291話 よくできました、はなまる
「よくやったわ!」
同盟国の皆のところへ戻り。
一通りの顛末を報告して。
そのまま、フェリス様のところに案内されて。
フェリス様は、ごきげんな様子で、開口一番、そう言った。
「正直なところ、やや不安もあったのだけど……まさか、本当に三人だけでなんとかしてしまうなんて。最高よ! 私の部下に欲しいくらい!」
「さすがに、ボクは無理かなー? 一応、王女だし」
「とても光栄なお話ですが、私は、すでに主を決めていますので」
「あのー……私は、とっくにフェリス様の部下なのですが……?」
「あら、残念」
俺とパルフェ様の引き抜きに失敗したけど、想定内らしく、さほど落胆した様子はない。
リセの訴えはスルーされたようだ。
その扱いにやや同情する。
「疲れている中、報告をありがとう。あとで、また詳細な話を聞きたいところだけど……でも、今は、ゆっくりと休んでちょうだい。さすがに、国を救った英雄にブラックな労働環境を押し付けるつもりはないわ」
「英雄だなんて、そのようなことは……」
「いいえ、英雄よ」
フェリス様は、迷うことなく、きっぱりと言い切る。
「あなた達がいなければ、帝国を相手にどこまで戦えていたか……しかも、謎の兵器は毒だという。そのようなものが使用されていたら、やはり、どうなっていたか想像したくもないわ。それだけの惨事を未然に防ぐことができた……これを、英雄と呼ばずなんて言えばいいのかしら?」
讃える言葉を並べられる。
ただ、俺は、わりと他人事で聞いていた。
このような時。
いくらなんでも、執事が前に出ることはない。
あくまでも後ろに控えているだけ。
称賛を受け取るとしたら……
「あー……」
パルフェ王女は、自分の役割を察したらしく、とてもめんどくさそうな顔に。
性格的に、こういうことは向いていないのだろう。
とはいえ、ここでフェリス様を無視するわけにはいかない。
はあ、と小さなため息。
そして、諦めた様子で前に出た。
「皆の働きがあってこそですが……光栄です」
「ええ! これで、同盟国と王国の友好は深まり、結束も強化されたわね。今後も、良き関係でいましょう」
「はい」
パルフェ王女は、にっこりと答えた。
ただ、ちょっと笑顔がひきつっている。
王女なら、これくらいの対応はこなしてほしいのだけど……
とことん苦手なんだろうな。
二人は握手を交わす。
ひとまずはよし。
フェリス王女が言うように、これで、王国と同盟国の結束は強化されただろう。
ただ……
「とまあ……ひとまず喜んでみたものの、手放しでばんざーい、というわけにはいかないわね」
「そうだねえ……」
パルフェ王女は、ついついといった様子で、素の様子で答えていた。
「敵の企みは阻止した。でも、ベルカには逃げられた……か」
「ごめんねー? ボクらもがんばったんだけど……」
「あ、ううん。あなた達を責めるつもりはないの。企みを阻止してくれただけでも、すごく助かっているわ。ただ……」
はあ、とため息。
それから、さらに続ける。
「これで終わりじゃない、っていうのが頭が痛いところね。たぶん、次の手を打ってくるわ」
「だね。それに備えたいところだけど、ただ……んー、なにをしてくるか。敵の情報がわからないから、ボク達はなんとも。フェリス様は?」
「あたしも、なんとも言えないわね……けっこう闇の深いところにいて、なかなか情報を掴むことができないの。今回のことも、以前から調査は進めていたんだけど、結局、敵の行動をここまで許してしまったし……あーもう、本当に頭が痛い話だわ」
明るい話題が出てこなくて、なかなかため息が止まらない。
「……」
そんな中、俺は、沈黙を保っていた。
正確に言うと、言葉を紡げないでいた。
執事ならば、主のため、なにかしらのアイディアを出すべきだ。
代案というのはおこがましいが、それに近いもの。
あるいは、そこに至る補佐をすることが最適だ。
とはいえ、正直なところ、今の俺は余裕がない。
……姉さん。
生きていたのか。
それよりも、なぜ、ベルカと……
帝国と行動を共にしていたのか?
そのことばかり考えてしまい、なかなか我を取り戻すことができず……
結局、その後、どのような会議が行われたのか、なかなか記憶に留めることはできないのだった。




