レイド対策会議
「そんなわけで、助けてください。頭脳派のみなさん」
苦悩の末に俺は、仲間たちを頼ることにした。
場所はホームの鍛冶場、相談したメンバーはリィズ・セレーネさん・サイネリアちゃんにシエスタちゃんの四人。
「えーと。どういうわけですか……?」
「悩んでも答えが出ないなら、自分より頭のいい人に相談しよう。ということで」
困惑するシエスタちゃんに対し、俺は新イベントの立ち回りで悩んでいることを伝えた。
レイドで継承スキルを伏せるべきか否か。
「はぁー……一緒に考えるのはいいですけど。先輩以上の知能を発揮するの、ふつーにしんどいですねぇ」
「え? そう?」
確かに、みんなには俺が考えた以上の結果を期待しているが……。
過大評価ではないだろうか?
俺のおつむの出来はそんなによろしくない。
正確に言うとミスを減らすほうに全力で、発想力は凡庸だ。
この場のみんなもそれは承知だろうから、細かく言葉にする気はないが。
「でも、無理とは言わないんだね。さすがだぁ」
「いやいやいやー。私たちの頭脳が先輩より上とかそういう話じゃないですからね?」
「勘違いなさらないでください。ハインドさんとは別方向の発想をしようという話です」
「そうですよ!」
「得意分野がそれぞれ違う、っていう話……だよね?」
「おお。怒涛の反論」
やはり過大評価されている感はあったが……。
ともかく、やる気にはなってくれたようだ。
そこからは各人が思いついたことを言う、意見出しの時間が始まった。
「自分たちの動きもですけど、周囲のプレイヤーがどう動くかも大事ですよねー」
「私たちだけがレアな継承スキルを暴露させてしまう、というのが最悪の事態ですね」
これはシエスタちゃんとリィズの言葉だ。
レアな継承スキルというのは、それだけ数が限られる。
バレンタインイベントからもわかるように、TBの現地人と仲良くなるにはそれなりの時間が必要だ。
故に、レアスキルの緊急補充は難しい。
トップ層にいる他のプレイヤーと差がつく事態は避けたい。
「ハインド君が言ったみたいに、コモンスキルだけを使うのが安全かな……」
「でも、レイドって短時間における与ダメージが大事ですよね? コモンスキルに、あまり大技ってないのでは……?」
今度はセレーネさんとサイネリアちゃんの意見だ。
どちらの言葉もその通り。
レア度の低いコモンスキルは、既に広く認知されているので使いやすい。
だが、大ダメージに直結するような大技は少ないという欠点がある。
使いやすいが、レイド向きではない。
「そもそも、単純にダメージが高いだけのスキルはあんまり隠す意味ない気もしますねー。発動条件が特殊! とか、範囲が特殊! とかなら、その限りじゃないですけど」
「しかし単純なアタックスキルも、何度も見ると目が慣れるということはありますよ?」
「あー。ユーミル先輩のバーストエッジなんかも、決闘だと稀に躱されますもんねぇ」
「最大限に警戒して、タイミングを完全に見切った相手だけですがね。腹立たしいことに、あの女の運動神経は一級品ですから」
と、再びシエスタちゃんとリィズの言葉。
うーん、いちいちごもっとも。
確かに『魔王煉獄弾』とか『メテオフォール』なんかは、レアだが単純な火力スキルだから――!?
