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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第四章  神々の争いと巻き込まれる世界

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第百四話 シグルド・フィロス

 グレイラスの体から更に瘴気が湧き出る。それに対し、シグルドは己の身を守る様に、体の外側にマナを張り巡らせた。


「我の神気に耐え得るか」

「君と同じ様な奴と、戦った事が有るんでね」

「生意気な人間だ。ロメリアと遊んだ位で調子に乗るなよ」


 グレイラスの表情が能面の様に戻る。そして、片手を上げた瞬間に先の兵士と同じ様な表情をした男達が、瞬時に表れシグルドを囲む。


「我等の計画をじゃましたのだ。それが如何なるゴミとは言え、手は抜かん」


 そうして現れた男達は、ざっと一万を超える。その男達が一斉に剣を抜き、シグルドに襲い掛かる。


「人間の兵士と同じと思うな」


 ただこの時、グレイラスはシグルドを過小評価し過ぎていた。シグルドは、かつてロメリアの圧倒的な神気に耐えて、戦った事の有る男だ。

 それに、シグルドは覚えている。ペスカが使ったマナキャンセラーの術式を。そして、剣にマナを集める。


 剣を交えなくてもわかる。確かに一介の兵士とは違う。普通に戦っていたら、一瞬で勝負が着いていたかも知れない。今頃は、ズタズタに切り裂かれていただけかも知れない。

 しかし、シグルドは剣にマナキャンセラーの術式を仕込んでいる。それならば、魔法の類は一切通用しない。

 神が作り上げた人型とはいえ、それも原理は魔法と変わらないのだろうから。


 シグルドは飛んでくる魔法を次々と払いのけ、立ち塞がる男達を斬り捨てながら、グレイラスに向かって進む。シグルドに飛びかかる男達は、一瞬にして斬り捨てられて砂に変わる。一瞬の間に数百の男達を消滅させた。


 魔法も剣も槍も弓も、何もかもシグルドには通じない。次々に男達は砂に変わる。それでも、一万の男達は数を減らす様子はない。しかし、シグルドは剣を振るい続ける。そして、男達を砂に変えていく。


 砂に変わった男達は、直ぐに元へと戻る。数は減らないどころか、永久に増え続ける。そして、グレイラスはほくそ笑む様に口角を釣り上げた。


「そんなものか、人間の英雄よ。神に近付いたとは言え、所詮ゴミはゴミでしかないな」


 そんな挑発には乗らないとばかりに、シグルドはグレイラスの言葉を無視した。


 二度と間違えない。この神は先の悪神と同じ、怒りに任せて攻撃をしてはいけない。冷静に、そして確実に状況を判断しろ。

 マナキャンセラーを纏わせた剣では、男達は消滅に至らない。それは、現れる男達がグレイラスという神と繋がっているからだ。

 その繋がりを絶つには、マナキャンセラーでは足りない。そう、冬也の様な力が必要だ。しかし、あれ程の力は自分に無い。ならばどうする? それなら、借りて来るしかあるまい。


「冬也。君の魔法を借りるよ」


 攻撃が降り注ぐ中、シグルドは敢えて剣を地面に突き刺す。そして、呪文を唱え始める。


「大地母神フィアーナよ、我に力を与えたまえ。悪意を消し尽くす力を与えたまえ。粉砕の一撃、トールハンマー!」


 トールは女神フィアーナに問いかける。力を貸して欲しいと願う。


「無駄だ。神はたかが人間如きの願いを聞き入れはしない」


 それも誤りだ。シグルドは女神フィアーナの敬虔なる信徒である。王都にいた頃は、毎日の様に神殿へ参拝に行く程だ。

 当然、シグルドは女神フィアーナの加護を持ち合わせてはいない。しかし、繋がりは有る。それが、どれだけか細い糸の様な繋がりであったとしてもだ。

 そして女神フィアーナは、彼を知っている。鬼神、又は英雄と呼ばれて来たシグルドを。


「馬鹿な!」


 唐突に、シグルドの手が光に満ちる。光は大きなウォーハンマーに形を変えていく。そしてシグルドは、それを振り下ろす。

 

 ウォーハンマーと共に光が広がっていく。そして、シグルドを囲む一万の軍勢が、一斉に砂へと変わる。そして、二度と人型を成す事は無かった。


「そんなもんか、君の力は? 神グレイラスよ」

「貴様ぁ~!」

 

