304話 目撃情報、多発!
「お姉様!」
「あら、シロちゃん?」
とある日の昼さがり。
いつものようにブリジット王女の執務室で仕事をしていると、ばーん、と勢いよく扉が開かれてシロ王女がやってきた。
いつもにこにこ。
天真爛漫で天使のような方ではあるが、今日はご機嫌斜めらしい。
むすっとした表情。
膨らんだ頬。
そして、ジト目。
なぜか怒っている様子。
そして、その対象は、俺ではなくてブリジット王女。
「お姉様、ひどい! まさか、あんなことをするなんて!」
「え? え?」
突然、非難されて、ブリジット王女は困惑した。
それを気にした様子はなく、シロ王女は、口調も荒く続ける。
「シロ、今日のおやつに、って楽しみにしていたのに!」
「えっと……?」
「お姉様も欲しいなら、そう言ってくれれば、はんぶんこしたのに!」
「し、シロちゃん……?」
ふむ?
察するに、ブリジット王女が、シロ王女のおやつを勝手に食べてしまったようだ。
俺は、ブリジット王女をまっすぐに見つめた。
そして、しっかりとした口調で言う。
「……ブリジット王女……」
「わ、私、なにもしていないからね!? 妹のおやつを食べるとか、そんなことしないよ!? アルム君ならわかってくれるよね……?」
「ええ、もちろんです」
「……アルム君……」
「自首してください」
「アルム君!?」
がーん、とショックを受けた様子。
とはいえ……
俺の中で、おやつをつまみ食いするブリジット王女の姿が、とても鮮明に想像できてしまったのだから仕方ない。
「まあ、冗談はここまでにして」
「……わりと本気のような気がしたんだけど?」
「冗談はここまでにして」
根に持たれてしまいそうで怖い。
「シロ王女、詳しい状況を話してくれませんか?」
「うん……いいよ。シロね、この前、人気のプリンをメイドさんに買ってきてもらったの。けんきゅーが終わったら食べようと思って、キッチンで保管しておいてもらったんだけど……」
「ブリジット王女が食べた?」
「そう! お姉様が、シロのプリンをぱくぱく、って食べていたの!」
「えぇ!?」
心当たりのない様子で、ブリジット王女が悲鳴に近い声をあげた。
演技……というわけではなさそうだ。
本気で驚いているように見える。
ブリジット王女のことならなんでもわかる……とまでは言えないが。
彼女の専属として。
そして恋人として、なんとなく、はわかる。
「シロ王女、ブリジット王女は、その後は?」
「シロが、こらー! って怒ると、逃げ出したよ」
「ふむ……その時の時間は覚えていますか?」
「えっと……今から30分くらい前かな? シロ、それから、お姉様を探してあちらこちら回っていたから」
これで確定した。
ブリジット王女はシロだ。
「シロ王女を疑うわけではないのですが、ブリジット王女はおやつを食べていないかと」
「えー!? なんで、お兄ちゃんまでそんなことを言うの!」
「30分ほど前となると、ブリジット王女は、この執務室で私と一緒に書類と向き合っていましうたから」
「ほへ?」
「30分ほど前ではなくて、2時間前からですね。その間、一度も部屋を出ていません」
「えっと……で、でもでも……」
「私の言葉は信じられませんか? ブリジット王女をかばっていると思いますか?」
「……ううん。お兄ちゃんは嘘を吐いていないと思う。お姉様の彼氏さんだとしても、悪いことをしたら、きちんと叱ると思うから」
「信じていただき、ありがとうございます」
よかった。
これで、「俺が結託している!」と言われたら、けっこう困ったことになっていた。
俺は嘘を吐いていないし、ブリジット王女は2時間前から執務室にこもっていた。
ただ、それを証明する者はいない。
時折、メイドが足を運んでくることはあったものの、それでもずっと一緒にいたわけじゃないからな。
「そのようなわけでして……シロ王女が見たのは、なにかの間違いだったかと」
「ううん、違うよ!」
うん?
「あれは確かにお姉様だった!」
「しかし、ブリジット王女は……」
「うん、お兄ちゃんの言うことは信じているよ? でもね……シロは、確かにお姉様がシロのプリンを食べているところを見たの。シロはお姉様の妹なんだから、お姉様を見間違えるなんてことないよ!」
「「……」」
どういうことだ?
俺は、思わずブリジット王女と顔を見合わせてしまうのだった。




