251話 姉として女として
「ふぅ……」
執務の途中。
私はペンを置いて、吐息をこぼした。
幸いというべきか、今はアルム君はいない。
所用を頼んでいて席を外している。
よかった。
今の私は、「すごく悩んでいます」っていうような顔をしていると思うから、心配をかけてしまう。
「うーん……シロちゃんのこと、どうしよう?」
シロちゃんがアルム君に惚れてしまった。
今までも、好きって言っていたんだけど……
それは憧れのようなもの。
本当の好きじゃないと感じていたから、ちゃんと向き合わないでいた。
たぶん、そのうち自分の気持ちに気づくよね。
本当の恋を知るよね。
そんな感じで、楽観的に物を見ていたんだけど……
「……シロちゃん、本気でアルム君のことを好きになっちゃった」
シロちゃんがアルム君を見る目が今までと違う。
どこがどう違うのか?
それを具体的に説明することは難しいけど……
同じ女として感じた。
あぁ……シロちゃんは、アルム君に本気で恋をしているんだなぁ、って。
「でも、仕方ないよね」
変態ロリコンストーカー王子に狙われて。
かなり危ないところまで追い詰められて。
でも、そこを颯爽とアルム君に助けてもらった。
自分の体を盾にするかのようにして、身を呈してかばってもらった。
うん。
ここまでしてくれて惚れない女なんていない。
惚れて当たり前。
「それに、アルム君はかっこいいからなぁ……普段は、どこかぽーっとしたところがあるんだけど、いざという時はキリッとなるし。なんでもできるだけじゃなくて、気遣いもできて、すごく優しくて……あとあと、料理も上手なんだよね。アルム君の作る料理って、それはまあ、一流のシェフには敵わないんだけど、でも、すごく温かくて優しい味。食べたら幸せになっちゃう♪」
って……
いつの間にか、一人で惚気ていた、私?
ダメダメ。
今はシロちゃんのことを考えないと。
「今は、私がアルム君と、その、えっと……つ、付き合っているけど! 私が彼女だけど!」
なんか、ものすごく恥ずかしい。
「でも……シロちゃんの気持ちも、すごくわかるんだよね」
姉として。
同じ女として。
恋は止められない。止まらない。
切なく、寂しく、辛かったとしても。
シロちゃんは、たぶん、決して止まらないだろう。
「うー……シロちゃんの初恋、報われてほしい。ほしいけど、でも、私がアルム君と付き合っているのに……だけど」
頭がぐるぐる。
葛藤でパンクしてしまいそう。
以前は、みんなを側室に……なんて話をアルム君に話したけど。
当時の私、なにを考えていたの?
バカなの?
なにも考えてなさすぎる。
もっと考えてものを言いなさい、私。
「でも……」
アルム君を独り占めしたい、っていう私の心がポイントになっているだけで、他に問題はないんだよね。
側室が禁止されているわけじゃない。
むしろ推奨されている方だろう。
私もシロちゃんも王族。
なればこそ、できるだけ多くの血を残しておいた方がいい。
もちろん、血が多すぎると跡目争いの泥沼展開になるパターンもあるんだけど……
あれって、だいたいが親とその周囲の責任だと思うんだよね。
余計な野望を抱くから子供を担ぎ上げようとする。
仮にシロちゃんが側室になった場合、そんなバカなことは絶対にしない。させない。
なので、そういうところをしっかりと見定めて相手を選べば、まったく問題ないと思う。
「……あれ? そうなると、反対する理由がない?」
私の心の問題だけ。
他、条件は全てクリアーだ。
あ、いや。
お父様という問題が残っているけど……
「まあ、今回の場合、お父様に発言権はないかな? 娘の恋路に口を出す親なんて、さすがに……いざとなれば、お父様嫌い! って言えばいいかな」
……そんな感じで。
私は執務を一時停止して、あれこれと頭を悩ませるのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
新連載です。
『悪魔と花嫁に祝福を~初心者狩りに遭った冒険者だけど、悪魔に一目惚れされて溺愛されることになりました~』
https://book1.adouzi.eu.org/n8526kd/
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。




