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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第六章 それぞれの決着

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第百六十九話 神の資格 前編

 ここは、ロメリアの力が濃縮された神の領域。それは、ロメリアの力を何倍にも増幅する。邪悪な意思で満ち、隔絶された空間からは出る事さえ出来ない。そして、神域に満ちた瘴気はペスカと冬也を蝕もうと、体に纏わりつく。


 常人では息を吸う事さえ困難。それ以上に、たった数秒で瘴気に呑まれ生きてはいられない。達人と呼ばれる領域に昇りつめた者とて、神の力には抗えまい。只の神とてそれは同じ事だ。


 それ程に圧倒的な力の差を、ロメリアは見せつける。そしてペスカ達は膝を付く。


 そんな絶望的な状況でも、ペスカと冬也の瞳には諦めの二文字は映らない。易々と死を享受する気は無い、負ける気すら無い。


 そして二人は立ち上がる。


 二人を動かす力は、何なのか。正義感か、はたまた勇気か、それとも約束か。信念や矜持なのか。そんな単一の言葉で一括りには出来ない様々な感情、様々な想いが二人を突き動かす。


「はははは。立ち上がるのか、凄いね。それでこそ人類代表だよね。まぁ、こんなので倒れられても、つまらないしね。もっと足掻いて楽しませてくれよ」


 ロメリアは、己の優位性を疑う事なく、尊大な態度を崩さない。


「おい、糞野郎。さっきからごちゃごちゃ、うっせぇんだよ。なにビビってやがんだ。かかって来いよ」

「へぇ~、勇ましいよね。混血の癖にさぁ、生意気だよね。お前には、痛い思いをさせられたんだ。せっかくだから、お前から潰してやるよ。お前を動けなくした後に、目の前で小生意気な娘をいたぶってやる。楽しそうだ、あぁ楽しそうだ」

「悪趣味だね、糞ロメ。お兄ちゃんに手を出したら、私が許さないからね」

「言うじゃないか小娘。足が震えているぞ」


 ロメリアの暴言で、ペスカの闘志に火が付く。しかし、マナを漲らせ魔法を放とうとするペスカを、冬也が片手で制した。

 そして、冬也は小声でペスカに耳打ちする。


「ペスカ、ここは俺に任せろ。お前は、マナを極限まで研ぎ澄ませるんだ」

「お兄ちゃん……」

「お前なら、もうわかるだろ? もう出来るはずだ。俺の傍にいたんだからな」


 冬也はそう言うと、ドロドロとした神域の壁を見やる。ペスカは、冬也の意思を感じ取り頷いた。


「わかったよ、お兄ちゃん。簡単にやられちゃ嫌だよ」

「あんな糞野郎に、俺が負けるかよ」


 二人の視線が交差すると、冬也はゆっくりとロメリアに向かい歩き出す。右手に持った神剣は、更なる光を放ち始めた。


「最後のお別れは、済んだかな混血」

「てめぇ馬鹿じゃねぇか! 気が付いてねぇのか? てめぇが汚した大地は、もう三分の二くらい、浄化されてるんだよ」


 尊大な態度のロメリアに、僅かな揺らぎが見える。

 己の意識は旧メルドマリューネの隅々まで届いている。神々が近づいている事には気がついている。それでも、優位は変わらない。


 何故ならここは、ロメリアの神域なのだ。


 例え原初の神でも、ここからは容易に抜け出る事は出来ない。その理由は、大きく力を制限されるからである。反目する程、比例的に力は制限される。

 恐らくこの場で全力を出せるのは、混沌勢と呼ばれる神だけであろう。ペスカと冬也は、そんな神域に入り込んだのだ。殺す事は造作もない。

 

「愚かだな混血。それで、ぼくが動揺するとでも」

「そうじゃねぇよ。てめぇの負けは、確定してるんだ。俺達が、ここに入った時点でな」


 冬也の神剣は虹色の光を纏う。それは、かつて戦いの神アルキエルを倒した時と、同じ輝きだった。


 その神剣の輝きを見て、ロメリアの眉が僅かに動く。そしてロメリアは、おもむろに手を翳す。床が呼応する様に剣を作り上げていき、ロメリアの手に収まる。

 神域に満ちた悪意の塊で作り上げられた剣は、黒く禍々しい光を放ち、強烈な存在感を放っている。


「混血。お前と同じ武器で戦ってやるよ。その馬鹿な頭に、力の差を叩きこみなよ」


 その言葉を合図に、冬也とロメリアは互いに剣を振り上げた。


 一合、二合と切り結ぶ。その度、凄まじい神気がぶつかり合い、虹色の光と黒い光が飛び散り神域が揺れる。


 力は互角か? いや、冬也の圧倒的な不利は変わらない。ロメリアは、周囲の瘴気を黒い剣で吸い取り、力を増していくのだ。

 再び剣を打ち合う、冬也とロメリア。交わる度に、冬也の剣は弾き飛ばされる。体勢を崩された所に、黒い剣が迫る。冬也は剣で攻撃を防ぐが、やはり弾き飛ばされる。


 どんどんと瘴気を吸い取り、黒い剣が大きくなっていく。目にも止まらぬ速さで、ロメリアは巨大な黒い剣を振るう。

 受け止めれば、力づくで剣ごと叩き切られるだろう。巨大な黒い剣は、禍々しい瘴気を纏っている。ギリギリで躱しても、瘴気に触れてダメージを受けるだろう。

 そんな凶悪な剣だ、猛烈な速さで振り回されては、間合いを遠く取るしかない。近間で勝負をする冬也にとって、不利な状況である。


「どうだい、ぼくの剣は? 力の差を思い知ったかい? お前の力はその程度だろ。僕の力はこの神域に満ちているんだ」


 冬也の息は荒く、大量の汗を流している。神域の中では立っているだけで、体力が削られていくのだ。見ればだれもが敗色は濃厚と思うかも知れない。だが冬也の頭に、負けは微塵も浮かんでいなかった。