 その挑発は、グレイラスの顔を歪ませた。それもそうだろう、先程までゴミと称していた男に一泡吹かされたのだから。


 そしてグレイラスの体から、瘴気が溢れて広がっていく。町の外で待機していた近衛兵がバタバタと倒れていく。

 それは国中へと広がり、南北の国へ、更に東へ、そして帝国の領土までを覆い尽くす。


 それは、死の始まりだった。生物が生きていられる場所では無くなっていた。


 草木は瞬く間に枯れ、台地は汚泥と変わり、空気は澱む。三国で暮らしていた人々は、瘴気に触れて朽ちていく。帝国周辺で僅かに戦火を逃れた者達も、同じ様に朽ちていく。


 そして、瘴気の最前線にいたシグルドは、渾身の力でマナを振り絞り、瘴気に耐えた。


 それは、シグルドが英雄と呼ばれた存在だから出来たのだろう。英雄とは、人の希望を集める者の総称だ。故に、シグルドのマナには、人々の希望が宿っている。だからこそ、神が発する瘴気に耐え得る。

 

 しかし、このままでいずれ自分の身どころか、大陸全土が死に絶える。愛するエルラフィア王国も無事でいられない。


「どうやったって、君をここで倒さなきゃいけない様だね」


 そう呟くと、シグルドは再び剣を取った。そして、俊足の剣でグレイラスを切りつける。


「ぐあぁ~! がぁ~!」


 それは、グレイラスが初めて感じた痛みだったろう。膝を突くのも初めてだったはずだ。


 膝を突いた瞬間を、シグルドは見逃さない。二撃目を加えようと、剣を振り下ろす。しかし、瞬間的に立ち上がったグレイラスから光が放たれて、シグルドは吹き飛ばされた。


「調子に乗るな人間! 我を傷つけた事、万死に値すると思え!」

 

 グレイラスは、身に纏う禍々しい光を剣に変える。そして光の斬撃が放たれる。シグルドは直ぐに立ち上がると、剣に纏わせたマナを使い光の斬撃を弾き飛ばす。


 身を傷付けられた事で怒り、冷静さを欠いたのだろう。グレイラスは、単調な光の斬撃を繰り返す。しかしシグルドは、尽く光の斬撃を弾き飛ばした。


 グレイラスの攻撃は終わらない。

 

 自らが歪めた地形すら消し飛ばす勢いで、グレイラスは光の斬撃を放つ。放たれた光の斬撃は、地を抉りながら進む。

 広範囲の攻撃を放ち、グレイラスはシグルドを殺したと、確信したのだろう。だが、そこに隙が生じた。


 シグルドはグレイラスの後方から姿を現し、背中を深く抉る様に切り裂く。グレイラスが叫び声を上げ、再び膝を突く。そして間髪入れずに、シグルドは剣を振り下ろす。


 止めを刺さなければ、戦いは終わらない。悲しい犠牲もなくならない。だが、シグルドの剣は、グレイラスには届かなかった。


 それは、シグルドでさえも気がつかなかった。


 グレイラスとの間に割って入り、アルキエルがシグルドの剣を止めていた。アルキエルはシグルドの剣を、素手で掴んでいる。そして、剣ごとシグルドを投げ捨てた。


「おいおい、グレイラス。てめぇ、人間如きにやられてんじゃねぇよ。情けねぇな」


 鷹揚な態度で、アルキエルはグレイラスに吐き捨てる。


「くっ、アルキエル。手助けなど必要ない」


 背の痛みに耐える様に酷く顔を歪ませて、グレイラスが男に答える。


「おい、助けに来てやったんだろうが」

「余計なお世話だ」

「こいつは、てめぇみてぇな雑魚には吊り合わねぇよ。とっとと行って、自分の仕事とやらをしやがれ」

「言われないでもわかっている」

「まぁ、これだけやらかしたんだ。もう、やる事は残ってねぇだろうがな」

「いや、まだあのガキ共を探さなければならん」

「おぉ、そうだったな。見つけても、男の方は残しとけよ。あれは俺の獲物だ」

「わかっている、メイロードには内緒にしておく」

「馬鹿か。あの雑魚女神にばれようが何しようが、構いやしねぇんだよ。俺に歯向かう気なら、てめぇ共々ぶっ殺すだけだ」

「それは、御免蒙る」


 それだけ言うと、グレイラスはシグルドから受けた傷を庇う様にして、姿を消す。そして、アルキエルはニヤリと笑う。


「ははぁ、やっぱり良いなお前! 俺とやるぞ!」

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