329話 応用が効きます
ルーベンベルグの屋敷から少し離れた場所にある、今は人の入っていない空き家。
俺とヒカリはそこに移動した。
「どうするっすか?」
「こうする」
出発前……実は、シロ王女からもう一つ、魔道具をいただいていた。
離れている相手と声を交わすことができる魔道具だ。
これはすでに開発されているもの。
サンライズ王国で起きた事件の時、解決に一役買った。
シロ王女は、あれから魔道具の改良を続けていたらしい。
さらに精度が増して、話ができる距離が伸びて。
聞こえてくる声もクリアになり。
稼働時間も倍以上に増えたとか。
……本物の天才だな。
このような改良を施すのに、普通なら年単位の時間がかかるだろう。
それを、シロ王女は月単位でやってのける。
俺には決してできない。
ブリジット王女でも無理だ。
シロ王女だけの才能であり、特権だろう。
「先の魔道具と組み合わせて、隠し扉の手前に設置しておいた」
「それって……」
「誰かが隠し扉の中に入れば、その中で広げられた会話を拾うことができる、ということだ」
壁の向こうの会話を聞くことができる。
離れた相手の声を聞くことができる。
シロ王女は、その二つを組み合わせる仕組みを作ってくれていたらしく……
これで、隠し扉の向こうの部屋……そこで行われる会話を俺達も聞くことができる。
盗み聞きをする装置。
シロ王女曰く、『こっそりひそひそ君』と名付けていた。
「シロちゃん王女らしいネーミングっすね」
「可愛らしい名前だが、その効果はとんでもないな」
無制限というわけにはいかず、ある程度の制約はあるものの……
二つの魔道具を組み合わせることで人の会話を盗み聞きすることができる。
話を聞くだけ、と拍子抜けすることなかれ。
人は、自分の胸の内だけに重要な話を秘めておくことは難しい。
そのようなことをすれば、プレッシャーに押しつぶされてしまうかもしれない。
故に、大抵は誰かと秘密を共有する。
意見を求めて、重大な話を打ち明けてしまう。
共犯者を欲して、仲間にするために大事な話をする。
それをこっそりと聞くことができたら?
今までにない仕組みのため、誰も気づくことはできないだろう。
善なり悪なり、その内容はわからないが……
他人の秘密をわりと簡単に把握することができるだろう。
今までの常識を覆すような、本物の天才的な発明だ。
とはいえ……
「あの魔道具のことが知られれば、反発する者も多いだろう」
「プライバシーを守れ、って言われそうっすね」
「そうだ。だから、使えるのは今回限りだな」
仕事が終わった後、また回収に戻らないといけない。
それから破棄だな。
本格的な運用をしたいところだが……
研究をさらに重ねて、法整備などもしていかないといけないだろう。
「シロちゃん王女、すごいものを発明したのに、なかなかままならないものっすね」
「そうだな……本当なら、国を挙げて祝福するようなことだが」
さすがにそれはできない。
「今度、俺達で祝福しよう」
「そうっすね!」
ヒカリは嬉しそうに同意した。
ヒカリは、シロ王女のことを気に入っているようだ。
言葉にはしないものの、妹のように思っている様子。
シロ王女も、ヒカリに懐いていて……
たまに、二人で遊んでいるところを見る。
そのまま良い関係を築いてほしいものだ。
「そういえば、アニキ。この前……」
「静かに」
「……そ……ふむ。つまり……」
魔道具が声を拾った。




