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293話 エリン・アステニア

 エリン・アステニア。


 アルムの二つ上の姉。

 そして、生き別れた姉。


 エリンは、アルムがまだ幼い頃に、とある事故によって生き別れた。


 乗っている馬車が土砂崩れに巻き込まれて、崖下へ。

 ただ、同乗者の死体は見つかったものの、エリンの死体は見つからなかった。


 故に、どこかで生きているのではないか? と信じることができた。


 もっとも、ベルカに協力して。

 元帝国として活動しているなんて、思いもよらなかったが。


 アルムのエリンに対する印象は、とても厳しい……だ。


 幼い頃から、アルムは執事になるための訓練を両親から受けていた。

 同じように、エリンはメイドになるための訓練を受けていた。


 子供が受けるようなものではない、過酷な訓練だ。

 一歩間違えれば死んでいたかもしれない。


 普通に考えて、執事やメイドになるための訓練ではないのだけど……

 子供である二人は、それがわからない。


 そのような訓練を課した親がなにを考えていたか、それもわからない。


 そんな訓練を、アルムは気合と根性で乗り越えたものの……

 エリンは、さほど苦労した様子を見せることはなかった。


 親が出した課題を軽々とこなして。

 それでいて、疲れた顔はまるで見せず。

 これくらいはできて当たり前、という感じで、過酷なはずの訓練をこなしていく。


 天才とはこういう人を言うのだろう。

 幼いながらもアルムはそう感じて、姉を尊敬する。


 ただ、姉は子供の頃から冷めていた。


 アルムの尊敬も。

 両親からの称賛も。

 特に喜ぶことはなく、淡々と受け止めて、いつものように訓練を続けるだけ。


 天才を尊敬できる姉ではあったが……

 しかし、なにを考えているかはわからなかった。


 そして……


 ある日、姿を消した。

 忽然と。

 最初からいなかったかのように。


 以来、姿を見ていない。

 手紙などで言葉を交わしたこともない。




――――――――――




「……と、いうわけです」


 姉について語り終えて、俺は、吐息をこぼした。


 ただ話をしただけなのに妙な疲労がある。

 俺にとって、姉さんは、それだけ重い……ということか?


 自分でも自分の気持ちがよくわからない。


 姉さんは、ずっと前に忽然と姿を消して……

 以来、まったく見かけることはなくて、情報もなくて……

 なにかの事件に巻き込まれてそのまま……と思っていた。


 ただ、そうではなかった、ということだ。


 姿を消した理由は不明で、見当もつかないけど……

 こうして生きていた。

 そして、帝国に身を寄せていた。


「姉さんが生きていたことに驚いて、あの時は取り乱してしまい……ただ、どうして元帝国に身を寄せているのか。なにを考えているのか……まるでわかりません」

「だねえ……ボクも、ボクのことをけっこうな天才と思うけど、それでも、よくわからないかな。まあ、話を聞いただけだから、わからなくて当然かもだけどね」


 少しではあるものの残念に思い。

 答えをパルフェ王女にまで求めていた自分に気がついて、反省して。


 再びのため息。


 ダメだ。

 今日はため息が止まりそうにない。


 同盟国の事件は、ひとまずの解決を得たものの……

 俺の中で新しい問題が浮上して、そして、それはとてつもなく大きいものに一瞬で変化した。


 これは、どうすればいいのだろう……?


「まあまあ」


 俺の顔を見て、なんとなく、考えていることを察したのだろう。

 パルフェ王女が明るく、気楽そうに声をかけてきた。


 ぱしぱしと背中を叩く。


「あまり深く考えない方がいいぜ、執事君」

「……励ましていただき、ありがとうございます」

「今のは、どちらかというとアドバイスだろう? 励ましていると捉えたのなら、うーん……執事君も、まいっているみたいだねえ」


 やっぱり、マイペースなようで、見ているところは見てて、鋭い人だ。


「いいじゃないか、細かいことは気にしないでいいさ」


 パルフェ王女は、笑顔でそう言った。

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