「あ!!」
閃きが走ると同時に、俺は声を出して立ち上がっていた。
これなら……いや、でも……。
と、悪い癖で、頭の中で堂々巡りしそうになるが。
今は目の前に、優秀な頭脳が四つも並んでいる。
「そっか、確かに。俺は100か0かでしか考えていなかった……」
思考を声に出していく。
すると、即座に意を汲みリィズが反応。
「なにか思いついたのですね?」
「ああ。みんなの意見を聞く側に回って、やっとな」
閉塞していた思考が回っていく興奮で、やや舌がもつれそうになる。
落ち着け、とにかく簡単でいいから考えをまとめよう。
その上で、みんなに使える意見かどうか採決してもらえばいい。
「おーおー。聞かせてもらおーじゃありませんかー、先輩の発見ー」
「うん、聞いてくれ。で、納得いかなかったり変なところがあったりしたら、どんどんツッコミ入れて」
修正、改善、反論、大歓迎だ。
一つ呼吸を置いてから、思いついたことを言語化して伝えていく。
「……あえて。あえてだよ? 事前に強いスキルを見せておくことで、警戒の対象になるってことはないかな?」
「どゆことー? 先輩、どゆことー」
「ごめん、言葉足らずだね。ええと――」
疑問の声を上げつつも、八割方は理解しつつあるであろうシエスタちゃんたちに補足説明。
対人戦では、敵がどんな継承スキルを使ってくるかはわからない。
土壇場まで使わず伏せておくことで、相手の行動を制限することができる……かもしれない。
具体的には、大技を恐れさせることで間合いを大きく取らせたり、早期決着を目指した無理な速攻をかけさせたり、などなど。
「もちろん、変わったレアスキルなんかは隠す。でも、さっきシエスタちゃんが言ったように、レアでも単純な火力スキルは見せてもいいかもしれない。むしろ見せて威圧に使う」
「……なーる。要は、秘匿する継承スキルを細かく吟味しましょーってことですね? 見せるやつと、隠しておくやつで――」
シエスタちゃんがなにかを持ったような形の手を、右に。
そして、左に。
「――わけーる。こーですね?」
「そう。なんでもかんでも隠すんじゃなくて“あいつ危ない技を持っているぞ!”と、認知させることで……」
「対人戦では、強い牽制になりますね。素晴らしい着眼点です、ハインドさん」
「いや、俺が思いつかなくても辿り着いたよな? このメンバーなら」
同じ考えに至るまで、時間の問題だったと思う。
……俺たちの場合、レイドランキング上位常連だ。
ランクインできればリプレイが載るだろう。
一緒に戦うであろう野良プレイヤーも、運がよければ噂を広めてくれる。
次のレイドイベントで継承スキルを使うだけで、大なり小なり話題には昇るはずだ。
「じゃー、奇襲に使えるスキルは除外で」
「そうですね。対人戦に向いた特殊なスキルは全て除外がいいでしょう。どの道、レイドでは役に立たないでしょうから」
「初回・初見の効果が高いスキルも除外ですね」
「あと、職性質から見て、意外性のあるスキルも除外がいいかな?」
「お、俺が言うことがなくなった……」
なんて頼もしいメンバーたちなのだろう。
ひとりで唸っていないで、さっさと相談すればよかった。
継承スキルの仕分けがサクサク進んでいく。
「……うん、いい。これなら行ける。不利も不満もなく、戦える」
紆余曲折あったが、とても有意義な時間になった。
意見がまとまったところで、俺はみんなに対して頭を下げる。
「ありがとう、賢人たち。おかげで――」
「「「「やめてください」」」」
「――おおう」
賢人の称号を贈ってみたが、即座に拒否されてしまった。
この場にいない三人なら、喜んで受け取ってくれそうなのに。
シエスタちゃんが唇を尖らせる。
「賢人会議っていうと、アニメやゲームでは賢人(笑)な人たちばっかりな気がしますしねー。イメージ悪いです」
「言われてみれば。(自称)賢人な、中身がスカスカな会議をする作品なら知ってる。それっぽい雰囲気だけ出して、実は一切大したことを言っていないやつ」
「賢人じゃなくても、四天王会議とかもそれですよねー。で、具体策は? とツッコミを入れたくなりますよー。なんです? あの集まる意味のない話し合い」
「あ、あるねぇ……」
好きなジャンルが近いシエスタちゃんと俺、それからセレーネさんはイメージを共有して笑い合う。
と、そこでセレーネさんがリィズとサイネリアちゃんのほうを見る。
「……リィズちゃん、サイネリアちゃん。二人の話、ついてこられている?」
「は、はぁ。なんとか」
残念ながらサイネリアちゃんは、あまりピンと来ていない様子。
無理もない。
そして意外にもリィズは、心当たりがあったようで……。
「私もひとつだけ知っています。モノリスを立てて、声だけで参加する――」
「あー。それ、一番有名かもしれないやつですねー」
「その人たちに関しては……賢いのか、そうでないのかもわからないまま溶けたから……」
こう思いつく人々を挙げてみると、シエスタちゃんの言う通り。
あまりいいイメージが湧かないものだなぁ。
「元が賢かったとしても、人は驕った瞬間に落ちぶれるのかもしれませんね。賢人には遠く及ばない私たちも、謙虚に……」
「「「?」」」
「……あの。脱線著しいですよね? この話題」
「「「確かに」」」
リィズの言葉に全員が同意したところで、会議はお開きとなった。
賢人なんて名乗らず「頭脳労働担当チーム!」――くらいにしておいたほうが、色々といいのかもしれない。




