310話 真打ち登場
「話は聞かせてもらったよ!」
姿を見せたのは、シロ王女だ。
その後ろの方で、ちらりとヒカリの姿が見えた。
シロ王女の護衛を密かに行っているのだろう。
堂々と姿を見せても、シロ王女は気にせず、むしろ一緒にいられると喜ぶのだけど……
それでは護衛にならないので、こっそりと行うことが多い。
「シロちゃん? どうしたの?」
「この名探偵シロが、その難事件……解決してみせましょう!」
なんだ、この展開は?
戸惑っていると、こっそり護衛しているヒカリが唇を動かして言葉を伝えてくる。
『最近、探偵ものの本にハマっているみたいっす』
なるほど。
「解決って、どうするの?」
「こんなこともあろうかと、いいものを発明しておいたの!」
シロ王女は、にっこり笑顔でとあるものを取り出した。
メガネだ。
シンプルな外見で、特にこれといっておかしなところはない。
「お兄ちゃん、かけてみて」
「では、失礼して」
言われた通り、メガネをかけてみた。
「これは……」
見える景色が変わる。
目に映る景色はそのまま。
ただ、ブリジット王女とシロ王女、ヒカリからも淡い光がこぼれていた。
それらはふわふわと宙を漂っている。
「どうどう? 綺麗でしょ?」
「これはいったい……?」
「魔力を視覚的に見えるようにしたものなんだよ」
「なるほど。では、この光が魔力……」
「人は、大なり小なり魔力を持っていて……それは人だけじゃなくて、動物さんや魔物も同じ。幽霊だって、元は人間だから魔力を持っているはず」
「……なるほど」
シロ王女の言いたいことを理解した。
これで偽物の魔力を視て。
そして、正体を突き止める。
「しかし、相手は……」
「転移されてもだいじょーぶ! 特定の人の魔力を覚えて、追跡、探知する装置も組み込まれているよ」
「それは、また……」
なんてすさまじいものを作るのだろう。
本物の天才だな。
「名付けて、どこまでもみえーる君!」
安定のネーミングセンスだった。
「どうかな、お兄ちゃん?」
「そうですね。確かに、これならば……」
偽物の正体を突き止めることができるかもしれない。
「……アルム君」
「はい?」
「その調査、私も連れて行ってくれないかな?」
「ダメです」
「即答!?」
「どのような危険があるかわかりません」
今のところ、偽物が暴れたり他者を害したという報告は受けていないが……
たまたまかもしれない。
なにかしら意図があるのかもしれない。
ブリジット王女が姿を見せた途端に……なんて可能性もある。
そのような危険を犯すわけにはいかない。
いかないのだが……
そのようなこと、ブリジット王女も理解しているはずだ。
それなのにあえて口にしたということは、なにかしら考えがあるのだろう。
「私の偽物だから、私が行けばなにかわかるかもしれないよ?」
「それはそうですが……」
「今は、事態の収拾が最優先。そのための情報を得るには、なんでもするべきだと思うな」
「むぅ……」
「それに」
ブリジット王女は嬉しそうに言う。
「なにかあったとしても、アルム君が守ってくれるよね?」
にっこり笑顔。
……それは反則だ。
そんなことを言われて。
そんな笑顔を向けられて、断れるはずがない。
俺は小さなため息をこぼしつつ、頷くのだった。




