307話 偽物捕獲作戦開始!
現状、ブリジット王女の偽物は城内をメインに現れている。
城下町で見かけたという報告も来ているが、ごく少数。
ただ、楽観視はできない。
このまま放置したら、城下町にも出没するかもしれない。
その場合、どれだけの混乱が起きるか。
敵の目的や正体は不明だけど……
今のうちに叩くべきと判断した。
まずは、騎士団と連携を密にして行動。
城内から偽物を逃さないように、徹底的な警備をしてもらう。
ヒカリを撒いたという話だから、完璧に防ぐことは難しいかもしれないが……
フラウハイム王国の騎士は優秀な人達が揃っている。
彼らならきっと問題ないと、そう信じることにした。
そして、偽物を捕まえる実行役は、俺とヒカリとセラフィーの三人。
パルフェ王女が、使役しているフェンリルと一緒に参加したがったり。
シロ王女が開発中の魔道具を試してみたいと、やはり参加したがったり。
色々と困った事態になったものの、それはどうにかこうにか説得して解決。
三人で挑むことになった。
その作戦は……
――――――――――
『……アニキ。目標を発見したっす』
以前、シロ王女に開発してもらった遠距離で連絡を取るための魔道具から、ヒカリの報告が飛んできた。
「どこだ?」
『中庭っす。人払いは済んでいるので、他に誰もいないっす』
「好都合だ」
偽物は、まずは人気のないところに現れる傾向がある。
そのことを突き止めた俺は、あらかじめ、城内のあちらこちらに人を配置しておいた。
唯一、中庭だけは誰もいない状態に。
それがうまくいったらしく、狙い通り、偽物は中庭に現れたらしい。
しかし……
ブリジット王女の偽物としてフラウハイムを混乱させるのなら、人目に多いところを選ぶのが当たり前のはずなのだが。
愉快犯だとしても、やはり人目の多いところを選ぶだろう。
いったい、偽物は……
いや。
考えるのは後でいい。
今は偽物を捕まえることだけに集中しよう。
「セラフィー、聞いていたな?」
『おう、任せておけ』
セラフィーに連絡を取ると、頼もしい返事があった。
さて……どうなる?
――――――――――
『それ』は明確な意思を持たない。
己の存在を定義できない。
心を表に出すことはできない。
いや。
元々、心なんてものはない。
故にゼロだ。
空っぽだ。
この世界に存在することを果たした時。
『それ』が最初に感じたことは疑問だった。
私は何者だろう?
私はなんのためにここにいるのだろう?
私はこれからどうすればいいのだろう?
考える。
でも、答えは出ない。
それも仕方ない。
『それ』は人間を模倣しているものの、心を持たないのだから。
まともな意思はない。
まともな思考回路もない。
ただ本能で生きるだけ。
気が向くまま動くだけ。
それだけだ。
その日も気の赴くままに散歩を楽しんでいた。
散歩は好きだ。
色々な景色を見ることができる。
知らない景色ばかりだ。
時折、人に話しかけられることがある。
ただ、『それ』は言葉を知らない。
そもそも言葉の受け答えを知らない。
結果、避けて逃げる。
今日はどんな発見があるだろうか?
あるいは、どんな人と出会うだろうか?
できるなら人と出会いたくない。
ただ、なんとなく興味もあった。
その根源はわからないものの、触れ合いたいとも思った。
理由はわからず、本能的な恐怖を感じて逃げてしまうのだが。
『それ』は、少しずつ学んでいた。
「よう」
ふと、『それ』の前に見知らぬ女が現れた。




