328話 執事……?
床をよく調べると、一部が外れるようになっていた。
じっと目を凝らして確認しないとつなぎ目が見えないほど、しっかりと作られた隠し扉だ。
おまけに鍵は厳重。
物理的なものだけではなくて、魔法的なロックもかかっている。
さらに警報つき。
下手に手を出せば、たちまち俺達の侵入がバレてしまうだろう。
「うーん……なかなか厳重っすね。これだけのロックを解除するとなると、けっこうやばいっす」
「ヒカリは難しいか?」
「できないことはないっすけど、時間がかかるっす」
「わかった。なら、俺のフォローを頼む」
「ほぇ?」
「俺が解除する」
「アニキ、解錠なんてできるっすか?」
「執事の嗜みだ」
「えぇ……」
「なにかしらの発作で、主が鍵のかかった部屋の中で倒れるかもしれない。そういう時に備えて、一通りの解錠技術は学んでいる」
「拡大解釈がすぎるっす」
「それと……」
シロ王女に作っていただいた魔道具を取り出した。
「思わぬ形でこれが役に立ちそうだ」
壁の向こうの様子を探ることができる魔道具。
ただ、これを鍵の内部構造を調べるために使ったら?
いい感じに補助してくれるだろう。
「いくぞ」
「はいっす」
二人で解錠作業に挑む。
ヒカリが難しいと言っただけのことはあり、作業は神経をすり減らせるようなものだった。
しかし、言い換えれば、それだけ重要なものがこの奥に隠されている。
そう考えればやる気が出てくるというものだ。
「……開いた」
カチリという音がして、ようやく全てのロックを解除することができた。
もちろん、ルーベンベルグ卿の関係者に気づかれた様子はない。
さらに、念の為にシロ王女に作っていただいた魔道具を使い、周囲の様子を確認する。
……足音、人の声。
ついでに気配はなし。
問題なさそうだ。
「いくぞ」
「はいっす」
隠し扉の向こうへ。
地下に続く階段。
隠されているような場所なので、当然、灯りなんてものはない。
「ヒカリ、問題ないか?」
「自分は、こういう暗闇に慣れているから問題ないっすけど……なんで、兄貴は平気っすか?」
「執事の嗜みだ」
「……もはや、それを言えばなんとでもなると思ってません?」
なぜかジト目を向けられてしまう。
気にせず階段を降りていく。
もちろん、足音なんて立てない。
気配も殺している。
一般人は元より、ベテランの兵士でさえ今の俺達を見つけることは難しいだろう。
しばらく階段を降りる。
「深いっすね」
「それだけに怪しいな」
ルーベンベルグの闇に触れられるかもしれない。
期待をしつつ、さらに足を進めて……
ほどなくして扉にたどり着いた。
扉には厳重な鍵が。
隠し扉だけではなくて、その奥にさらにこのような扉を用意するか。
ルーベンベルグは、よほど用心深い性格なのか。
それとも、この先には、絶対にバレたくない特大の秘密が隠されているのか。
「……ふむ」
鍵の仕組みを調べる。
物理的に保護されているだけではなくて、魔法でも保護されていた。
……解除できないことはないが、時間がかかるな。
それに、侵入の痕跡を残さないことも難しい。
完璧な解錠をして。
完璧に元通りにする。
できないことはないが、かなりの時間を消費するだろう。
その間、誰かがここにやってこないとは限らない。
作業を始めたら止めることはできないし、途中でなかったことにはできない。
完璧な成功か最悪の失敗か。
その二択だ。
「さすがにリスクが高いな……」
「自分が屋敷の中をかき回してくるっすよ?」
「いや。それはそれで余計な警戒感を与えてしまう。ルーベンベルグには、俺達はまだなにも感づいていない、と思わせておきたい」
「なるほど。でも、どうするっすか?」
「さて……」
どうしたものか?




