305話 ドッペルゲンガー?
シロ王女が見たという、ブリジット王女の偽物。
シロ王女は、あれは絶対にブリジット王女だった、という主張を崩さない。
普通なら、シロ王女の勘違いで済ませるのだろうが……
ただ、先日、俺が抱いた違和感もある。
妙な胸騒ぎを覚えた俺は、まず、城の人達に話を聞くことにした。
「ブリジット王女ですか? はい、見かけましたよ。城内を散歩しておられるみたいでした」
「ブリジット王女? そういや、厨房に来たな。なにか食べるわけでもなく、にこにこと俺等を見守っていて……いつの間にかいなくなっていたな。なんだったんだ、あれ?」
「ブリジット王女なら、城下町にいましたね。いつもの視察と思っていましたが……」
……と、話を聞いてみると、あちらこちらで目撃情報が多発した。
その全てをいきなり否定することはできず、ブリジット王女に確認したのだけど……
ブリジット王女は、全てを否定。
その時、その場所で、そのような行動はしていない、とのこと。
本人の知らないところで。
本人の記憶のないところで。
ブリジット王女が目撃される。
……違和感が膨らんでいく。
「ふむ」
城の中庭に移動した。
先日の夜。
俺は、ここでブリジット王女らしき姿を見かけたが……
もしかしたら、あれも……?
「……ヒカリ」
「はいっす!」
忠犬よろしく、シュタッとヒカリが現れた。
常に側に控えているみたいだけど……
まるで、東方のニンジャみたいだな。
「断定はできないが、ブリジット王女の偽物が出没している可能性が高い。もしかしたら、他国の間者かもしれない」
「探し出して、捕まえるっすか?」
「いや……」
ブリジット王女の偽物がいると仮定しよう。
今のところ、彼女はなにもしていない。
シロ王女のプリンを勝手に食べたものの、それくらい。
他、悪事と思われる悪事はまったく働いていない。
偽物の目的がわからない。
他国の間者だとしたら、こうも簡単に正体がバレるような行動は取らないだろう。
人前に姿を見せたり、シロ王女のプリンを勝手に食べたり。
間者というには、あまりにも間抜けすぎる。
国内を引っ掻き回して混乱させることが目的かもしれないが……
やはり、納得いかない。
フラウハイムを混乱に陥れようとするのなら、もっとうまいやり方が色々とあるはずだ。
ただ姿を見せるだけなんて、稚拙にもほどがある。
「まずは、偽物がいるという確信を得たい。そのための情報を集めてくれ」
「はいっす」
「それから、特定した後は、偽物の監視を。しばらく泳がせて、目的を探りたい。ただし、他者に害を及ぼそうとした場合は、速やかに制圧。あるいは、連絡を」
「はいっす」
ヒカリに任せれば問題ないだろう。
元最強の暗殺者だ。
こういう仕事は向いているはず。
「ところでアニキ」
「うん?」
「ブリジット王女の偽物がいるとして、何者なんすかね? 聞いただけっすけど、めっちゃ似てるみたいじゃないっすか」
「普通に考えるのなら、他国の間者なのだろうが……」
「行動がでたらめっすね」
「ああ。だから、目的が知りたい」
「んー……特に目的がないとしたら、どうするっすか?」
「なんだって?」
その可能性はまったく考えていなかった。
ヒカリの言葉に、ついついキョトンとしてしまう。
「それはどういう意味だ?」
「敵意も悪意もなくて。かといって善意もなくて。なんかこう、ただ、その場に現れて周囲をひっかきまわしている、というか」
「それは……ただの愉快犯ということか?」
「はいっす」
「そんなこと……目的は?」
「だから、愉快犯だから目的なんてないっすよ。ただ、その場のノリというか、楽しければオッケー、みたいな。そんなもんじゃないっすか?」
「……それもそうか」
愉快犯というものに、どうにも共感できないため、考えることがわからない。
楽しいから。
ノリで。
そんな理由でふざけたことをする連中は、なにを考えているのだろうか?
……なにも考えていないのか。
「あるいは」
ヒカリは、わりと真面目な表情で言う。
「愉快犯でもないとしたら、オカルトの類かもしれないっす」
「オカルト?」
「ドッペルゲンガー……とか」




