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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第五章 人間達の抗い

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第百三十一話 モンスターパーティー

 車体には、常に数キロ圏内の情報が収集される様に設定をしてある。据え付けられた魔石とリンクする様に、周囲の状況が地図としてスクリーンに映し出される。

 魔石には古いものから新しいものまで、情報が詰め込まれている。翔一は目を覚ますと、先ずはスクリーンの前に座り、昨夜の情報を確認した。


 昨夜の情報を見る限り、車中泊をした周辺に異常は感知してない様子だ。しかし、ペスカの「マナが飽和状態」という言葉が本当なら、モンスターの襲撃は昨日で終わった訳ではない。これから増える可能性だって大いに有り得る。

 

 そして翔一は、魔石に自身のマナを注ぎ込み、意識を集中させる。魔石と繋がった翔一のマナは、広範囲に渡る探知を可能にさせる。

 映し出される地図は、真っ赤な点で染まっているアーグニール王国だ。さらに、王国の一部では、赤い点が点滅し消える箇所もあった。


 自分の能力を疑っている訳ではない。しかし、スクリーンに写されたものから察するに、信じがたい状況になっている事は間違いあるまい。


「お~、これは予想以上だね」

「ペスカちゃん、起きたの?」

「まあね。翔一君が朝からゴソゴソしてたから、見て見ぬふりをしてあげようかと思ったんだけどさ」

「は? はぁ? な、なに言ってんだい!」

「翔一。お前、溜まってんのか?」

「と、冬也まで! 違うよ! 僕はただ……」

「僕は何です? 工藤先輩?」

「もう! スクリーンをみてよ! これを見て何か思わない?」


 顔を真っ赤にしながら、翔一はスクリーンを指さす。そして、一同はスクリーンに釘付けになる。それも、そうだろう。目を疑いたくなる状態だ。


「ペスカ、真っ赤なのはどういう意味だ?」

「冬也さん、点滅が消えた箇所も有りますよ」

「清浄化したなら、点が青くなる様に設定してるんだよ。赤いのはまだ、やばい状況だね」

「それなら、点が消えるって事はどういう事だい?」

「消えるって事はね、そこに有るはずのものが消滅したって事だよ。国境沿いのモンスター達は、明らかにアーグニールから来たんだし」

「ペスカ、不味いんじゃねぇか!」

「わかってるよお兄ちゃん。一番近くの港へ急ぐよ!」


 朝食もそこそこに、一行は車を走らせる。しかし待ち受けるのは、地元民でも脱走兵でも無い、モンスターの大軍である。

 進行方向を封鎖する様に、モンスターの大軍が封鎖をしている。国境越えの際に見た、オークやサラマンダーが地を埋め、黒光りして飛ぶ巨大なアレが空を埋め尽くす。

 その光景に、ペスカは舌打ちをし、空と翔一は顔を青ざめさせ、冬也は怒りに身を震わせた。

 

「糞野郎! 俺達を狙ってやがる! 足止めでもしようってか?」

「だぶんね。サクッと一掃しよう。空ちゃん、魔攻砲準備。目標、モンスター軍団!」


 空は操作管前に陣取り、スコープ越しに狙いを定める。そしてペスカの合図で、レバーを引いた。魔攻砲から放たれた光は、モンスター軍団の中心に直撃し、周囲一帯を巻き込む様に爆発する。


 爆炎が広がりモンスターの軍団を包んでいく。ほとんどのモンスターは、灰になって消えた。しかし、運よく爆発から逃げおおせた黒光り軍団が、車に向かって勢い良く飛んでくる。

 

