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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第五章 人間達の抗い

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第百四十話 グラスキルス王国から齎された情報

 王都から少し離れた場所で一夜を過ごした住民達は、そのまま急遽設えた仮設テントで朝を向かえた。

 帰る家は瓦礫の山だ。先ずは瓦礫の撤去から始めなくてはならない。そして、買っておいた食材は、瓦礫の中だ。

 同じ様に城に備蓄している食料も、爆発で吹き飛んでいる。腹を空かしているが、「配給はままならない」と兵士から聞かされた。そして、「配給がいつになって行われるかわからない」とも言われた。


 そんな中、王都の外には王族や貴族用の仮設テントも立てられている。そして屋根のない空地で、緊急の議会が行われていた。それは、いち早い王都の復興についてである。


 幸いだったのは、人的災害がほとんど無かった事だろう。避難の際に多少の怪我をした者が出た位だ。人出なら充分だ。不足しているのは、食料と建築資材等であろう。

 但し、その不足している物をどこから調達すれば良いのか。それが問題だ。


 シュロスタインとグラスキルスとは、現在戦争の真っ只中だ。それに加え、大陸中央に有る帝国付近の情報は入ってきていない。当然ながら、それより西のエルラフィアとは連絡すら取れない。

 

 ましてや、国中にモンスターが溢れ、今なお人々は抵抗をしている。兵を派遣するにも、その兵が足りない状況だ。そんな状況下の中において、近隣の領地から物資を調達する事は不可能だ。

 

「陛下、国内の状況を安定させねば、何ともなりません」

「それには、いち早く戦争を終わらせ、兵を引き上げさせねば」

「それについては、早馬が届いている。シュロスタインのモーリス将軍からだ」

「モーリス将軍はなんと?」

「戦争は止まった。モーリス将軍は、残った兵を掻き集めてモンスター対峙を始めたそうだ」

「では、モーリス将軍の軍と合流し」

「いや、彼等は独立させて動かした方が良い。我々は国土の安定を急がせよ」

「はっ!」

「モンスターに抵抗している脱走兵達を纏めるのだ! そして、一気に反撃だ!」

「では、王都は如何しましょう?」

「引き続き瓦礫を掘り起こせ! 糧食の一つや二つは見つかるだろう。焼け石に水では有るが、それを民に与えよ!」

「はっ」

「所で、ケーリアは何処へ?」

「ペスカ殿の対応中でございます」

 

 声を張り上げる様にして、国王が檄を飛ばしている中だった。伝令の兵が議会の場に到着する。


「陛下。緊急の要件でございます」

「申してみよ」

「グラスキルスからの使者と申す者が訪れ、陛下に謁見を願っております」

「グラスキルス? サムウェル将軍の部下か?」

「恐らくは……」

「早く通せ!」

「はっ!」


 ☆ ☆ ☆

    

 食事を終えるた後、ペスカは既に試作品が完成したモンスター感知器と、その設計図をケーリアに渡していた。


「まだ改造の余地は有るから、要望があったら言ってね。ってか、改造はここに滞在してる時しか出来ないけど」

「畏まりました、ペスカ殿。早速試してみます」

 

 ペスカの意図を察したケーリアは、部下を連れて議会が行われている空地へ向かって走り出す。そしてペスカ達は車の改造に取り掛かった。


 外装の強化、足回りの整備、計器系魔石のグレードアップ、装填用砲弾の準備、内装の充実等、四人で手分けをして作業を進め、あっと言う間に時間が過ぎる。

 めぼしい作業が終わろうとしてた時だった。慌てた様子の官職が一人走り寄る。


「皆様、急ぎ謁見室にお越しください。ご報告する事がございます」


 走って議会が行われて空地に向かう。そこで一行を迎えたのは、国王とケーリア、それに大臣達である。国を動かす重鎮達が顔を揃え、張り詰めた空気を漂わせていた。


 一行が到着するや否や、国王は口を開いた。


「待っていたぞ、ペスカ殿。グラスキルスから使者が来たのだ。信じられん内容だが、心して聞いてくれ」


 国王が語ったのは、大陸中央部から西にかけての情報であった。


 帝国の壊滅とその理由、更にその脅威が東へ向かっている事。そして、魔道王国メルドマリューネの、エルラフィア王国侵攻。どれも深刻な状況に、ペスカと冬也は顔をしかめる。


 そして情報の中には、大陸の地理に疎い空や翔一でさえ、驚愕する内容が含まれていた。

 

「死者が歩いて、生者を喰らう。それで、爆発的に感染する。それってゾンビパニックじゃない! 糞ロメの奴、日本で余計な知識を手に入れたな!」

「ペスカ、ゾンビってこの世界にはいねぇのか?」

「お兄ちゃん。この世界には、ゾンビの概念が無いんだよ。死体を操るのは、死者への冒涜だからね。それに、世界に溢れるマナの均衡が破られる、禁忌なんだよ」

「武器や魔法が利かないのが厄介だな」

「多分、お兄ちゃんの神剣は利くんじゃない? ただ、対抗手段が少なすぎだね。ミーアさんだっけ、何か他にゾンビの情報無い?」


 グラスキルスから訪れたミーアと呼ばれる使者に、ペスカが問いかける。ミーアは僅かの間、思い巡らせてから答える。

 

