270話 嘘だろう?
「嘘だろう?」
ついついそんな声がこぼれてしまう。
あれから再び話し合いが行われて、対ベルカの作戦を詰めていった。
ベルカ達が立てこもる古い要塞に潜入。
兵器の情報を収集して、必要とあれば破壊。
その後、アカネイア同盟国の軍が突撃……という流れになっていたのだけど。
「アルム君?」
「あ、いや……失礼いたしました」
素の声を出してしまった俺は、慌てて頭を下げた。
執事としてあってはならないミスだ。
ただ、この時ばかりは言い訳させてほしい。
なぜならば……
「その……潜入は私とリセ殿だけではなくて、パルフェ王女もご一緒というのは、本当なのですか……?」
そう。
リセはともかく、パルフェ王女も潜入メンバーに選ばれていた。
驚いても仕方ない、と言い訳させてほしい。
「さすがのアルム君もびっくりしちゃうのは、ものすごくわかるけどね……」
「なに、心配はいらないさ。ボクは、こう見えて戦いが得意でね。大の男達をバッタバッタとなぎ倒す夢をたまに見るよ」
「夢じゃないの……」
「えっと……なにか理由があるのだと思いますが、それはなんでしょう?」
いくらなんでも、普通の思考でパルフェ王女を突撃させるなんてこと、ありえない。
リスクが大きすぎる。
そのリスクを大きく上回るリターンがあるからこそ、なのだろうが……
今のところ、俺には思い浮かばない。
「おいおい。ボクの特技、忘れたのかい?」
「……魔物の調教ですか?」
「そそ。潜入にはぴったりだと思うだろう?」
「それは……」
否定することができない。
魔物は、動物と同じように身体能力に優れている。
嗅覚や聴覚などの五感も優れている。
魔物という存在だからなのか、個体によっては、普通の動物の何倍、何十倍の五感を持っているらしく……
そんな存在が味方になるのなら、これ以上ないほど頼もしいだろう。
「いくらキミでも、魔物の五感に匹敵する能力は持っていないだろう?」
「そうですね……せいぜいが軍用犬程度でしょう」
「……軍用犬くらいはあるんだ。いや、反応に困る答えをしないでくれるかな……?」
どうしろと?
「ま、そんなわけだから、ボクが魔物を連れていけば、その能力を使ってより潜入しやすく……作戦の成功率が上がる、っていうわけだよ」
「それは……そうかもしれませんが、それでも、さすがにリスクが……」
作戦の成功率を上げる。
それはとても大事なことではあるが、しかし、そのために王女を最前線に突撃させるなんて、まだリターンが上回ることはないだろう。
「アルムよ、すまないわね」
フェリス王女が申しわけなさそうに言う。
「本当なら、あたし達もこんな作戦は認めたくないんだけど……ただ、今回の作戦は絶対に失敗するわけにはいかないの。作戦の成功率を99パーセントじゃなくて、100パーセントにしなくてはいけない。そのようなことは不可能だけど……でも、限りなく100に近づけないといけないの」
「それは……」
フェリス王女の言いたいことはすぐに理解した。
もしもベルカの企みが成功したら?
アカネイア同盟国は消滅して、再び帝国が誕生するだろう。
そして……
その帝国は、まず間違いなくフラウハイム王国に矛を向けるだろう。
かつての帝国は、フラウハイム王国の関与で滅びた。
その恨みを忘れている、なんて都合のいいことはないだろう。
「今回の作戦の失敗=王国の危機、ってことなのさ。ま、実際にはいくつかの工程が間に入るだろうけど……失敗したらベルカは激怒して兵器を使用するだろう。ここまで強気に出ているんだ、ただのハッタリじゃないと思うぜ? 今、使わないのは、かつての帝国民を気遣っているだけ。いざとなれば民を巻き込んで、なにがなんでも目的を達成……つまり、帝国を復活させると思うかな」
「……」
まったく反論できない。
「そんなことになれば『最悪』の一言に尽きる。絶対に防がないといけない。そのために、なんでもするべきだとボクは思うぜ?」
「……わかりました」
ダメだ。
パルフェ王女に口で勝てる気がしない。
というか……
フラウハイム王国の王女、全員に口で勝てる気がしない。
王族の気質なのか。
それとも、王国の女性は、皆、たくましいのか。
「パルフェ王女のことは、私が命に賭けても守ってみせましょう」
「自分もできる限りのことはさせていただくのでありますよ」
リセもサポートを申し出てくれた。
ありがたい。
ひとまず話が落ち着いたところで、さらに先の段階へ……
「あ、悪いね。作戦の詳細を詰める前に、ボクからお願いがあるんだ」
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
『「パパうざい」と追放された聖騎士、辺境で新しい娘とのんびり暮らしたい』
https://book1.adouzi.eu.org/n7980kj/
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