211話 いつの時代もどこでも悪は栄えない
「「「……」」」
虚ろな目をした執事やメイド達が、声もなく襲いかかってきた。
「アルム君! この人達は……」
「わかっています」
いざという時、このような使い方をするために、ドレイクは、俺達だけではなくて他の執事やメイド達にも隷属契約を結ばさせていたのだろう。
いや。
まともな意識が残っていないところを見ると、また別の契約だろうか?
どちらにしても、この人達はドレイクに操られているだけ。
傷つけるわけにはいかない。
「っ……!?」
執事やメイド達は、ゾンビのごとく突撃してくるのだけど……
思っている以上に速い。
そして、力も兼ね備えている様子だ。
捌くのを止めて、後ろに跳んでブリジット王女のところまで後退。
「失礼します」
「ひゃっ!?」
彼女の腰に手を回して、その体を抱えた。
そのまま跳躍して、一緒に部屋の対面に避難する。
「アルム君、だ、大胆だね……」
「必要なことなので」
そういう発言をしないでほしい。
俺も意識してしまうではないか。
「くくく、強気な発言をしたかと思えば、逃げ回ってばかりではないか。色々な武勇を聞いていたが、所詮、尾ヒレ背ヒレついたものだったか」
「それは、自分の目で確かめてもらおうか」
ブリジット王女を背中に守りつつ、執事やメイド達と戦う。
操られているせいで、体にかけられているリミッターが外れているのだろうか?
かなり力が強く、まともに押し合うと負けてしまいそうだ。
ただ、それだけ。
『技術』というものがまるでないため、簡単にあしらうことができた。
拳を受け流して、さらに、相手の力を利用して床に押し倒す。
そこを狙い、魔法で拘束する。
まとめて襲いかかってきても、やることはさほど変わらない。
四方八方から攻撃が飛んでくるのだけど……
やはり技術がないため、対処は容易だ。
それぞれの拳撃、襲撃を捌いて、一人ずつ順に組み伏せていく。
そして魔法で拘束。
それの繰り返しで、ほどなくして敵の制圧に成功した。
「なっ……!? あ、あれだけの人数をたったの一人で……しかも、こんな短時間で制圧するだと!?」
「次はお前だ」
「くっ……このようなところで終わるわけにはいかぬ!」
今度は、ドレイク自身が襲いかかってきた。
隠し持っていた護身用のナイフを手に取ると、鋭い突きを放つ。
「ふむ」
その動きは洗練されていて、そして速い。
少し侮っていたみたいだ。
ただ椅子にふんぞり返り悪巧みをしているのではなくて、それなりに鍛錬を積んでいたらしい。
……ただ、『それなり』というレベルではあるが。
「甘い」
「がっ!?」
突き出してきた腕に、自分の腕を絡めた。
そのまま極めて、ナイフを奪い、さらに体も倒してみせる。
「このっ……!」
「動くな」
「……ぅ……」
奪い取ったナイフを眼前に突きつける。
「これ以上抵抗するのなら、容赦しない。痛い思いをして逮捕されるか、痛みを覚えることなく逮捕されるか。どちらがいい?」
「くっ……」
「ちなみに、俺は拷問の術も心得ている」
「どんな執事なの……?」と、ややブリジット王女が引いていたものの、今は気にしない。
脅しは必要だ。
「……降参する」
ドレイクはがっくりとうなだれて、かすれるような声でそう言うのだった。




