行きつつも、柔軟に。
もちろん俺は回復だ。
こちらのそんな動きに対し、相手側は……。
「はっはっは! さすが腐っても元ランカー! 女遊びだけが能じゃなかったんだな、リヒト! いい動きだ!」
リヒトに対しナチュラルに無神経な発言をかますシャムスは別として。
弓のフエゴは俺狙い、武闘家ソレイユはリヒトをいなしつつローゼのHP削り、神官ルアはバフ優先のスキル回し。
堅い戦い方だ。当然か。
「普通にやれば勝てるわ。みんな、いつも通りに」
あちらのほうがチーム力で上回っているのだ。
無茶を通して流れを引き寄せなければならないのはこちら側。
ただし一点だけ、前衛の人数・実力は拮抗している。
「避けた……!?」
だから矢にさえ気をつければ、大きく崩れることはないだろう。
などと、余裕な顔で避けたように見せているが、実際は冷や汗ものである。
真横を通過した矢がめっちゃ速い。べらぼうに速い。さすがランカー。
それも単射型の剛弓なので、威力を裏付けるような風切り音が恐ろしい。
弾道予測が外れていたら今ごろ、右肩に矢が深々と突き刺さっていたことだろう。
ローゼが牽制してくれたおかげで、発射のタイミングが計りやすかったのも大きい。
「リヒト!」
「ああ!」
回復を挟んで戦線が安定したら、やることはシンプル。
エースのリヒトをバフで強化していく。
このためにローゼは無理しないよう、またHPが大きく削られることがないよう慎重に動いてもらっている。
MP自体はチャージできれば無限だが、溜まる量も使える魔法も制限がある。
これを超えて殴られ続けると回復力が足りなくなり、誰かしらが犠牲になるわけだ。
そのほかにも回復妨害、状態異常に低確率の即死技などの要素がかかわってくるわけだが、ともかく。
「集中……!」
上級者ほど、運に頼った戦術を採らず安定して強いほうの選択をする。
上級者ほど、セオリーを熟知した動きを基に行動を決定する。
つまり、それだけ先読みの精度を高めることが可能。
分断後の戦況が落ち着いてくると、やはり俺へ攻撃を通せないか色々と試してくる。
相手チームのヒーラーから狙うのは鉄板行動だ。
それを見越して大きめに距離を取ると――連動してリヒト、ローゼが防戦寄りの動きをしてくれる。
チタンさんたちが心配で焦る気持ちはあるが、自ら崩れては意味がない。
焦らず、されど早く敵を倒したい。
次、こちら側も敵ヒーラー……ルアを狙ってローゼが動くも、ソレイユがカバーに回る。
先述の通り、ローゼは無理をしない方針なのですぐに後退。
続けてソレイユがカバーに回った隙を突けないか、リヒトが動き出すものの。
「あめえ!」
シャムスがリヒトを行かせない。攻防に厚みのある強い圧力。
フリーになった弓術士のフエゴについては、俺が『シャイニング』を先撃ちして対応。
命中させやすい胴に一発、二発。
超低威力だが、短い間隔で発射できるのが『シャイニング』の強みである。
弾が飛ぶタイプではなく、座標指定型で避けにくいのもいい。
「くそっ! しつこい!」
魔法詠唱以外に対しては弱いヒットストップ程度の行動阻害だが、もちろん弓術士の狙いはつけづらくなる。
引き絞った状態の弓が震え、矢がブレるのだから当然だ。
――と、ローゼがソレイユを振り切りフエゴに対して斬りかかった!
「干し肉……パワー!」
「なんだそのふざけたかけ声ぇ!」
ハインドもそう思います。
しかしながら声に反して攻撃は鋭い。
フエゴは――なんと、アクロバティックにバク宙で剣を回避。
トビとか弦月さんみたいだ……大型の弓を持っているとは思えない動き。
そのまま、着地直後に至近距離からローゼに反撃。
「ローゼ! 後ろっ!」
「!!」
ローゼの正面から放たれた矢が突如ローゼの斜め後方へと移動。
放たれた勢いのままに防具のない後頭部へと迫る。
が、ローゼは俺の声に反応して、フエゴに対し直角の方向に前転しながら回避。
「これも避けるのか!? 自信なくすっての!」
「なに!? なに!? なにが起きたの!?」
『ディメンションアロー』とかいう継承スキルだったか?
フエゴがトーナメントで一度だけ使っていた技だ。
ローゼはフエゴの様子を見て、それから矢が決闘エリア端に衝突したことでようやく攻撃を避けたことに気がついた。
斬りかかってすぐに離脱の体勢に入っていたのが奏功した。
そしてこの間、俺がやった行動は……。
「――っあ!? ああああああ!!」
フエゴが目を手で覆って苦しそうに呻く。
ローゼに気を取られた隙に、目に『シャイニング』を命中させることに成功した。
……ここだ! 敵を崩すチャンス!