「ペスカ様、奴らはマナを吸収する様です。その為、人型が保てなくなっても、マナを吸収し復活します」

「何だよそれ、ほぼ無敵じゃねぇか!」

「仰る通りです、冬也殿。帝国に攻め込んだ三国を呑み込み、数を増やした死者の軍は、いずれ東に到達するでしょう。何か対抗策を講じねば! 最悪の場合、こちらの全滅も有り得ます! その時間稼ぎに、サムウェル閣下が向かわれました」


 余りの出来事に、言葉が出ないのであろう。議会の場には、静寂が訪れていた。


 死者の軍団は、ほぼ無敵の集団と言えよう。神若しくはそれに近しい力を持つ者でなければ、相対する事は出来ない。寧ろ軍を差し向ければ、無駄に死者の軍団の数を増やす事になろう。

 エルラフィアの精鋭が、太刀打ち出来ずに撤退を余儀なくされたのも、仕方がないと思える。


 サムウェルが時間稼ぎに向かった。ミーアは、それを殊更に強調した。

 それは、国王や大臣達の耳にもしっかりと届いている。しかし現状で、対抗手段は持っていない。


 もしかしたら、ケーリアであれば、死者に対抗出来るかもしれない。しかしケーリアを単身で乗り込ませる訳にはいかない。国王として、そんな自殺行為を認める訳にはいかない。

 そもそもアーグニール王国の各地では、未だモンスター被害が収まっていない。ケーリアには国内のモンスターを討伐して貰わければ困るのだ。

 割ける戦力がない状況で、国王を含む大臣やケーリアでさえも、口を噤んでペスカの答えを待つ。

 

 そしてペスカは、ミーアが説明している最中、ずっと考えを巡らせていた。やがて周囲を見渡すと、重い口を開いた。


「マナキャンセラーが利くかな? それと、空ちゃんのオートキャンセル」

「待てよペスカ。マナキャンセラーってのは、クラウスさん達が帝国に持って行かなかったのか? それが通用しなかったんじゃねぇのか?」

「大丈夫、お兄ちゃん。ちゃんと改良するから。ねぇケーリア、王都が大変な状況なのはわかっているけど、グラスキルスと連絡をして、魔攻砲を急いで大量生産させて!」

「現在の我が国では無理でしょうが、グラスキルスなら未だ可能性がありますな」

「設計図は直ぐに。それと弾丸、それも後で詳しく説明してあげる」

「畏まりました、ペスカ殿」

「ミーアさん、あなたにも図面渡すから、グラスキルスで生産を開始させてね」

「承知いたしました、ペスカ様。それと私を呼ぶ際は、敬称は不要です。我等グラスキルスの間諜部隊は、ペスカ様の指揮下に入る事になっております」

「そういうのは、要らないんだけど。まぁ国の盾になって死ぬなんて、ふざけた事させないよ! あの馬鹿弟子を助けるには、迅速な行動が必要だからね」

 

 会議場の全員が、一様に頷いた。単身で向かったサムウェルを救い、中央から流れて来る脅威に対抗する。全員の意志が一致した瞬間だったろう。

 しかし静寂から解放された会議場で、大陸の事情に疎い空から質問が出る。

 

「ところでペスカちゃん、メルドマリューネっていうのは、不味い相手なの?」

「かなり不味いね。あの国の王様は、エルフなんだよ。そんで魔法の天才。神に対抗出来る数少ない人」

「でも、味方って事ではなさそうね」

「うん、物凄い野心家なんだよ。世界征服を企むくらいね。だからついた渾名が魔王。因みに知り合いの兄だったりする」

「おい、ペスカ。それってクラウスさんか?」

「当り! この状況で動きだしたのは、迷惑極まりないね。それで、ミーア。エルラフィアと連絡が取れる?」

「直接の通信は出来ません。死者の軍団のせいで、通信回線の復旧も出来ません」

「なら直接出向くしかないんだね。ミーア。あなたの部下に、エルラフィアへ図面を持って行かせて。マルス所長に渡せば、後は何とかしてくれる。それと伝言。私の机を見る様に!」

「他にお伝えする事はございますか?」

「じゃあ国王陛下に、クラウスをメルドマリューネに行かせない様に伝えといて」

「承知しました」


 ミーアが頷くと、ペスカは謁見室を後にする。

 ペスカは、ケーリアとミーアを引き連れ、会議室を借り装填式魔攻砲と弾丸の設計図を書き上げる。ケーリアは直ぐに、制作の準備に取り掛かり、ミーアは城を後にした。

 

 命がけで国を守ろうと、西へ旅立ったサムウェル。そして彼を救うために、皆が立ち上がる。

 人類の抗いは、始まったばかり。混迷極める大陸に、まだ明日の光は見えない。

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