275話 伝説と戦う・その2
俺とリセは、フェンリルと睨み合う。
フェンリルはその巨体を低く構えて、いつでも動けるように足に力を込めていた。
俺達も似たような感じ。
一触即発。
次は、どのような行動を取るべきか?
なかなかに迷うところだ。
「むぅ……膠着状態でありますね」
「リセ殿の一撃で、ヤツも警戒しているのでしょう。自分達のことを、決して侮ってはいけない……と」
「あのフェンリルにそう思わせたのは、誇らしくはあるのですが……さて。ここから先、どのように攻撃をしたものか」
「一つ、考えがありますが」
「了解です」
「……内容を聞かないのですか?」
「アルム殿なら信じられますから」
「ありがとうございます」
それなりの付き合いだ。
リセは、俺のことを信じてくれている様子。
ならば、その期待に応えてみせよう。
――――――――――
「土よ、我が意に従いその力を示せ。アースクリエイト!」
タイミングを図り、魔法を唱えた。
大地が盛り上がり、大きな土の塊が浮き上がる。
それは矢となり、フェンリルに向かうのだけど……
「はっ!」
その手前で、リセが石を投擲して、土の塊を砕いた。
大小様々な欠片になる。
「風よ、我が意に従いその力を示せ。ウインドクリエイト!」
続けて魔法を唱えた。
ゴゥッ! と強風が吹く。
それは小さな竜巻となり、フェンリルを中心に吹き荒れる。
そこに砕かれた土の破片が混ざり……
「グルァ……!?」
風と土の乱舞。
そこに囚われたフェンリルは、嫌がる素振りを見せて、身をよじらせた。
目や口に土が入り、まともに動けない様子。
「今でありますよ!」
ここぞとばかりに、リセは、メイン武装である剣を投擲した。
この隙を逃してはいけないと、今できる、最大の攻撃を選んだのだろう。
そして、それは正解だ。
リセの剣は、矢のように鋭く飛んで、悶えるフェンリルを捉えた。
そのまま尻尾の付け根辺りに刺さる。
「ガァアアア……!?」
フェンリルは痛みに悶えた。
体をよじり、大きく動いて刺さった剣を抜こうとするが、抜けない。
致命傷には程遠いが、これで十分。
尻尾に刺さった剣が楔となり、痛みから、まともに尻尾を操ることはできないだろう。
少なくとも精度はガクンと落ちるはずだ
今が攻撃のチャンス。
「いきましょう」
「ええ!」
リセとタイミングを合わせて前に出た。
フェンリルがでたらめに暴れ回っていて、なかなか先を読むことができない。
ただ、考えて動いているわけではないため、動きは雑だ。
焦らず、まずはしっかりと動きを読む。
読み切ったところで距離を詰めて、拳を繰り出した。
「グァ!?」
ヒット。
確かな手応えが拳に伝わる。
作戦は成功だ。
二人で協力して、連携攻撃を叩き込む。
言葉にすると単純ではあるが、いざ実際にやるとなると、かなり難易度が高い。
日頃、訓練を共にしているのなら、なんとなく相手の動くことがわかる。
しかし、リセと訓練を共にすることはない。
共闘も数えるほどだけだ。
普通は無理なのだけど……
俺がリセに合わせることにした。
主にそうするように……
動きを邪魔することなく、補佐に徹して、リセのやりたいようにやらせる。
好きに戦ってほしい。
それに合わせて、こちらも戦い、サポートをする。
それが、さきほど伝えた作戦の内容だ。
結果は上々。
リセは自由に、思う存分に力を振るうことができて……
俺も、そんな彼女と連携をとることで、いい感じに動くことができた。
「それにしても、すさまじいでありますね……普通、いきなりの連携なんて失敗するのでありますが」
「リセ殿を、一時的に主のように考えて、その補佐をしたまでです。執事としては、当然の能力かと」
「当然ではないかと……」
リセがちょっと引いていた。
なぜだ?
◇ お知らせ ◇
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ざまぁ×拳×無双系です。よろしければぜひ!




