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303話 あれ、おかしいな?

「……ふむ」


 自室で書類と向き合う。


 細部までしっかりと目を通していく。

 問題のある箇所はペンを走らせて、修正。


 時刻は夜。

 というか、深夜。


 誰もが寝静まっている中、俺は、こっそりと仕事をしていた。


 最近、色々とあって、思うように仕事を進めることができなかった。

 なので、時間を見つけて作業を進めておかないと。


「久しぶりの徹夜になりそうだが……これを知れば、ブリジット王女は怒るだろうな」



『あー!? アルム君、また徹夜したでしょ!? ダメだからね。うちは、そういうブラック要素はなし、ホワイト国家なの。一日七時間は寝て、しっかりと休むこと!』



 ……そんな感じで、説教をするブリジット王女が想像できた。


 ついつい苦笑してしまう。

 わりと再現度が高いのではないだろうか?


「……うん?」


 ふと、外に人の気配を感じた。


 とても薄く。

 ともすれば消えてしまいそうな気配ではあるが……


「気のせいかもしれないが、確認しておくか」


 上着をはおり、部屋の外へ。


 城内の灯りは最低限。

 とはいえ、しっかりと騎士や兵士達が警備にあたっている。

 当たり前の話ではあるが、二十四時間体制だ。


 ヒカリやセラフィーも、時折、警備に混ざる。

 最近は、パルフェ王女と正式に契約したフェンリルも警備に協力してくれていた。


 これだけの警備網を突破できるような不審者なんて、そうそう現れないだろうが……

 とはいえ、油断は禁物。

 気配の正体を確かめよう。


 警備の騎士や兵士達と挨拶を交わしつつ、俺は外に出た。


「確か、中庭の方から……」


 専門の庭師達によって、綺麗に整えられた中庭。

 木々や花々が生き生きとしているように見えて、夜の月明かりに輝いていた。

 もはや、これは一つの芸術だな。


 日々の庭師達の技に感謝をしつつ、中庭を見て回る。


「気配は……なし。ここ数十分の間に、誰かがいたという痕跡もない……気のせいか?」


 気配を感じたような気がしたのだけど……

 気のせいだっただろうか?


「いや……もう少し見て回るか」


 誰もいない。

 でも、確かに気配を感じた。


 己の勘を信じて、さらに中庭を回る。


「あれは……?」


 ふと、視界の端で、月明かりに輝く銀髪を見たような気がした。


「……ブリジット王女?」




――――――――――




 翌朝。

 あの後、中庭だけではなくて他の場所も含めて、さらに一時間ほど城内を調べてみたものの不審者は見つからなかった。


 ただ、昨夜見た、銀髪のようなものは……


「……ブリジット王女」

「なに? どうかしたの、アルム君」


 今は、ブリジット王女の執務室で、共に仕事をこなしている。

 どうしても気になり、手を止めて尋ねた。


「昨夜、中庭に行きましたか?」

「え? 行ってないけど……」


 嘘を吐いたり、なにかをごまかしている様子はない。


 ……俺の気のせいだったのだろうか?


「アルム君、どうしたの?」

「……いえ、なんでもありません」


 俺の気のせいだったのだろう。

 そう判断して、俺は仕事に戻った。




――――――――――




 ……この時。


 もう少し考えていれば。

 もう少し気にしていれば。


 あるいは、もっとマシなことになっていたのかもしれない。


 かもしれないを後で考えても仕方ないと、それは理解しているのだけど……

 それでも、考えずにはいられなかった。


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