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287話 姉弟の戦い

「くっ……!?」


 速い。

 というか、見えない……!?


 姉さんの突撃は、まさに神速。

 人の動体視力で捉えられるものではなくて、すぐに見失ってしまう。


 落ち着け。

 落ち着け。

 落ち着け。


 必死に自分にそう言い聞かせた。

 それから、集中。

 周囲の気配を探る。


 少し離れたところにリセ。

 奥の方に、テロリストの重要人物らしき男。

 二つの気配がする。


 そして……


「上か!」


 獲物を狙う鷲のように、姉さんが宙から襲いかかってきた。


 ガッ!!!


 飛び蹴りが放たれた。

 両腕を交差させて、盾のようにして防ぐものの……


「ぐっ……なんて重い!」


 しっかりと防いだはずなのに、衝撃を完全に殺すことができない。

 押し負けて、よろめいてしまう。


 その隙を見逃すことなく、姉さんが両手の短剣を振るう。

 右、左、上、下、斜め……ありとあらゆる角度からの乱舞が襲う。


 速いだけじゃなくて鋭い。

 軌道もランダムで、とても読みづらい。


 全てを防ぐことは諦めた。

 致命傷にならないであろう攻撃は捨てて、これは受けてはいけないという攻撃だけを防ぐ。


「くそっ」


 完全に姉さんにペースを握られていた。

 このままだと、なにもできず押し切られてしまう。


 起死回生の一撃を狙わないとダメだ。


 しかし……

 姉弟なのに、本気で戦わないといけないのか?

 事情もわからないまま、刃を向けないといけないのか?


 それが俺のやるべきこと?

 でも……


「愚かな」

「っ……!?」


 気がつけば、姉さんは目の前に迫っていた。

 しま……!?


「少し眠りなさい」

「がっ……!?」


 突撃してきた姉さんは、その勢いを乗せたまま蹴りを放つ。

 腹部に与えられる痛烈な一撃。


 吹き飛ばされて、壁に叩きつけられて。

 衝撃が体内を暴れ回り、耐えることができず、その場で膝をついてしまう。


「うっ……ぐ……」

「アルム殿!」


 慌ててリセが駆け寄ってこようとするが、手で制した。


 その行動は、大きな隙を生む。

 姉さんを前にそのようなことをすれば、一気に……


「行きましょう」


 こちらに興味がない様子で、姉さんは背を向けて、ベルカのところに行く。


「もういいのか?」

「はい、なにも問題ありません」

「……ふっ、手荒い再会だったな」

「これが普通では?」

「いや、決して普通ではないと思うが……まあいい。行くぞ、ここは放棄する」

「はい」


 ベルカに付き従う姉さん。

 その姿は、主に従う忠実なメイドそのもので……


「姉さん……どうして……?」

「あなたは、自分の国に帰りなさい。もう、アカネイアと帝国に、二度と関わらないように……邪魔です」


 最後まで冷たく言い放ち。


 そこで、俺の意識も途絶えてしまうのだった。

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関わりたくなくても帝国を名乗るならず者たちが関わってくる理不尽
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