「翔一君、ライフルで撃ち落として!」


 ハッチから翔一が上半身を出して、向かって来る黒光り軍団を撃ち落としていく。これも前回の反省を活かした、魔法の改良である。

 撃たれた黒光り軍団は弾け飛ばずに、焼き尽くされ灰になって大地に降り注いだ。そして行く手を封鎖するモンスターは、全て消滅した。


 空と翔一だけで、モンスターの軍団を一掃した事は重畳であろう。二人のマナは実戦を重ねる毎に、大きくなっている。そして魔法の多様性も増し、充分な戦力になりつつある。


 マナを使い、少し疲れた様子の空と翔一を、ペスカが労う。そして冬也は再び車を走らせる。

 一刻も早く街に到着しなければ。ペスカ達は急く思いを押し止め、冷静さを失わない様に気を引き締めた。


 一行は海岸沿いをひた走る。そしてモンスターの襲来は止まない。


 オークとミノタウロスの軍団の襲来は、昼夜絶え間なく続いた。ペスカ達は昼と夜の二交代制で、モンスターを駆逐しながら車を走らせる。


 国境近くでは、比較的弱いモンスターが出現していた。しかし内陸部を進む毎に、強力なモンスターが出現し始める。オークに混ざったミノタウロス。それ以外にも、マンティコア、ヘルハウンド、ケルベロス等、兵士が束になっても敵わないモンスターが出現している。


 明らかに、足止めの意志を感じる。しかしこれは、非常に良くない状態なのだ。


 どんな辺境で小さい村にも、一人くらいは駐在する兵士がいる。シュロスタイン王国では、それが無かった。逃亡兵を取り締まり、王都へ報告する存在がいなかったのだ。


 では、アーグニール王国はどうか? シュロスタイン王国と変わらないだろう。


 戦時下なのだ、駐在兵どころか男達は全て徴兵させれているだろう。そうなれば、村や町を守る者が存在しない。それは無防備のままモンスターの脅威に、晒されている事になる。 


 一行は、魔攻砲とライフルで遠距離射撃で、モンスターを狙撃し駆逐していく。しかし、ミノタウロスやマンティコア等の強力なモンスターは、オークとは段違いの強靭さを持っている。

 自身のマナが大きくなり、戦い慣れてきた空と翔一でも、ライフルの一撃では倒しきれない。数発貫通させて、やっと消滅させられる状況だった。


「くぅ、これは予想以上にキツイね。数が多すぎるし、一体一体が硬い! 装甲車みたいだね」

「埒が明かねぇ。翔一、運転席に戻れ! あの一帯を俺が魔攻砲でぶち抜く、そこを通り抜けろ!」

「わかった冬也!」


 魔攻砲とライフルには、備えられた魔石により、直接魔法を放つよりも消費するマナが軽減している。しかし、頻繁な襲撃による応戦で、マナが枯渇し始めている。

 加えて戦闘続きによる肉体的疲労、緊張状態が続く事による精神的疲労が重なる。それは一行の首を、じわじわと締め付けた。


「空ちゃん。辛いなら、お兄ちゃんを起こすと良いよ」

「駄目だよ。昨日もそう言って変わって貰ったんだし」

「元々、体が丈夫じゃないからなぁ~。運動不足だしなぁ~」

「運動不足は関係ある?」

「有るよ。身体とマナは一対なんだから」

「私も頑張らなきゃ!」

「大丈夫なら、運転だけに集中してね。なんなら、真っ直ぐ走ってモンスターに突っ込んでもいいんだからね」

「怖い事言わないで!」


 モンスターが絶え間なく襲い続けるせいで、車の進行速度は低下する。地図上では近くの街まで、一日もかからない距離に思えたが、二日を経過しても未だ到着していない。あと数十キロ地点まで近づいている。しかし、その距離がなかなか縮まらない。


「流石にここまでだ。二人に、これ以上は無理をさせられねぇ」

「そうだね。マナが完全に回復するまで、二人には眠って貰おうか」


 翔一と空に疲労が蓄積されているのは、見てわかる。目の上がくぼみ、大きな隈も出来ている。充分な休息が取れていない証拠だ。それに、頬もこけている。

 度重なる襲撃に緊張を強いられ、睡眠はおろか食事させ満足に喉を通らない。それでは、マナの回復どころか、倒れる方が先だろう。

 翔一と空を突き動かしていたのは、意地なのだろう。気力で体を支え、ハンドルを握らせていたのだろう。しかし、もう限界が訪れていた。ペスカは空と翔一に魔法をかけて、強引に睡眠を取らせる。


 そして襲い来るモンスターの中に、バジリスク、ヒュドラ、キュプロークスと大型のモンスターも増え始める。

 車を完全に止めて、冬也は降りて神剣を手にする。そしてペスカが魔攻砲で射撃し、冬也が神剣で大型モンスターを倒す。


 更にモンスターは数を増やし続ける。ようやく大型のモンスターが数を減らし始めた時である。スクリーンの状況変化が、ペスカの視界に入る。投影された近くの街、その上で光る赤い点滅が、完全に消えうせた。


