333話 不思議な気持ち
「部屋に?」
「そうだ。あまり長くはならないと思うが……しばらく、部屋から外に出ないでほしい」
ルーベンベルグの目的は、おそらくは王位の簒奪。
その方法の詳細はわからないが、リットが絡んでいることは間違いないだろう。
わかりやすいところで考えると、リットをブリジット王女に仕立て上げて、自分の都合のいいように動かす……といったところか?
もっとも効率的な方法を考えるのならば、リットを餌にすればいい。
ルーベンベルグ、及びその仲間達は必ず食いついてくるだろう。
そこを一網打尽にする。
……という策は思いついたが、実行に移すことはない。
まずはリットを第一に。
ブリジット王女がそう望んでいるし……
俺も、リットを餌にするような真似はしたくない。
……情が移っているな。
まだ正体は不明。
敵なのか味方なのかすらわからない。
そのような相手に心を許してしまうとは……
俺がおかしくなったのか。
それとも、リットの魅力なのか。
なかなか悩ましいところだ。
「色々とあって、リットが狙われるかもしれない。だから、守りを万全にするために部屋から出ないでほしい。もちろん、必要なものは全部用意するつもりだ。まあ、それでも不自由をかけてしまうから……」
「いいよ」
「……あっさりと了承するんだな」
「アルムは、そうしてほしいんだよね?」
「まあ……」
「なら、いいよ」
なかなか反応に困る。
俺は、リットから少しは信頼されているのだろうか?
「……色々というのは、リットが悪人に狙われる可能性が高いからだ」
わざわざ本人に告げる必要はない。
それに、もしもリットがルーベンベルグと通じていたら?
情報を与えることは余計なことでしかない。
余計なことなのだけど……
ただ、リットにはしっかりと説明をしておきたい。
不思議とそう思うのだった。
「ブリジット王女はキミの安全を一番に考えている。だから、安全なところでしっかりと匿いたい」
「それで部屋に?」
「そうだ」
「……この子も一緒でもいい?」
「問題ない」
「なら、いいよ」
再びあっさり了承されてしまう。
信頼の証なのか。
それともなにも考えていないのか。
本当に判断に迷うな。
「じゃあ、準備をするか」
「いいの? ブリジットは?」
「問題ない。今日の俺の仕事は、リットの様子を見る。そして、世話をすることだ」
「私、お世話される?」
「されるな」
「にゃーん」
「?」
「お世話されるから、鳴いてみた」
自分を猫と同じように考えているのか?
やはり掴みどころがない。
なにを考えて行動しているのか。
そして、これからどうしたいのか。
リットは、そのあたりのことをどう思っているのだろう?
しっかりと確認しておきたいのだけど、今の反応を見る限り、聞き出すことはなかなか難しそうだ。
まずは色々と教えてから、だな。
「他に、なにか必要なものは?」
「……」
リットは小首を傾げつつ、考える素振りを見せた。
視線をそこらに泳がせて。
なにやら指を折り曲げて数えて。
もう一度、小首を傾げる。
「……お花」
「花?」
「コスモスのお花も持っていっていい?」
リットが指差すところにコスモスの花が咲いていた。
そういえばリットのお気に入りだったか。
猫だけじゃなくて、花も見ていたようだ。
「大丈夫だ」
「ありがとう」
「すぐに用意するから待っていてくれ」
「移動できるの?」
「執事として、植物に関する知識も叩き込んでいる……が、さすがに道具がないと鉢に移すことはできない」
「お願い」
リットに頷いて、俺は庭師が使う小屋に移動した。
話をすると、快く道具と鉢を貸してくれた。
そして戻るのだけど……
「リット……?」
リットの姿は消えていた。




