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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第四章  神々の争いと巻き込まれる世界

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第百五話 譲れない想い

 挑戦的な眼差しでシグルドを見やった後、アルキエルの神気が膨れ上がる。その瞬間、シグルドの肌は粟立つ。そして咄嗟にアルキエルと距離を取った。

 

「まあ、慌てるなって。その震えが止まるまで、待っててやるからよ」

「なっ!」


 自分でも気が付かなかった。シグルドの足はガクガクと震えていた。それだけ、目の前の神に恐怖していたのだろう。


「仕方ねぇよ。俺はグレイラスの様な雑魚と違って本物だからな」


 確かにそうだ。グレイラスが振りまいた、死へと誘う瘴気とは違う。狂気とも言える感覚が鋭い刃の様に、シグルドを襲う。

 アルキエルが何かした訳では無い。立っているだけで、そこに存在しているだけで、そう感じてしまう。体の震えが止まらない。


「なぁ、窮屈だと思わねぇか?」

「な、何が?」

「俺もお前もだよ」

「私も?」

「お前の内に秘めた狂気は、おもしれぇ。俺によく似てやがる。だから、わかっちまうんだよ。この世界が窮屈だってな」


 シグルド自身は、そんな感情を抱いた事は無い。しかし、ほんの一瞬だけ違う感情が少し芽生えた事がある。それは、三国の兵を相手にたった独りで暴れまわった時だ。

 確かにあの時は、何かから解放された様な感覚に陥った。守る者が無い事が、どれだけ楽なのかと考えてしまった。


「俺はよぉ。存在するだけで戦いを引き起こすから、神の世界でも居場所がねぇ」

「それがどうした」

「グレイラスの雑魚でも、神気を解放すればこの有様だ。俺が神気を解放したら、どうなるか位はわかんだろ?」


 確かに、この圧倒的な気配の前では、立っているのがやっとだ。鍛え続けて来た自分でさえそうなんだ。それ以外の人ならば、一瞬で命を刈られるかも知れない。


「つまんねぇよな。なぁ?」

「それが、私に、何の関係がある?」

「大有りだろ?」

「それより、この国や他の国の人はどうなった?」

「まぁ死んだだろうな。お前らとやり合ってた北と南は、絶望的だろうな。ここから東も少しは犠牲になったか? それと、帝国ってのも半分位はやられたな」

「そんな事をして!」

「良いんだよ。ロメリアは言ってたぜ、一度全てを壊して再生するんだとよ」

「そんな事はさせるか!」

「お前がどう言おうと、どう足搔こうと、何も変わりゃしねぇよ。俺だけだ、雑魚共をぶっ殺して、計画とやらを壊せんのはよぉ」

「なら、何故それをしない」

「当たり前の事を聞くんじゃねぇよ。直ぐにやったら、つまらねぇからだろうが」


 目の前の神ならば、そう言うと思った。そんな確信がシグルドには有った。


「お前も、そうなんだろ?」

「ふざけるな!」

「所で。お前、名前は?」

「エルラフィア王国近衛隊隊長、シグルド・フィロス」

「シグルド、シグルド。シグルドかぁ。あぁ、良い名前だ。英雄に相応しいってやつか? 所で、足の震えは止まったよな? そろそろ殺し合いを始めるか?」


 体の震えは止まっていた。それは、アルキエルの神気にシグルドが慣れたからではない。慣れさせようと、マナを振り絞ったからだ。

 これまで、目を逸らす事さえ出来なかった相手に対し、シグルドに僅かばかりの余裕が出来る。そして、周りの風景を確認する。


 酷い。これが町だった場所なのか?


 建物は跡すら残っていない。草木も全て消え去っている。汚泥の中に立っている様で気持ちが悪い。それに呼吸がし辛い。


 なんて事をしてくれたんだ。


 アルキエルの言葉を信じる訳ではないが、これではこの国の住民どころか、東方も帝国も危うい状況だろう。

 早くこの状況をクラウス達に知らせねば。しかし、目の前の神はそうさせてはくれないだろう。


 そして、シグルドは剣を握る。


「お前は、剣を使うんだったな。じゃあ、それに合わせてやるよ」


 そう言うと、アルキエルは右手に剣を出現させる。


「まぁ、これで対等って所だ。流石に神気を使ってまで戦わねぇから安心しろ。直ぐに決着が着いちまったら楽しくねぇしな」 


 アルキエルの言葉を、最後まで聞く必要は無い。シグルドは俊足で姿を消し、背後に回り込み剣を振るう。アルキエルは振り向く事すらせず、容易に手で受け止め、シグルドを剣ごと投げ捨てる。

