311話 張り込みの基本といえば
夜。
俺とブリジット王女。
それとヒカリを加えた三人で、城の中庭に移動した。
本当は、シロ王女やセラフィーも一緒に来たがったのだけど……
さすがに大人数になると目立つし、王女二人というのはどうしてもダメだ。
ついでに言うと、セラフィーはすぐに暴れそうなので却下。
とはいえ、押し込めると反発しそうなので、いざという時のために離れたところで待機してもらっている。
騎士達も同様に待機してもらっている。
さて。
この三人で張り込みをするわけだが、偽物は現れるだろうか?
「アニキ、アニキ」
ヒカリが小声で話しかけてきた。
偽物を警戒しているのだろう。
「ここに偽物が現れるっすか?」
「確証はないが、その可能性は高いと思っている」
今までの偽物の行動パターン、出現時間、位置……色々なものを計算した結果、再び中庭に現れる可能性が高いと判断した。
とはいえ、あくまでも予想だ。
絶対と言うことはできない。
すぐに現れるかもしれないし、一週間経っても現れないかもしれない。
中庭ではなくて他の場所に現れるかもしれない。
「こればかりは賭けになってしまうな」
「「……」」
ブリジット王女とヒカリがきょとんとした。
「どうしたんですか?」
「アルム君が賭けとか曖昧な言葉を使うなんて……」
「『全て計算通り』って言うのが当たり前と思っていたっす」
そんなこと、一言も口にしたことはないぞ。
いったい、俺はどういうイメージを持たれているのだろう?
「偽物、現れるかな?」
「現れてもらわないと困りますが……」
でないと、現れるまでブリジット王女に張り込みを手伝ってもらうことになる。
「私の偽物かぁ……うーん。不謹慎かもしれないけど、ちょっと話をしてみたいかな?」
「どんな話をするっすか?」
「まずは挨拶だよね。こんにちは、って。あ、今はこんばんはか」
「なら、次は自己紹介っすね。どうも、私が本物の王女です……という感じで」
「うんうん、そうだね。なら、挨拶を兼ねてお菓子でも渡しておいた方がいいかな?」
「いいっすね! 女の子はみんな、甘いものが大好きっす」
「クッキーとかマフィン……その辺りかな?」
「どっちも好きっす!」
「あはは、ヒカリちゃんの話になっているよ」
「はっ、しまったっす!?」
「せっかくだから自分で作りたいよね。お城の人に頼んでもいいし、その方が美味しいんだけど……自分で作った方が真心が込められているというか、仲良くなれるような気がするな」
「わかるっす。手作りは大事っす」
このような時ではあるが、二人は女子トークを繰り広げていた。
意外と気が合うんだよな、この二人は。
あまり緊張感はないものの……
下手に緊張してガチガチになるよりはいいか。
それに、任務を忘れたわけではなく、きちんと小声で話していた。
きちんと意識しているのなら大きな問題にはならないだろう。
……たぶん。
「……ふむ」
今回の件、俺にとって未知の領域だ。
今までに経験したことのない事件であり、対処法が確立されていない。
なにをどうすればいいか?
なかなか迷うところだ。
不安はある。
迷いもある。
ただ……
「ヒカリちゃんもおしゃれした方がいいよ?」
「うぅ……そういうの、よくわからないっす」
「日頃のケアが大事だからね。若くても荒れる時は荒れちゃうし、将来、大変なことになるし」
「ひぇ……」
「わからないなら、今度、私が教えてあげる」
「いいっすか?」
「もちろん♪」
二人の話は、いつの間にか化粧の話に飛んでいた。
笑顔で話をしていて……
「……大丈夫だな」
ブリジット王女とヒカリ。
仕えるべき主と仲間。
二人がいれば、どんな事態にでも対応できるだろう。
そんな確信があった。
「……二人共、静かに」
「「……っ……」」
気配を察して。
小声で注意を促すと、二人は口を閉じて、緊張の表情を浮かべた。
その視線の先……
「……」
月夜に照らされるようにして、ブリジット王女の偽物が現れた。




