338話 想像の全てを超えていく
エリン・アステニア。
俺の姉。
小さい頃に生き別れて、以来、一度も顔を合わせていない。
両親と同じように死んでしまったものだと思っていたが……
生きていた。
しかも、よりにもよってベルカと一緒に行動を共にしていた。
俺と同じように、姉は両親に厳しく育てられていた。
俺が執事なら、姉はメイドとして。
主となる人を見つけて、その生涯を捧げるために育てられてきた。
姉さんは天才だ。
俺が一を覚える間に百を覚えていた。
学んだものはメイドとしての技術や知識だけではない。
主を守るための戦闘技術。
必要な情報を得るための諜報技術。
戦場を支配するための策謀。
他にも数えればキリはない。
その技術の全てを姉さんは習得して。
それだけではなくて、独自の技術も開発した。
信じられるだろうか?
当時は俺と同じ子供。
まだ幼い。
それなのに全てを習得して、独自の技術を開発するなんてありえない。
常識から大きく外れている。
しかし、それを成し遂げてしまうのがエリン・アステニアという人だ。
姉さんは規格外の天才で。
俺以上の力を持っている。
――――――――――
「……そんな姉さんなら、誰にも気づかれることなくリットをさらうことができるかと」
姉さんの規格外な能力を説明しつつ、俺なりの結論を二人に告げた。
「アニキのお姉さんも、やっぱり規格外なんすね」
「そうだな……ヒカリが今、想像しているものの十倍くらいはすさまじい」
「そ、そんなにっすか……? それはもう、人を超えているような気がするっす」
「……そう考えないといけないくらい、すごい人、っていうことだよね」
ブリジット王女が深刻そうな顔をして言う。
俺の懸念を理解してくれたのだろう。
もしかしたらリットの誘拐に姉さんが関わっているかもしれない。
そうなると、リットを取り返すのは……
「解決は……とても難しいかもしれないな」
「えぇ!?」
「姉さんが相手だとしたら、どう立ち回ればいいのか……正直、見当もつかない。なにが正解なのか、なにが失敗なのか……とても難しい」
「あ、アニキでも諦めるほどなんて……」
姉さんはそれほどの相手だ。
俺の何倍も、何十倍もすごい人。
昔は、そんな姉さんに憧れて、その背中を追いかけていた。
でも、どうやっても追いつくことはできず……
どれだけ努力をしても引き離されるばかり。
……だから、俺は才能がないと思っていた。
諦めずに努力を積み重ねて、それでようやく一般になれたと思っていた。
実際は違ったようだが……
それでも、まだまだ姉さんの方が上。
圧倒的な差がある。
今からそれを縮めることは難しい。
そんな姉さんにリットがさらわれたとしたら、もう打つ手は……
「「……」」
俺が口を閉じて。
ヒカリが暗い顔になって。
重い空気が流れてしまう。
ダメだ、とは思う。
諦めてはいけない、と心を奮い立たせようとする。
それでも、どうすることもできない。
自分で自分を制御することができない。
目の前に立ちはだかるのは圧倒的な壁。
高く、強固で、どんな方法でも登ることはできない。
そんな状況になれば、もう……
「アルム君」
半ば諦めを抱いた時、ブリジット王女の凛とした声が響いた。