「くそ、きりがねぇ! あと少しなのに!」

「お兄ちゃん不味い! 点滅が消えた!」

「ペスカ、街の様子を拡大出来るか?」


 いったん冬也は車内に戻る。そしてペスカが街の様子をスクリーンに拡大する。


 そこに映されたのは、これ見よがしに街の中央に積まれた死体の山。それを取り囲むモンスターの群れ。全ての死体から首が捥がれて、死体の山へ誘う道を作る様に、整然と並べられている。


 ペスカと冬也の顔から血の気が失せた。残酷、残忍、残虐、どんな言葉で綴ればいい。その光景は、二人に言葉では言い表せないショックを与える。

 挑発するかの様な行動、それは知能の無いモンスターが取る行動では無い。

  

「あの糞野郎! ここまですんのか!」


 冬也は怒りが溢れ大声で叫ぶ。ペスカは言葉にならない程の、怒りを感じていた。冬也の怒鳴り声で、目を覚ました空と翔一は、スクリーンに映る余りの光景に目を疑った。

  

「何これ!」


 零す様に呟いた空の言葉が車内に響き渡り、翔一は青ざめて言葉を失う。


「許せねぇよ。なぁ! 許せねぇ~よ! ロメリア゛!」


 冬也は運転席に座り、車を急発進させる。 


「お兄ちゃん、待って! 罠だよ!」

「わかってる。でもこれを許せんのか!」


 ペスカはそれ以上、冬也を止める言葉を持ち合わせていない。慌ててペスカは魔攻砲の操作席に座り、空と翔一に向かい指示を飛ばす。

    

「空ちゃん、翔一君と一緒にライフルで左右のモンスターを迎撃!」


 ペスカの撃った巨大な光弾が、前方を塞ぐモンスター達を消し飛ばしていく。冬也はモンスターの隙間を、猛スピードで走り抜ける。

 走り抜ける車の左右から襲い来るモンスターを、空と翔一が撃ちぬく。再び前方を塞ぐモンスターを、ペスカが魔攻砲で消し飛ばす。

 何度も、何度も同じ事を繰り返しマナを使い果たして、ペスカ達は街に辿り着いた。


 街に辿り着いた瞬間、ペスカ達を車に残し冬也は飛び出す。神剣を出し、神気を爆発的に周囲に広げた。


 街中にいるモンスターの軍勢は、一斉に冬也の気配を感じて襲い掛かって来る。


 冬也は走った。モンスターを斬り飛ばしながら、走り続けた。街中にいたモンスターを、全て抹殺するまで走りぬいた。

 冬也の神気は、天空の地まで届くほどに高まっていた。それ程、怒りに満ちていた。台地を揺らし、風を切る。冬也の怒りは、震える自然を通してペスカ達にも伝わる。


 モンスターを駆逐し、中央広場に冬也が近づいた時、積まれた死体の山が爆発する。爆発は広場を中心に街中へ広がって行く。しかし中心にいた冬也は、その爆発ごと神剣で切り裂いた。


「ロメリア゛~! こんなチンケな罠で、俺を殺せると思うんじゃねぇ!」


 声と共に神気がビリビリと響く。台地や空気、自然そのものが、冬也の神気に怯えている様だった。


 今のアーグニール王国には、住民を守るべき兵士がいない。二十年前の状況とは違う。あの時は、どれだけモンスターが現れようが、住民を守る兵士がいた。今回その兵士達は、国境沿いで戦を繰り広げている。


 スクリーンを見やると、所々から赤い点が消滅していくのが見える。もう時間が無い。時間が経てば経つ程、人が死んでいく。


 嫌だ。もう嫌だ。 


 あれだけ戦って、死んで蘇って、また同じ光景をみるのか。また同じ苦しみを味わうのか。許せない。許してはいけない。ペスカは運転席に座り、冬也の元へと向かう。


「お兄ちゃん! 早く乗って! 急ぐよ! 全部、全部、ぜ~んぶ、守るよ!」


 ペスカの大声が閑散とした街に響き渡り、冬也は急いで車に乗り込む。車は猛スピードで街を抜け、王都へ向け走り出す。

 死に瀕したアーグニール王国を救うため、ペスカ達の命をかけた戦いが始まった。

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