 投げ捨てられたシグルドは、空中で体勢を立て直すと、呪文を唱えながら着地した。


「貫け、神殺しの槍! ロンギヌス!」


 上空に大きな槍が現れ、目もくらむ様な速さでアルキエルに突き進む。しかし、アルキエルが軽く剣を振るうと、槍は空中で霧散する。


「くそっ、ペスカ様の魔法でも通じないのか!」

「通じねぇのは、お前のマナが足りねぇからだぁ! チンケなマナで放った魔法が、俺に通じるか馬鹿野郎! ったく、拍子抜けもいいとこだぜ」


 再び俊足で姿を消すシグルドだが、次はアルキエルに背後を取られる。


「それはさっきも見たぜ。おっせぇな、お前!」


 背後を取られたシグルドは、アルキエルに左腕を掴まれる。掴んだ左腕をアルキエルは、シグルドの体ごと振り回す。シグルドの体は勢い余って吹き飛ばされた。


「おい、少し力を入れただけで、腕が取れちまったよ。もう少し頑丈にくっつけとけよ」


 シグルドの肩から、血しぶきが飛び散る。だがシグルドは悲鳴を上げず、魔法で簡単な止血だけすると、剣を持って立ち上がった。

 シグルドの目からは、闘志が消えていない。それどころか、全身で闘気を漲らせている。


 ここで立ち止まる位なら、死んだ方がましだ。ここで死ぬくらいなら、一太刀でも浴びせなければ、この場に留まった意味がない。

 守ると決めた。だから守り抜く。奴を倒せるなら、腕の一本位は惜しくない。この命さえも、惜しくはない。奴を絶対に、止めて見せる! 

 

 英雄ペスカなら、どんな窮地に陥ろうとも、勝てる策を見つける。

 冬也なら、どんな窮地も強引に跳ね除けて、チャンスに変える。

 二人の雄姿を見て来たのだ。

 自分も負けない!


「ははっ、良い闘志だシグルドぉ~! そうでなくちゃなぁ~!」


 アルキエルの表情は変わっていた。薄ら笑いから真剣なものへ。そして目は爛々と輝き、更に神気が高まっていく。神が本気になったのだ。本当の戦いは、これからだ。

 シグルドは、マナを極限まで高めて、もう一度呪文を唱える。


「大地母神フィアーナ。我が身に力を貸し与えたまえ! 神を滅ぼせ、トールハンマー!」


 シグルドのマナが更に膨れ上がり、手には輝くウォーハンマーが現れる。シグルドはウォーハンマーを渾身の力で振るう。アルキエルは、剣で受け止めようとするが、その勢いを止める事は出来ない。

 アルキエルは両手を交差し、ウォーハンマーを受け止める。だが、それでもウォーハンマーの勢いは止めきれずに、後方に押される。アルキエルは、体勢を崩しながらも後方に飛び、勢いを逃した。


 両手を交差した事で、両脇に隙が出来る。また、アルキエルは体勢を崩している。ここでシグルドに、ほんの僅かな勝機が見えた。シグルドは振りかぶると、横薙ぎにウォーハンマーを振るう。

 しかし、片手でしかシグルドは、ウォーハンマーを振れない。勢いをつけるなら。どうしても、深く振りかぶらなければならない。それは、敵に背中を見せるという事になる。


 もし、シグルドが片腕を失っていなかったら、勝負の行方はどうなっていたかわからない。恐らくここが、勝敗の分水嶺であったのだろう。


 アルキエルは、シグルドの隙を見逃さなかった。そしてシグルドが、横薙ぎに振るう瞬間を目掛けて切り捨てた。シグルドの右肩から先は失われ、大量の血しぶきが上がる。

 大量の血が失われ、シグルドの意識は朦朧としている。立ち上がる事は、不可能である。ましてや、戦う事など出来るはずが無い。


 しかし、シグルドは尚も立ち上がった。


 両手を失おうと、どれだけ血を流そうと、アルキエルの前に立ち塞がる。シグルドは諦めない、どんな困難も乗り越えるペスカと冬也の様に。二度と奪わせないと誓った己の魂にかけて。国を守れと命じたペスカに応える為に。


 負けない、負けない! その想いは魂を強く輝かせる。


「貫け、貫け、貫けぇ~! 神殺しの槍ぃ~!」


 シグルドは、限界を超えてマナを使い魔法を放つ。輝く槍が何本も現れ、アルキエルに向かう。アルキエルは剣で槍を次々と撃ち落として行くが、一本だけ撃ち落とせずに肩口を切り裂いた。アルキエルの肩に、初めての傷が残る。


 だが次の瞬間、シグルドの胴と首が離れていた。


「面白かったぜ、シグルド」


 首だけにもかかわらず、シグルドの口はパクパクと動き、涙を流していた。音の無い声をアルキエルだけが、しっかりと聞いていた。


「お許しください、ペ、ス、カ、さ」


 享年二十二歳、シグルド最後の言葉だった。後の世に名を残す事が無い、神との戦いが終わる。壮絶に散った魂の輝きは、神のみぞ知る。

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