325話 花と猫
ルーベンベルグは、リットを狙い暴挙に出た可能性がある。
元々、監視対象となっていた怪しい人物だ。
それくらいのことを行う可能性はある。
ただ、証拠がない。
証拠もなしに逮捕することはできない。
それを行ってしまうと、それは国ではない。
王族ではない。
ただの暴君だ。
故に、今までは監視となっていたが……
リットを狙った可能性があるため、これ以上は放っておくことはできない。
積極的に動いて証拠を集めて、追い詰める必要があった。
なので、そのために必要な道具の製作をシロ王女にお願いした。
シロ王女はまだ幼いけれど、魔道具に関する知識は一流の学者と同じ。
いや、それ以上かもしれない。
シロ王女なら、きっと俺が望むものを作り上げてくれるだろう。
王族に雑用を頼むなんて、なかなかに無礼なのだけど……
本人が喜び、それを望んでいることもあるため、よしとしておこう。
「とはいえ……」
城内の様子を見つつ散歩をして、考える。
シロ王女は間違いなく天才だけど、さすがに即日道具を完成させることは難しい。
それまではリットの身の安全をしっかりと考えないといけないな。
「いた」
中庭にリットを見つけた。
「……」
リットはいつもと変わりない様子で無表情。
普段は、特に目的もなくぼーっとしているのだけど……
「……」
今日は花を見ていた。
以前、リットが見ていた花だ。
「リット」
「……アルム?」
声をかけて、ようやく俺に気付いた様子。
立ち上がり、こちらを振り返る。
「どうかした?」
「いや……なにをしていたんだ?」
「花を見ていたの」
リットは再び花に視線を戻す。
気のせいだろうか?
花を見ている時のリットは、こころなしか目が優しい感じがした。
「ところで、リット一人なのか?」
「?」
「この前、拾った猫は?」
「いる」
リットが指を差した先に猫がいた。
草木と戯れている。
「おいで」
「にゃ?」
リットがぱんぱんと小さく手を鳴らすと、猫が駆けてきた。
そのまま器用にリットの体をよじ登り、肩に収まる。
「すごいな……それ、訓練したのか?」
「してない。気がついたら」
「賢い猫なんだな」
「にゃん」
猫がドヤ顔で鳴いた……ような気がした。
「一緒に見る?」
「にゃん」
リットが花を見て。
猫も花を見る。
けっこういいコンビなのかもしれない。
「……ふむ」
もしかしたら、リットは敵対勢力の間者の類ではないかと疑っていたこともあったが……
その可能性はもう考えなくていいだろう。
今日まで、一切それらしい素振りを見せていない。
正体不明ではあるものの、敵意も感じられない。
そしてなによりも……
「……」
「にゃー」
猫と一緒に花を見て、和んでいるようなリットを疑いたくはない、と思った。
「リット」
「なに?」
「その花、よかったら自分の部屋に飾るか?」
「いいの?」
「それくらい問題はない。まあ、許可を取る必要はあるが」
それも簡単に降りるだろう。
似たようなことをしている人はいる。
「手続きは俺の方でしておく。明日には大丈夫だろう」
「……ありがとう」
今、笑った……?
「……」
リットはすぐいつもの無表情に。
でも、確かに……
「……守らなければいけない対象が増えたかもしれないな」




