341話 黒に近いグレー
ひたすらに情報収集をして……
そして翌日。
「アニキ! アネゴ!」
仮休憩を終えて、再び情報収集をしている時。
執務室の扉が開いて、ヒカリが駆け込んできた。
「アネゴ……?」
ブリジット王女が、それ自分のこと? と小首を傾げた。
今は聞かなかったことにしてあげてください。
ヒカリの様子を見る限り、一睡もしていないようなので頭が回っていないのだろう。
「リットちゃんの行方、わかったかもしれないっす!」
「っ!?」
「……どこに?」
まだ焦ってはいけない。
できる限り自分を落ち着かせつつ、冷静に尋ねた。
「正確に言うと、本当にいるかどうか確信は持てないっすけど……」
「それでもいい、教えてくれ」
「はいっす!」
ヒカリはびしっと敬礼した。
「やっぱりというか、怪しいのはルーベンベルグっす。あいつの屋敷をみんなで見張っていたっすが……」
「そこにリットが?」
「いえ、たぶんいないっす。それらしい様子もまったく。ただ……ルーベンベルグが所有する別荘の一つに動きが」
ヒカリ曰く……
ルーベンベルグの屋敷は徹底的に監視していたものの、大きな動きはなし。
怪しい感じも今のところなし。
しかし、ルーベンベルグが所有する数ある別荘のうちの一つで動きが出た。
誘拐されたリットの姿が……なんていう都合のいい情報はない。
ただ、人の出入りが多いという。
本邸ならば当たり前のこと。
けれど、別荘ということを考えると、あまりにも人の出入りが多い。
「中は確認できていないっすけど……やたら人の出入りが多い別荘が一つだけあったっす!」
「……パーティーを開いていたとか、そういう可能性は?」
「たぶん、ないと思うっす。パーティーにしては、参加者がちょっと怪しいというか無骨というか……そういう感じはしないっすね」
「ありゃ、傭兵だな」
「セラフィー?」
特に悪びれた様子もなく、勝手にセラフィーが執務室に入ってきた。
途中から話を聞いていたらしい。
報告に来て。
なにか気になる話をしていたため廊下で盗み聞きをして。
……という感じか?
今更、セラフィーに礼儀などを求めても仕方ないので、立ち聞きしていたことは気にしないことにした。
「ヒカリと一緒に確認してきたが、別荘に足を運んでいるやつの半分くらいは傭兵だな。しかも、一個人っていうわけじゃねえ。荒くれ者共を束ねる団長クラスだな」
「つまり、複数の傭兵団が関与していると?」
「しているってか、これからするんじゃねえか?」
「……」
誘拐されたリット。
その背後で、ルーベンベルグが怪しい動きを取る。
複数の傭兵団と接触している様子。
これらの情報はまだ確定したものではなくて、仮定ではあるのだけど……
仮に正しいとして、ここから導き出される答えは?
「……最悪だ」
「アルム君?」
思わず頭を抱えたくなってしまう。
しかし、そんなことをしている場合じゃないし、最悪の予想に怯んでいる場合でもない。
「ブリジット王女、オーダーをください。今すぐにルーベンベルグを確保するように……と」
「えぇ!?」
俺の無茶な要望に、さすがのブリジット王女も驚きの声をあげた。
当たり前だ。
ルーベンベルグは、今のところかなり怪しい。
リット誘拐犯の最有力候補だ。
ただ、限りなく黒に近いグレーというだけで、確かな証拠はない。
ここで勝手をすれば、ブリジット王女は批判にさらされてしまう。
国も少なからず混乱してしまうだろう。
それでも。
俺は、ここで動くべきと判断した。
「無理、無茶は承知の上です。ただ、理由は後でいくらでも作ることができます。事前に情報を掴むことができた、とでもなんとでも発表することができます」
「それ、証拠を捏造するようなものなんだけど……」
「はい、十分に理解しています」
「……そこまでしないといけない、っていうこと?」
「ここで動かなければ最悪の事態に発展する可能性があります」
俺が危惧する最悪の事態。
それは……
「ルーベンベルグは……武力による王位の簒奪を狙っていると思われます」




