257話 めんどくさい人
「……」
「……」
城にある王の私室。
そこで俺は、ゴルドフィア王と対面していた。
当たり前ではあるが、王の部屋は広い。
数々の調度品だけではなくて、壁などに武具が飾られていた。
王の気質を表しているのかもしれない。
それだけではなくて、部屋の一角に畳が敷かれて、茶室が作られていた。
東の国に伝わるもので、こちらではなかなかお目にかかれないものだ。
王は東の国に詳しく、また、その文化に感銘を受けているらしい。
だからこそ、わざわざ東の国から畳を取り寄せて、自室に茶室を作ったという。
その茶室で、俺はゴルドフィア王と対面しているのだけど……
「単刀直入に聞こう。貴様……シロのことをどう思っている?」
剣の柄を握りつつ、太く強い声でそう尋ねてきた。
……俺は今日、死ぬかもしれない。
「とても素晴らしい方かと」
「それだけか?」
「具体的に言うのならば、可愛らしく、ブリジット王女とは違うベクトルで民からの人気が高いです。一方で、貴族からの評判は微妙ではありますが、まあ、気にすることはないでしょう。彼女の才能を真に知ることになれば、一転するはず。事実、そのような貴族は最近多くなっています……とはいえ、これは、王が求める感想ではないのでしょう」
「続けろ」
「優しく、子供らしく元気で……それでいて、きちんと相手のことを考えることができる。相手の立場になってものを考えて、そして、適切な解決法を導き出すことができる。とても優秀なのでしょう」
それだけではないか。
そう思い、さらに言葉を重ねる。
「優しく、聡明な方かと。ブリジット王女に似ているところもありますが、違う優しさや賢さを持っていて、将来はとても有望でしょう」
「そういうことを聞いているのではない!」
王は、どんと床を叩いた。
「女としてどうなのか、ということを聞いておる」
「それは……」
返答に困ることを聞かないでほしい。
「……素敵な女性だと思います」
「ほう、そうか……やはり貴様は、ブリジットだけではなくて、シロにまで手を出す獣だったか」
王の目がギラリと不気味に輝いた。
剣の柄を握る手に力が込められる。
素直に答えただけなのに、どうして……
「まだ幼いですが……ただ、歳は関係なく、魅力的ではあると思います」
「やはり……!」
「……自分は、ブリジット王女を一番と考えていますので、シロ王女の好意には応えられないと、そうお断りいたしました」
「貴様! シロでは不満だというのか!?」
どうしろと……?
不敬だと重々承知しているのだけど……
この王様はめんどくさいな、と思ってしまうのだった。
「……断るというのが、貴様の答えなのか?」
「はい」
シロ王女のことは、とても好ましく思う。
ただ、妹のようなもので、恋愛対象ではない。
「貴様の立場ならば、困難かもしれぬが、妾にするという手もある」
「執事というだけではなくて、この心は、ブリジット王女に捧げていますので」
「ふむ」
王は考えるような顔に。
ややあって、剣の柄から手を離した。
「能天気にシロも欲しいなんて言い出したら斬るつもりでいたが……まあ、いいだろう」
さらりと物騒なことを言わないでほしい。
「ただ」
王は困ったように言う。
「知っているだろうが、シロは諦めていない」
「そう……ですね」
「誰に似たのか、あれで強情なところがあってな。こうと決めたことは、よほどのことがない限り曲げることはしない。これからも貴様の回りに顔を見せるだろう」
「それは、さすがに止められるものではないかと」
止めてはいけない、とも思っている。
「うむ。故に、好きにさせてほしい」
「わかりました。もとより、自分が干渉するつもりはありませんでした」
「そして……結果的に、シロも手に取ることになったとしても、それはそれでよい」
「え」
予想外の言葉に、ついつい呆けてしまう。
王は苦い表情だ。
ただ、どこか諦めている様子でもある。
「それがシロの望み、願いというのならば、どうすることもできぬ。叶うかどうか、それはなんとも言えぬが……もしも貴様が受け入れるというのならば。その想いが本物であるというならば、儂は認めよう……それは覚えておけ」
「……わかりました」
それもまた、王の覚悟なのだろう。
それを受け止めた俺は、静かに頷いた。