「くそおおおおっ! ハインド! ハインドぉ!」
フエゴは序盤の軽い口調がどこかに行き、恨み言を吐きながらローゼから距離を取る。
そして口調の割に、怒り狂って矢を乱射してくるような愚は犯さない。
視界消失前の情報を頼りにしてか、ひたすら誰もいない方向へ後退していく。
怖い怖い……だが、もっと怖いのはソールの他のメンバーだった。
「フエゴ! 下がって!」
「フエゴさん! こっちです!」
目潰しを受けたフエゴをソレイユがカバーし、長い脚で追撃をかけていたローゼに蹴りを放つ。
シャムスは戦いのギアを上げると、大剣を振り回してリヒトを単独で足止め。
そしてルアが全体回復をしながら、前が見えないフエゴの移動先を声でアシスト。
さらにフエゴのHPを小回復。
一瞬で戦況を立て直されてしまった。
「どうも、過小評価だったみたいね。ハインド以外もやるわ」
「そりゃ、お互い様よね! あんたら全員、ソラールの金魚の糞かと思っていたわ!」
「……チッ」
「ハッ!」
ソレイユとローゼが鋭い視線と共に、喧嘩腰の言葉を交わし合う。これは別の意味で怖い。
その後は何度か似たような攻防が続き、互いに同じタイミングで神官狙いを変更。
あちらは遊撃役のローゼ狙い、こちらは隙があれば誰でも。
リヒトに負担が行き過ぎて、戦闘不能にならないようにも注意がいる。
場合によっては……。
「リヒト、交替!」
「ローゼ! だが、僕はまだ……」
「いいから! 交替!」
そう、今のようにリヒトとローゼの位置を入れ替えるのもいい。
ローゼが敵前衛二人に積極的に攻撃しに行き、息が上がり切ったリヒトが俺とローゼの中間の位置に。
リヒトは肩を大きく上下させながらも、フエゴとルアの動きに目を光らせる。
交替タイミングは俺が関与するところではないが……ローゼの判断は正解だったかもしれない。
俺が思っていたよりも、リヒトの消耗は激しかったようだ。
「はぁ、はぁ……」
とはいえ、この陣形を崩すと俺がフエゴに即狩り取られるだろう。
息も絶え絶えでも、リヒトにはそこにいてもらわないと困る。
このレベルの戦闘では間違っても、一瞬でも、疑似前衛をやろうなんて色気を出してはならない。
とにかく後方から回復を、バフをかけ続ける。
「はぁっ……ハインドはやらせない!」
ほら、抜け目なく矢が飛んできた。
これはリヒトが盾で防いでくれる。
ついでに『シャイニング』も俺に向けて飛来し――これは躱せないな。
目にだけ当たらないようにしつつ大人しく受けて、それによって中断された回復魔法を唱え直す。
ダメージは大したことない。
今は我慢、我慢だ。
チタンさん側も心配だし、そう時間は多く残されていないだろうが、焦ればやられる。勝機はきっと訪れる。
「ローゼっ!」
呼吸を整えたリヒトが、フエゴに一太刀浴びせてからローゼの加勢に向かう。
その際、一瞬こちらを振り返って目を見てくる。
……合図だ。
ちょっと早い気もするが、ここはリーダーのチャンスへの嗅覚を信じよう。
回復魔法をキャンセル、事前に打ち合わせていた魔法の詠唱を――
「……」
――……微妙なタイミングだが、打ち合わせになかった魔法も先にひとつ仕込んでおく。
念のためだ。
これでもし間に合わなかったら敗北に直結しかねないが、これまでに培ってきた経験と勘がやるべきだと告げている。
「こいつら、なにかする気か……!?」
戦況が大きく動きだした。
シャムスが大技に備え、ローゼを大剣で弾き飛ばすと、反対側の手に持った盾を前方に向けて構える。
片手で大剣と大盾を振り回すパワー……ここにもゴリラがいたわけだ。
対して、常識的なサイズの剣と小型の盾を装備したリヒトは……騎士・均等型の上級スキル『ジャッジメントソード』を発動。
剣を光らせながら鋭く踏み込んでいく。
溜まったMP全てを使ってギリギリの発動だ。
二合、三号と打ち合い、致命傷とはいかなくともシャムスとソレイユにかけられた防御効果とHPを確実に削っていく。
持続型スキルの強みを活かした実のある行動だ。
「みなさん! ハインドさんが怪しい動きを!」
「!!」
ルアがこちらの魔法陣の色を確認して、注意喚起の声を大きく上げる。
反応して、シャムスは盾を。
ソレイユは事が起こる前にリヒトを潰してしまおうと攻勢を強める。
ローゼはまだ転倒しており、更にリヒトの『ジャッジメントソード』の効果時間内ということもあっての、この動きだろう。
だが、シャムスとソレイユの間で行動が分かれた。
わずかな齟齬、隙とも言い難い隙。
それでも、この戦いでそれを見逃す者はいない。
――フエゴの矢が俺の頬を掠め、直前に仕込んでおいた『ホーリーウォール』の効果が消失。
「っ」
唱えておいてよかった! かけておいてよかった!
内心激しく動揺したものの、壁の効果で詠唱は中断されずに済んでいる。
ルアの『シャイニング』は……リヒトの目を狙ったものの、絶対に俺にはできない反応でリヒトが防御。
盾で払うような動きで封じた。握りつぶしたアルベルトほどではないにせよ、充分にすごい。
……そしてようやく、俺が詠唱していた魔界産継承魔法『強欲な剣』が完成。
紫紺色の魔法陣が妖しい輝きを放つ。
光が飛び、シャムスはリヒトに向けて盾を構えたまま、更に深く身を沈めて衝撃に備えた。
だが、お前を刺すのは――
「くらえええええ!」
――リヒトではない。ローゼだ。
転倒状態から捩るように身を起こしたローゼの剣が伸び、重戦士シャムスの脇腹を深く鋭く抉った。




