219話 シロちゃんの過去
「……と、いうことがありました」
翌日。
ブリジット王女の執務室でサポートをしつつ、シロ王女のことを話した。
気軽に広めていい話ではないけれど、ブリジット王女なら問題はないだろう。
「なるほど……相変わらず、シロちゃんってすごいね。まさか、そんなものを発明していたなんて」
「わりとよくあることなのですか?」
「ここまでのものはそうそうないけど……でも、うん。細かい発明品は毎日のように。今回のようなすごく大きな発明品は、たまに、っていう感じかな?」
たまに、あのようなものを開発してしまうのか……
すごい、の一言に尽きる。
シロ王女は、紛れもない天才なのだろう。
「なので、近いうちにブリジット王女のところにも、シロ王女から話が飛んでくるかと」
「うん、了解」
ブリジット王女は笑顔で頷いて……
それから、たはは、と苦笑する。
「でも、事前に教えておいてもらってよかったよ。当日、いきなり聞いたら、ものすごく驚いていたかも」
「それは……そうかもしれませんね」
今回のシロ王女の発明は、それだけすごいことだ。
エネルギー革命が起きるかもしれない。
王国がさらに発展するかもしれないし……
あるいは、予期せぬトラブルで衰退するかもしれない。
「ところで……これは、ただの疑問なのですが、シロ王女はいつからあのような発明をするように?」
「うーん……物心ついて、少ししてから、かな?」
「……すさまじいですね」
「アルム君もすごいけどね」
ブリジット王女曰く、3歳か4歳くらいの頃に魔道具に興味を持つようになって。
それから、毎日、魔道具に触れて。
気がつけば、自分で新しい魔道具を開発するようになっていたという。
「ただ……姉としては、ちょっと複雑なんだけどね」
「と、いうと?」
「シロちゃんが魔道具にのめりこむようになったのは、たぶん、体のせいだから」
シロ王女は、幼い頃、とても体が弱かったらしい。
少し運動をしただけで息切れをして、それが改善されることはない。
少し外に出ただけで、体調を崩して寝込んでしまう。
今でこそ良くなったものの、昔は、かなりの虚弱体質だったとか。
故に、外に出ることはほとんどなくて、自室で過ごすことばかり。
王族としてのマナーを学ぶこともできず、ただただ、部屋でじっとするだけ。
とても辛いだろう。
そんな時、シロ王女は魔道具と出会った。
不思議な設計で、思いもよらない効果を生み出してくれる。
そして、自分の体も癒やしてくれた。
もっと知りたい!
シロ王女は、その日から魔道具のことで頭がいっぱいになって、ひたすらに研究をして学んで……
そうして、天才的な才能を開花させたらしい。
「シロちゃんががんばっているところを見るのは嬉しいんだけど、でも、同時に複雑な気持ちになっちゃうの。もっと元気な体だったら、他の道もあったんじゃないかな、って。魔道具の道しか選べないのはどうなのかな、って」
「それは違うのではないでしょうか」
主の意見に異を唱えるなんて、あってはならないことなのだけど……
今は、ブリジット王女の専属ではなくて、彼女の恋人として言おう。
「確かに、シロ王女の過去を考えると、他にできることはなかったのかもしれません。他の道を選ぶのは難しいでしょう」
「うん。だから私は……」
「ですが、今のシロ王女は不幸でしょうか?」
「……ぁ……」
ブリジット王女は目を大きく見開いた。
「他に選べる道がなかったとしても。それでも、今のシロ王女は、とても楽しそうにしています。魔道具について、笑顔で色々と話をしてくれています。なら……それでいいのではないでしょうか?」
「……うん、そうだね」
ブリジット王女は優しい顔で頷いた。
「他の道があったかも、なんて……はぁあああ、ダメダメだね、私。上から目線というか、もう酷い意見で……あぁ、穴があったら入りたい」
「どうぞ」
「なんで執務室に穴があるの!?」
「こういう時のために」
「アルム君のいざという時の想定は、想定しすぎじゃないかな!?」
ややあって、共にくすりと笑う。
「なにはともあれ」
「シロ王女のために、俺達もがんばらないといけませんね」
やりたいことをやり、笑顔を浮かべているシロ王女。
その輝きを消さないために、もっと明るくするために、できることをしていこう。