「あめぇんだよ、糞野郎。俺は掠り傷一つ付いちゃいねぇぞ」


 確かに冬也は傷を負っていない


 確かに黒い剣は強力な力を秘めている。しかし、どれだけ瘴気を集め力を増しても、その速さはシグルドに劣る。速度に関してシグルドと対等である冬也にとって、避けるだけなら難しくは無かった。


「ならば、速度を上げれば、お前は成す術が無いわけだ」


 腕力だけではない、スピードも上げられる。ロメリアは更に瘴気を吸い込むと、倍以上の速度で動き始める。

 そうなると、流石の冬也も目で追う事が難しくなる。もう感で避けるしかない。しかし、それでは追い詰められるだけ。


 力を増し続けるロメリアに、冬也が少しずつ押され始める。


「こんなもんかい? 神を三柱も倒したんだろ? 英雄なんだろ? 神の子なんだろ? これじゃあ面白くないよね? もっと楽しませなよ」

「だったら、攻撃の一つでも当ててみろ! ノーコンかてめぇは!」


 冬也とて、力の差は理解している。ましてや、力が制限されているなら尚更であろう。だから冬也は、防御に徹した。

 全神経を伝い、体の隅々に神気を満たした。集中力を高め、既に目では追えなくなっているロメリアの攻撃に反応した。

 

 剣を弾かれれば、次の攻撃を予測し剣を振る。背後に回りこまれれば、大きく跳躍し間合いを取る。攻撃を予測していれば、死角からの攻撃でも躱す事が出来る。

 冬也は全ての攻撃に反応し防ぎ続ける。反撃のチャンスが来るのを待ち続けて、ロメリアの猛攻を凌いだ。


「しぶといガキだな。混血! お前、しつこいよ」

「その言葉は、そっくり返してやるよ!」


 そしてロメリアは、少しずつ焦りを感じ始めていた。

 

これだけの差が有るにも係わらず、何故傷を付けられない。何故、押しきれない。こいつは、何を狙っている。反撃を捨てて、防御し続けているのは何故だ。

 フィアーナ達の到着を待っているのか? 違う。こいつの狙ってる事は、もっと別の事だ。

 こいつ等には散々、痛い目を見せられたんだ。消滅の一歩手前まで、追い詰められたんだ。油断は出来ない。なぶり殺しは止めだ。この男だけは、直ぐに殺さなければ。


 ロメリアは、更に攻撃を強める。そして冬也は、極限まで神気を高め、ロメリアの攻撃に反応する。

 ロメリアの意識は、完全に冬也に釘付けとなる。そして、この場にいるもう一人の存在は、頭の片隅から消え去る。


 そして時は訪れる。冬也だけに集中していたロメリアは、後方でする声を聞き逃す。冬也の笑みを見た時には、既に遅かった。


「我が名はペスカ。かつてこの大地で生を受け、英雄と呼ばれた者。我が体は死してなお蘇る。我が魂は決して滅びぬ。我が魂の光は天を突き、神へと至る。この光を持って答えよ。邪気には永久の安寧を。澱みは清らかなる清流へ」

 

 ペスカから眩い光が迸る。その光は、神域を満たしていた瘴気を消し飛ばしていく。空気は正常化し、ドロドロとした壁は、綺麗な姿に変わっていく。


「な、何が起きた!」


 ロメリアは、驚きを隠せなかった。神すらも侵せないはずの、自分の神域が浄化されていく。溜め切った禍々しい力が消えていく。動揺するロメリアに、声がかかる。


「舐めてると、こうなるんだよ。糞ロメ」

「小娘ぇ~!」


 表情を崩しペスカを睨め付ける、ロメリア。そして冬也は、少し息を吐き呟いた。


「やっと、これで対等だな」

「ぎざま~!」

「だから、言ったろ。てめぇの負けは確定だってよ」


 更に表情を変え、ロメリアは怒りを露にする。ペスカは冬也の隣までゆっくりと歩いた。


「お待たせ、お兄ちゃん」

「流石だな、ペスカ」


 冬也がロメリアと対峙している間、ペスカは神気を研ぎ澄ませていた。


 自分のマナに交じり始めていたのは、以前に冬也から指摘されていた。しかし、唯の人間が得られるはずの無い力である、制御する事は不可能であろう。

 だがペスカは、何度も兄の戦う姿を見て来た。兄が修行をする姿を見て来た。これは、ペスカだから出来た事なのかもしれない。


 過去に英雄と呼ばれた女性が、転生をしてまで手に入れた本当の力が、発揮されようとしていた。

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